11.聞き間違い

 爽やかな朝。


 爽やかじゃない満員の電車に乗り、さやかちゃんと学校に向かう。電車を降り学校までは歩きだ。何十人もの生徒がぞろぞろ歩いている。


 おや、学校の前に人が何人も立っているみたい。


「ん? なんかいっぱい人いるね」

「なんだろう?」


 近付いていくと、声が聞こえてきた。


「おはようございまーす」

「おはようございます」


 そう言っている生徒の腕には、風紀委員の腕章。


「挨拶週間的なやつかな」

「そうかもしれないね」


 もっと近付いていくと、髪の長い女子生徒が茶髪でハーフアップの男子生徒……宇佐見先輩に絡まれていた。


「あ、八(や)乙女(おとめ)ちゃん、今日も頑張るねぇ」

「うわ、宇佐見。邪魔しに来たの?」


 とても絡まれている。


「いやいや違うよ。朝から八乙女ちゃんと会えて嬉しいなって思ってね」

「ウザい」


 相手にはされてないようだ。


「あ、猫ちゃんとさやかちゃん」


 私達二人に気付いたようだ。あの時だけなのによく覚えてるなぁ。


「おはよう」

「お、おはようございます」


 にこにこと笑顔で挨拶をされ、ちょっと挙動不審になってしまった。


「宇佐見……まさか後輩にまで手を出したの」


 訝しげに宇佐見先輩の顔を見た八乙女先輩。


「ちょっと人聞き悪いなぁ。ただ仲良くしてるだけだよ」

「胡散臭い」


 仲が悪い感じではないのかな?


 そして先輩とさやかちゃんが、部活の話をし始めたときにようやく思ったことがある。


 今、私のこと猫ちゃんって呼ばなかった?


 気のせいか? などと考えているうちに、話は終わったようで。


「それじゃあ、三人とも今日も良い日になるといいね」


 そう言って、宇佐見先輩は行ってしまった。


「ウザいな。二人ともごめんね、変な奴で」


 八乙女先輩はそう言って、委員の仕事に戻った。


「宇佐見先輩、今私のこと猫ちゃんって呼ばなかった?」


 さやかちゃんに確認する。


「え? そうだった?」


 聞き間違いかもしれない、きっとそうだ。そう思いながら教室に向かった。


 とにかく今日の始まりはとても賑やかだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る