村人Aですが、メンテが明けたら俺だけ【最強】でした。〜バグ修正が来ませんようにと願う日々〜

百崎千鶴

詫び石1つ目

 突然だが、メンテが明けた。



(今回は長かったな……)



 ユーザー各位がゲームを追い出されてから、おおよそ16時間ほど経っただろうか。

 いつもは2〜3時間でメンテを終える有能運営なので、これはとても珍しい事だ。



「やあやあ、16時間ぶりじゃな」

「こんにちは。なんだか久しぶりな気がしますね」



 モブ仲間で親しい老人Aは、いつも通りの朗らかな笑顔を浮かべて少しかくつきながらこちらへやって来る。


 ……ん? 少しかくつきながら?



(きっと読み込みに時間がかかってるんだろうな)



 まだバグが残っているんじゃないか? というのは、きっと俺の邪推だろう。


 そもそも、俺の世界操作を担当するプレイヤーは無線LAN環境のせいでラグい事に定評がある。

 ライバルとの通信対戦中、切断され台パンしがちな事にも定評がある。


 だからきっとそのせい……、



「……っ!? 老人A!! 後ろに雑魚モンスターが!!」

「なに!? 武器すら持たんワシの後ろに雑魚モンスターじゃと!?」

(どうしてこんな所に!?)



 俺たちの住む村にモンスター出現のプログラムは組まれていないはずだ。

 それなのに今、老人Aの背後に犬型の雑魚モンスター通称ドッグが3匹現れうなり声をあげながら一斉に襲いかかるではないか。



「うわぁあああーっ!!」

「危ない……っ!!」



 俺も彼と同じく武器を持っていない上ストーリー内でユーザーの操作するキャラクターと会話をするだけの存在なので防御力なんてそもそも設定されていないというのに、とっさに身を呈して老人Aを庇ってしまった。


 これで俺のモブ人生も終わ



「キャインッ!!」

「えっ」



 神様どうか来世はギャルゲーのモブにしてください、と祈りを捧げた瞬間――……俺に噛みつこうとしたドッグは、その牙が肌を貫く前に2匹まとめて消し飛んでしまう。



「ええ……」



 驚きよりも先に、助けてもらった立場のくせに俺を見てドン引きする老人Aに腹が立つ。



「な、なんじゃ……? 誤作動防止のプログラムでも発動され……、」



 立ち上がろうとした老人目掛けて、残りのドッグ1匹が襲いかかる。



「うわぁあああーっ!!」

「くそっ、さっき見た光景だ……!! おい、やめろ!!」



 一瞬でも怯ませることができればと大声を張り上げ、片手をドッグに向けて伸ばした。


 すると……なぜか俺の手のひらから氷魔法が発動し、ドッグの氷像が1体完成する。



(……ああ、分かった。バグだ、これ)

「ええ……」



 だからドン引きするのやめろ、せめて礼を言え。

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