ごめんなさい(彩花side)
「あの、矢萩さん、俺と付き合ってください!」
目標を達成したあの日、嬉しさと罪悪感が入り交じった。
ほんとはすぐにでも「はい」と言いたかった。でも、この拓真くんをオトすゲームを思い付いてから、私は狂っていたのかもしれない。
そして今、狂った想いが水風船のようにはち切れて、頭の中が真っ黒になった。訳も分からず、涙も流れた。
「ど、どうしたの矢萩さん?!」
そう言って駆け寄ってくれる彼を視界の端に捉えるが、私はただただ泣きわめくだけだった。
どうしよう、どうしよう。こんなことして、拓真くんに気を惹かせて、コクらせちゃって。好き、でもないのに。拓真くんに申し訳ないことしちゃった。それに、それに……晴海ちゃんはたぶん拓真くんのことが好きだから……!私が拓真くんの彼女になったって、目を向けてくれたって、どうしても憎しみの目でしか見てくれないかもしれない……!
今になって考えてみたら、そうなるのは普通に目に見えていた。どう、しよう。私、取り返しのつかないことしちゃった……。私、私、……。
そのとき、ずっと私の前で固まっていた清潔な石鹸の香りがふわっと私にかぶさった。一瞬、何が起こったのか分からなかったが、ぎゅっとされる温かさに目がくらみそうだった。
「ねえ、俺のこと好きじゃないのは、知ってるよ……?」
「え……」
潤んだ目で顔をあげると、ぼうっとした視界の中でも見える、真っ赤な顔が私の肩に乗っていた。
「知ってるけど、俺、やだから……。好きな人が泣いてるの見てらんないから……。」
「っ……!」
「いつもおとなしめで、でも無邪気な顔で笑ってくれる、そんな彩花さんが好きだから。だから、泣かないでよ。」
「……」
「友達のままで、いいから。」
「ごめっ、なさ………」
その優しさに少し、触れたくなった。だから、まだ離したくないというように、拓真くんの胸板に額をぐりぐり擦り付ける。そして、私も少し照れてしまった。
ずっと晴海ちゃんのことで頭がいっぱいで。今まであんまり誰とも接してこなくて。
だから、久しぶりの人の温かさが、自分を癒してくれた……。
「おい泣くなって……」
「相談、」
「え?」
「相談、したいことがあるんです。いいですか?」
緊張した空気の中、今まで私の心の内に秘めていた想いを全部、拓真くんにぶつけた。
彼は、顔を少し、歪ませていた。
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