第3話 情報の精査

 とりあえず車座になって座る。

 僕の左にメディ、正面にファー、僕の右にマニュ。

 中央につくった火元を使ってお湯を沸かし、お茶を淹れたり、二人分のインスタント雑炊を温めたりする。


「どうやってここがわかったの?」メディに聞く。

「チュートリアルアシスタントに調べてもらいました。だいたいの位置と距離です。とはいえ、一人調べるのに残り時間を30分も消費したので、最寄りの三人分を聞いてほぼ時間は無くなってしまいました」

「一人30分……僕は調べている最中に時間切れだったよ」

「いやあ不親切な説明システムですよね、私も最初はそれがわからず、雑談などで5時間しか情報収集できませんでした」


 恥ずかしそうに答えるメディ。

 5時間だと?


「ファーはお腹が空いて、裸でパニックになって、手当り次第物資を送ってもらって、お米を探しているうちに時間切れになったみたいで、大した情報は持っていませんでした。なので、まずはそれぞれの情報を確認したいと思います」

「え、と、僕は30分くらい、マニュが3分くらいの情報量なんだけど……」

「……それでよく、服を着て、野営して、こんな設備を造りだせましたね」


 雑炊を食べる手を止め、呆れと尊敬が入り混じるメディの声色。

 よせやい照れるだろ?

 ともあれ、まずは僕らのこれまでをかいつまんで説明する。

 ただ、設計士と製造士の力については少し曖昧に話した。

 共通の物資や知識以外の専門能力は、説明しても理解しづらいのと、メディの真意を測りかねているからだ。

 変態に悪い人はいないと思うんだけど、それも偏見かもしれない。


 女性陣二人は、とりあえず聞き役に徹するらしい。

 マニュはともかく、ファーは雑炊に夢中に見えるが……。


「お腹空いてたんだね」

「合流優先で歩きっぱなしでしたからね。携帯食とお水で我慢させたので」

「じゃ、メディの話を聞かせてくれるかな」


 メディは頷き、お茶を口に含んだ後ゆっくりと話し出す。


「私たちの存在についてはアキの理解と変わりはないですが、まず残りの8人について話しておきましょう」


 彼はメモ帳をめくり、続ける。


「設計士、製造士、医療士、農業士、狩猟士、生育士、料理士、戦闘士、演奏士、調香士、土木士、統治士の12人が、地球の遺産を引き継ぐために創られた。正直、たった12人で地球文明の全てを体現できるとは思いませんし、この役割ってのも適当に設定されたのでは?とも思いますが、少なくとも地球産の物資を使える、個々の能力が存在するって事実は間違いありません」

「メディとファーは医療士と農業士、簡単にどんなことができるか聞いても?」

「私は、人体に対する理解と、操作ができるみたいです。特に、創造者が設定した裏コマンドにも干渉できる。……ま、いまはまだできることが限られています」

「裏コマンド?」

「人体も創られたモノですからね、いろんな隠し要素があるんです。今のところはお医者さんの真似事ができると思ってください。オリジナルトランクには医療品が詰まってました」

「おお、それはありがたい」


 お腹壊したらどうしようか心配だったんだ。


「ファーは、植物の育成に対する専門知識があります。オリジナルトランクは農業用品や植物の種などですね。お米の種もみもありました。こちらも裏コマンドに干渉できるみたいです。いまはまだ、草や種などの情報を理解できるくらいらしいですが、生育を促進させることなどできると思われます」

「時間干渉みたいな?」

「時間を早送りするというよりは、制限のかかっている状態を解放するみたいらしいですね」

「人体、作物の不思議ってやつか」

「標準生き物セットってやつは、いろんな惑星の環境に合わせて適切な変化ができるのが特徴みたいです。本来の機能を全部解放すると、この体でもかなりのことができそうで、知っていくのが楽しみですよ」


 ニヤリと闇が深そうな笑い。

 こいつもたぶん解剖が好きなんだろう。

 僕と違って表面までか、その下なのかって違いはあるが。

 次に話したのはこの世界の地理だ。

 メディからメモ帳に記された簡単な地図を見せてもらいながら説明を受ける。


「……で、私たちがいるのが、この大陸のほぼ中央「魔狼の荒野」です」


 朝見た金狼を思い出す。


「魔狼ってのは?」

「名前の由来としては、この地を根城にしている魔獣にちなんでだそうです。取り急ぎ、近くにそいつらはいないと聞きましたけど」

「魔獣?」

「地球にも住んでいた動物とは別に、体内に魔石を内蔵している動物の総称です。魔素というこの惑星独自の素子を取り入れ、身体強化や特殊能力に使っているそうで」

「魔法があるの?」

「魔法と言う存在は無いみたいです。精霊らしき存在はいるかもしれないらしいですけど」

「曖昧なんだ」

「魔素のある惑星って珍しくないらしいです。現に魔法文化が発達しているところもあるんだとか。で、魔素がある場所には自然にそれを活用する存在がいるのが一般的だそうです」

「それが、精霊」

「はい。未確認ですし取扱いも不明ですので放置でいいでしょう。差し当たって問題なのは、現地人と魔獣の対処ですかね」


 メディは地図を見せながら続ける。


「この「魔狼の大地」の上、北ですが、ここに街があるそうです。一番北の「ロシュ皇国」が管理する「ヴォルデフ」という街。ここは魔狼の侵攻を止める関所も兼ねています」

「侵攻……いわゆるスタンピード的な?」

「頻度や内容はわかりませんが、ヴォルデフには常に5万人ほどの防衛部隊が常駐しているらしいです」

「5万、多いのか少ないのかよくわかんないな」

「この星の全人口が200万くらいで、「ロシュ皇国」に50万くらいだそうです」

「国民の1/10となると急に多く感じるね」

「それだけ重要な拠点なんでしょう。防衛だけじゃなく、討伐することでメリットもあるようです」

「肉が美味いとか?」

「魔石です。魔法は無いけれど、魔石を使った魔道具の文化が発達しています」


 それは、聞き捨てならないぞ。

 つまり、魔石をエネルギーとして活用してるってことだ。

 その技術があれば、電気の代替として地球産の電化製品を使える可能性がでてきた。


「魔石と魔道具、手に入れたいな」

「アキの能力に直結するから?アキの能力は地球産の物品以外にも適用できますか?」


 伺うような視線。

 ちょっと踏み込んでみる。


「いまはなんとも。取り急ぎ、動力の無い車体を造ろうと考えてたんだ。エンジンの代用が現地調達できればうれしいな、と」

「……アキは、この世界で何を目的としているんですか?地球の遺産を使って」

「それがメディの真意なんでしょ?僕らの評価を決定づけるクリティカルな問いかけってやつ」

「私は野心も無いし、この世界への義理も無いのですが、せっかく得た命なので、それを失わないために、自衛は全力でするだけです。例え同族を犠牲にしても、です」

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