第4話「入学式はおうちで」

「——入学式始まるよ」


「ああ、準備してるよ……」


「なによ、私が言ってからしてるじゃん」


「いいじゃんか、どうせオンラインだし」


「……ははっ、まぁそれもそうかぁ……」


 10Kのマンション、その一角で藤崎と御坂はパソコンに視線を向けて座っていた。昨日の疲れが残っているのか、久々に動かした両脚が若干の筋肉痛らしい。


 まったくもって情けないが、受験勉強やらなんやらで酷使することは一ミリもなかったし、これは当然と思われたいところだ。


 しかしまあ、昨日は適当に大学を回り、学食を食べ、自由放任主義で有名な大学というものを肌身で感じることが出来た。足の疲れに代えて、収穫は割と悪くはない。


 キャンパスを歩くと、当たり前かもしれないが皆が私服で、誰が上級生かも分からない。


 慌ただしく研究室へ向かう学生やノートPC片手に自信気に歩く学生、スーツ姿で携帯片手に歩くサラリーマンの様な学生もいて、その多種多様さに藤崎は驚いていた。


 なかでも、「Sorry, where is the department of education?」とアフリカ系の留学生に聞かれたときは特に驚いた。


 さすが大学だ、様々な人間がいる。あの時以上に、英語を勉強していたことに感謝したことはない。


 

 ——そして、それから十数時間が経った今日。


 新型の某ウイルスの蔓延に伴って全国的なオンライン授業化が進んだことによる影響を藤崎たちが通う地方大学も受けていた。


「なんか、そっけないよな。オンライン授業ってよ」


 パソコンを覗く藤崎は唐突に言う。

 すると、隣に座っていた御坂が苦笑いしながら言い返した。


「あはは……でも仕方ないよ。あんなことあったら怖くもなるしさ、いろいろあったじゃん?」


「まあ……、そう言われたら仕方ない、か……」


「……でも、でもさっ——!」


 すると、俯いた藤崎の背中に御坂は飛びついた。


 ドンっとぶつかる背中と彼女の胸、そして圧し掛かる女の子の軽い重み。昔からよくスキンシップはとっていたが大学生になってするそれは少し意味がい違う。大して大きいわけでもないが成長はしている胸が背中に当たって、心なしか頬が赤くなるのを感じた。


「っふぅ~~」


「っあ⁉ ——な、なにっ⁉」


 吹きかけられた温かい吐息、同時に揺れた俺の体がふんわりとした感触を強くさせる。やばい、マシュマロのように柔らかい。吐息で震えたせいで力も入らないし、逆に押し付けてしまった。


 とにかく、やばい。

 ——と、言うことしかできなくなっていた。


「私は——こうやって、家の中で二人で勉強できるのは――――う、れ、し、い、よ?」


「っ……わ、わかったから――揶揄からかうなって……」


 顔を真っ赤にして、御坂の手を外そうとする藤崎だったが——御坂は全くと言っていいほど引こうとはしなかった。さらに笑みを浮かべてぎゅーっと強く抱きしめる。


 おかげで押し付けられる小さく膨らんだ胸。

 心拍数がどんどんと上がっていく。


「うぁっ―—!」


「えへへ~~可愛いなぁ、君はぁ」


「う、うるさぃ」


「え、なぁに?」


「うるさいよ……可愛くないしっ」


 可愛いのはそっちだ——と心の中で呟く藤崎を見るや否や、御坂は頬を抓たり、突っついたりして犬を可愛がるように触っていた。視界の隅から見える彼女の少しだけ赤くなった頬に自分までもが恥ずかしくなる藤崎。


 しかし、昔からマイペースで面倒見がいい御坂は藤崎の事を可愛いペットの様に扱っている。


「は、早くこっち座れ……始まるぞ」


 普通に言っても避けてもらえないことを悟った藤崎は自分の隣を叩いて誘う。


「……」


 それに対して、ハッとした目を向けた御坂。

 少し黙った後、またもやニヤリと微笑んで首の後ろから回していた両手を離した。


「っはぁ……」


 安心して溜息を洩らした藤崎だったが、彼女はそんな隙を逃すことはなかった。


「よっと――!」


「っえ、え、いや——なんで!?」


「なんでって、だめかな?」


 すると、胡坐あぐらをかいて座っていた藤崎の脚に御坂はゆっくりと座った。まるで藤崎が御坂を抱きしめるような感じで、背の低い彼女を藤崎の大きな体で包み込む。


「ほら、早く――てをこうやって、前に回してっ」


「なな、おいお、やめろ!」


「いいじゃん、いっつもやってたでしょ?」


「やってないっって、恥ずかしいからやめろ……っ」


「あらら、男の子なのに恥ずかしいんだぁ……ぷぷぷー」


「っく……は、はずかしいもんはお、男でも恥ずかしいんだよ……」


「はははっ、なんか、余計にいじめちゃいたくなるなぁ~~」


「……くそぉ」


 藤崎は悔しそうに呟いた。

 しかし、そんな彼も、脚の上に座った御坂の嬉しそうな表情を見て頬を赤くしていた。


「はぁい、時間だから見るよ~~」


「……わ、わかった、よ」


 傍から見ても本当に仲睦まじい。

 こんな生活ができるのなら、僕も美少女にフラれた方が良かったのかもしれないなぁ。


 ——あ、でも、僕にはそんな勇気なかったわ。


 テヘペロ。





<あとがき>


 こんばんは、歩直です。

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