第11話 冴えたやり方

「それは何?」

「この五つが魔石モーターと制御ハンドル。でこれが放水銃」

「銃?パイプと四角い箱とホースが?」

「圧縮とか発射の制御装置。銃はここに取付ける」


 僕はファーの質問に答えながら固定用の部材でリアカーの後部に銃座を取付ける。

 基部はスプリングとリンクジョイントで上下左右フレキシブルに動かせる。

 倉庫から生活用水の20リットルポリタンクを取出し、発射装置と共に座席の上にマジックテープで固定し、ホースで接続する。

 発射装置にあるパワースイッチをON。パルスorフルのセレクターをパルスに。出力を中間程度にして、地上に向け放水銃のトリガーを引く。

 プシュっと炭酸がはじけるような音と共に地表が抉り取られた。


「え?それが水なの?えぐれてるよ?大地が」

「ファー、これはね、科学のウォーターボールってやつだ」

「はぁ、魔法ですか、道理で」

「科学だってば!水を高圧エアで射出してんの!」

「水ってもっと柔らかく優しいものでしょ?」

「ウォーターカッターってのがあって石とか金属とか切れるけど?」

「で、あたしはそれを撃ちまくればいいのね!」


 聞けよ!おまえはトリガーハッピーかよ!


「うかつに撃っちゃだめ。これは足元への牽制とかに使うの。直撃したら危ないからね」

「ちぇっ、つまんない。じゃアキのそれはいいの?撃ってたじゃない」

「こ、これは非殺傷兵器だからいいの!」

「熊?即死って言ってなかった?」

「熊事故死って言ったんだ」


 メディたちが戻って来る。


「いやあすごい。全身の骨が粉砕されてました。あれじゃ慣性力も失いますね」


 ファーがジト目だ!


「ま、魔石はどうだった?」

「幸い、ヒビ一つありませんでした。謎材質ですね」


 メディが差し出す魔石は、馬車に積んであるのと同等のソフトボール大だ。


「馬車のと同じ……色がちょっと違う?」

「そうですね、こっちの方が純度にムラがありますかね。メルバ、あの馬車に積んである魔石はどんな魔獣のもの?」

「飛龍の物と聞いたことがありますが、真偽はわかりません。今回は重要な斥候任務ということで持たされました」


 飛龍ときたか、恐竜かワイバーン的な?

 対空兵器も考えておこう。


「ところでアキ、どうします?移動して距離を稼ぎますか?」

「多少動いても追っ手の方が早いだろうね。なら、まずは造れるものを造っちゃおう。慣らし運転はしたいもんね」


 言いつつ、音響銃をぶっつけ本番で使ったこと、今になって肝が冷えるけど、あの時感じた大丈夫って確信が、自分の奥底にある原理原則から生まれたものなら、僕は今後あの確信さえあれば試運転すらいらない。

 試行錯誤を省略できるってどんな創造チートだよ。


「では、休憩しながら準備しましょう。その前に、メルバ、親衛隊について知っている事教えて」

「ヴォルデフの領主、ゲンデス隊長直属の隊です。十騎の精鋭ですが詳しくは知りません」

「君とリーシャの関係は?」

「わたしが防衛隊第三調査隊所属、彼女は第一調査隊リーダーです」

「彼らの動きは普通のことですか?君の話だと親衛隊にあまり詳しくないみたいだけど」

「普段、魔狼の荒野にて作業にあたるのは防衛隊と呼ばれる我々です。親衛隊は領主であるゲンデス隊長に同行する隊なのですが、過去、魔狼の荒野に出たことはありません」

「アキ、どう思いますか?」

「なんで引きこもっていた領主様が出て来たか?」

「それほどまで魔狼に苦労していた鬱憤晴らしですかね、功を焦っているとか」

「それはなんともわかんないね。とりあえず僕らにドーピングした馬以上の速度とスタミナがあればいいんじゃないかな?」

「そうですね。逃げる準備を急ぎましょう」


 マニュを寝かせたまま、僕はリアカーの改造に集中する。

 警邏をメディとメルバに任せ、ファーも寝かせておく。

 意識が戻ったリーシャからメディが情報を入手し、作業中の僕に報告に来てくれた。

 情報入手の方法は、自白剤や催眠などではなく「幸せにする」というものだった。


「人は誰かに何かを教えるとき、とても幸福になるんです。賞賛や自己顕示、承認欲求などが満足すると脳内麻薬が出ます。逆に、その脳内麻薬、オキシトシンやエンドルフィンで多幸感に溢れさせると、なんでも話したくなるんです。そこに禁忌も後ろめたさもありません」

「内緒の話だけど教えてあげる、的な?」

「人の欲求を抑制している立場や価値観を誤認させることで、人は簡単に変容しますからね」

「……で?リーシャはなんで先行してきたの?」

「親衛隊の露払いとして先行した彼女が、メルバによって捕縛された三名を発見し、先行二騎で追ってきたそうです。親衛隊は十騎、メルバの言っていた領主である隊長も出てきているそうです。馬の能力が同じであれば、早くて3~4時間後に追いつかれます」

「それだけあれば十分だね。ていうかもう終わる」

「この魔石車、の仕様を教えてもらっていいですか?」

「御覧の通り、リアカーベースで、各車輪に魔石モーターを取付けた。操舵は無しで運転席のハンドルで車輪の回転差を使って転進する」


 左右対面に付けていた長椅子の一つを進行方向に向けて、その前席の中心にハンドル上の円盤。

 これが制御装置であり、魔石の収納場所でもある。

 後席は放水銃の銃座として後ろ向きになっている。

 水タンクなどは下部に移動した。


「小さいトロッコみたいですね」

 

 僕的にはテーマパークのアトラクションに使われるライドみたいな印象。


「軽いし小さいからね。できるだけ重心を下げて、タイヤ径を小さく、幅を広げたけど、逆に、四人乗車じゃないとバランスが取れない。急ハンドルで横転しやすい」

「四人……」

「そ、これを運用することは、メルバもリーシャも解放するしかないね。誤認とやらは離れれば元に戻るんでしょ?」

「そうですね。でも」

「罪人認定は免れない、か」

「リーシャはメルバと同じ孤児院で育ったそうで、どうやら恋仲に近い関係らしいです」

「それで追ってきた、と。さんざん利用してポイっじゃ、後味が悪いなぁ」

「徹底的に悪人に徹すれば、策はあるんですけどね」

「どんな?」


 僕はメディから策とやらを聞く。


「どうです?」

「……まず、この魔石車が想定通りの機能を有すること。そして、僕が人間を辞める覚悟があればいいんでしょ?」

「もう一つ。間違いなく皇国関係者からお尋ね者になるということですね」

「それが誰も死なせず収める、たった一つの冴えたやり方、か」

「もっと簡単なのは、関係者全員皆殺し、死人に口なし作戦です。私はどちらかというとこちらのほうが好きですね。スマートで」

「却下で……ところで、この世界の星霊ってさ、もういないって言ってたよね?」

「ええ。下位の管理者で輪廻を回していると」

「なんで、星霊はさ、去る時ここの人たちの魂を集めなかったんだと思う?」

「取るに足らない経験値だと思ったとか?」

「200万人でも少ないのかな……」

「それはなんとも」


 僕らの会話はそれで終わった。

 それでも僕は、この世界の命をいたずらに刈り取ることはしたくないと思った。

 魔道具という地球に無い技術を生み出してくれた、この星にかつて存在した星霊に対する、敬意として。

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