誰がスキ?誰がキライ?

「きゃっ!」


「いい加減にしてよ!」


自分でも、こんなことしちゃいけないって分かってるのに。止められない。止まらない。憎悪と、卑しさがムクムク沸いてくる。


「じゃあ、なんで……なんで拓真と付き合ってたの……?なんで拓真と一緒にいたの?拓真は、拓真は矢萩ちゃんが好きだったじゃない!矢萩ちゃんも、好きなんじゃ、なかったの……?最近の拓真の顔、見たことある?いつも馬鹿やってるアイツが!矢萩ちゃんのほう見つめて悲しげにしてるんだよ?好きって、そういう悲痛な思いが拓真にはあるんだよ?なのに、矢萩ちゃんは、それを無視して私?冗談だよね?拓真があんなに苦しそうにしてるのに!私の思いも考えてよっ……、考えてよっ!!」


自分の頬に一滴、流れる涙。それは、悲しみじゃない。じゃあなに?分からない。だから気づかないふりをした。


 彼女は、寂しさ、悲しみ、戸惑い……色々な感情を表した、歪んだ表情になっていた。空いた口が塞がらないらしい。私もまくし立てて息が上がり、何も言えなくなってしまった。


 どれくらいの沈黙?破ったのは、矢萩ちゃんだった。


「……晴海ちゃんは、たっくんが、好きなんだね。」


は?たっくんて何?拓真のこと?そんなふうに呼んでたんだ。


「矢萩ちゃん、に、は関係ないでしょ。」


「え」


「私が、拓真のこと好き、とか、関係ない。」


もうここにいたくなくて、荷物を持って歩きだした。


私の方を、矢萩ちゃんは視線は追っていたけど、後悔したような顔で、渋っていた。そこから動けなくなっていて、私のことも、追ってはこなかった。


 私も、これでもかってくらい、後悔した。






『……晴海ちゃんは、たっくんが、好きなんだね。』


「あぁーもう!うるさいうるさい!!」


ショッピングモールから帰ってきて、自分の部屋に直行する。なぜかその言葉を思い出しては、悶々とする。


 勉強机に突っ伏すと、横に積み上がった本が目に入った。その1番上の本を手にとる。矢萩ちゃんから借りた、“それは愛か、それとも嘘か”の小説版。昨日に読み終わり、今日返そうとして忘れたやつ。これを見て、またイラつくのだ。


 矢萩ちゃんにとって、拓真はどういう存在だった?矢萩ちゃんが向けてた拓真への愛は、嘘だったの?


 てか、なんで私があの2人の関係性に首を突っ込まなければならないの?それこそ関係ないよね?人に言う筋合いないよね?


「はぁ」


もう自分のことも分からない。矢萩ちゃんの言う通り、私はまだ拓真のこと好きなの?あんな馬鹿やってる拓真が?そんなことないよ。そうだよ、うん。


 自問自答を繰り返し、やっと結論を見つけた頃には、罪悪感でいっぱいだった。あんなことを純粋な矢萩ちゃんに八つ当たりでぶつけちゃって、彼女を、傷つけた。友達としては、めっちゃ、謝りたい。


 でも、何の通知も来ないLINEを開くと、どうも謝罪の言葉を送れない。


 矢萩ちゃんは、私のこと嫌いになっちゃったかな。


 久しぶりに新しくできた、可愛らしいお友達。


 それを、私は自分の手で傷つけてしまった。

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