第41話 落日 その2

石間が車を駐車し終えると、柵木はカバンを持って車を降りた。


すると、すぐに白毛混じりの60代と思われる男性と、20代のどこかで見たことがあるような女性が柵木に近づいてきた。


「柵木社長と秘書の石間さんですね?」


男が柵木に話しかけてきた。


「どちらさまでしょうか?」


「私、日沖探偵事務所の社長をしております、日沖政仁と申します。こちらは部下の真石です。彼女のこと、見覚えありませんか?」


「以前、自宅の前で喫茶店ミドルウェアの場所を教えていただき、本当にありがとうございました」


真石という女性は、そう言って丁寧に頭を下げた。


「ああ。あの時の」


「思い出して、いただけましたか?」


「ええ」


「すいません。何の御用ですか?」


石間が少し怖い顔をしながら、話に割って入ってきた。


「お二人にどうしてもお伝えしたいことがあったので、お待ちしておりました。我々は、ここ3ヶ月、奥様である祐美子さんの依頼を受け、柵木社長の身辺調査をしておりました」


「祐美子が?」


「はい。初めは柵木社長が何か悩みを抱えているようなので調べて欲しいというものでしたが、そこから息子さんや鍛治田部長の件が分かり、我々はそれらの問題も解決するよう依頼を受けておりました」


「なるほど。それで息子の話も表に出ず、鍛治田の件もスムーズに運んだのですね。ありがとうございます」


柵木がお礼を述べると、突然、真石からメールの着信を知らせるチャイム音が聞こえた。


「失礼します」


真石はすぐにポケットからスマートフォンを取り出し、画面を見た。


「社長。全て終わりました」


「そうか」


真石の報告を受けた日沖は、再び柵木の方を見て、口を開いた。


「今、部下から天川を確保し、警察に通報したと連絡が来ました」


「本当ですか?」


「はい。そして、石間さん。柵木社長の居場所を天川に知らせたのはあなたですね」


「えっ?」


柵木は石間の方に視線を向けた。


天川の仲間だと名指しされた石間は、最初険しい顔をしていたが、少しして柔らかな表情を作り口を開いた。


「その通りです、日沖さん」


「柵木社長と一緒に死ぬつもりだったんですか?」


「ええ。この世でダメなら、せめてあの世で一緒になりたいと思ったのですが……。残念。それも叶いませんでした」


石間はそう言って、その場に座り込んだ。


パトカーのサイレン音が、地下駐車場の中をこだまし始めた。

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