第30話 犯人は誰? その1

上井たち日沖探偵事務所のメンバーは、事務所に集まり、柵木ビル情報漏洩事件を解決するための会議を開いた。


司会を務める中里理栄が、モニターの前に立ち口を開いた。


「これより、会議を始めます。まず最初に、先日、柵木ビルのテナントに入り、ホームゲートウェイを調べた結果から報告いたします。パソコンに繋げホームゲートウェイのプログラムを調べたところ、マルウェアによって情報が別の所に転送されていることが分かりました」


そう言って理栄がノートパソコンをタッチすると、モニターに外から撮った一軒家の画像が映し出された。


「情報が送られていた場所は、寺越文和というフリーのプログラマーの自宅です。彼は現在、闇カジノにいた所を警察に踏み込まれ、取調べを受けています」


「サーバーの方は警察が回収したのですか?」


真石早希が手を挙げて質問した。


「いえ。聞き込みによると、警察が調べようとした時には、すでにサーバーは壊されていたそうです。その際、人が押し入った様子が全くなかったので、警察は寺越が遠隔操作で壊したと見ています。彼が書いたプログラムを見ましたが、そのくらいのことは簡単にできる人です」


「理栄さんは、情報を抜くためのプログラムを書いたのは寺越だと考えているんですか?」


今度は冨田丈洋が手を挙げて質問した。


「経歴と状況、それとプログラミング能力を見る限り、彼だと思います」


「了解しました」


理栄は再び画像を切り替えた。そこには上井と理栄が出会った登野城警備保障の社員3人の姿が映し出された。


「次に登野城警備保障で働いている3人の男性についての調査結果をお伝えします。まず登野城警備保障は、光塚組のフロント企業です。柵木ビル管理事務所の鍛治田総務部長によると、情報が抜かれていると思われるテナントには、この3人がよく同じシフトで回っているそうです」


「あー、その件について」


社長の日沖政仁が手を挙げた。


「登野城の営業部長は違法プログラムを仕込んでいることを認めているので、犯人は間違いなく登野城の人間だ。我々はとりあえずこの3人にあたりをつけて調べていく」


日沖が話し終えたのを見て、理栄が画面を切り替えた。


すると、画面にはビルの入り口で上井たちを迎えてくれた井田の顔が映し出された。


「彼の名前は、井田貴志。51歳。登野城警備保障の現場責任者です。彼は以前、雑貨業を営んでいましたが、資金繰りがうまくいかず会社を倒産させてしまいました。その時、光塚組が彼の残った借金を肩代わりしたので、以来、井田は登野城の忠実な社員になっています」


理栄が再び画面を切り替えた。次に映し出されたのは、上井たちを怒鳴りつけた片山という男だった。


「次に彼の名前は片山道夫。34歳。光塚組の構成員ですが、登録上、そうではないことになっています。若い頃から銀座に出入りし、そこで様々な有力者と知り合ったことがきっかけで、今の道に入ったそうです」


理栄がまた画面を切り替えた。そこに映ったのは、帰り際、井田と口論していた舘という男の顔だった。


「最後に彼の名前は、舘明仁。27歳。以前IT会社に勤めていたこともある人物で、2年くらい前から登野城警備保障で働いています。彼には一応プログラミングの知識がありますが、今回のプログラムを書いた人物ではないと思われます」


「それはなぜですか?」


冨田が質問した。


「あれだけの能力があるのなら、警備員の仕事をする必要がないからです」


理栄ははっきりとした口調で答えた。


「以上、違法プログラムを仕込んでいる可能性がある3人の人物についての情報です。何か意見はありますか?」


「舘はなぜ、警備員の仕事をしているのですか?」


早希が手を挙げて質問した。


「周囲には昼間の仕事だと大学の同級生に会うから嫌だと答えていました。彼は一流大学を卒業しているので、プライドが許さないのでしょう。他に何かありますか?」


理栄の呼びかけに対し、それ以上、誰も発言しなかった。


「では、社長。捜査方針について指示をお願いします」


理栄は社長の日沖に話を振った。


「うん。おそらく3人の内の誰かが、ホームゲートウェイにマルウェアを仕込んでいる。仕込むだけなら、素人でも簡単にできるからな。そこで、3人のうち誰が犯人か特定できるいい方法があるなら、今ここで発言してくれ」


「社長。罠にかけて現行犯逮捕しましょう」


上井が手を挙げて答えた。


「罠?」


「はい。鍛治田部長と連絡をとって、今度彼らが警備に入る新しいテナントを教えてもらうんです。そこで彼らを待ち伏せして、マルウェアを仕込んだ所を現行犯逮捕しましょう」


「なるほど。それが一番手っ取り早くて確実だな。よし。その作戦で行こう。裕一郎、今すぐ鍛治田部長に電話をして、協力を頼んでくれ」


「はい」


上井はスマートフォンを手に取り、鍛治田に電話をかけた。

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