9章 わいわいぎゃあぎゃあ!

「で!?ヴォルカス様はどうして人族のレディを連れてきちゃったんですか?は!?まさかあ!ラブ!?一目惚れですか!?」

相変わらずオレンドは大げさなことを言う。

普段見ない人族を物珍し気に右から左から眺めている。


「ふむ。その者が古代魔法の使い手でな。なかなか懐かしきものを見たゆえ、礼として招待をした」

「古代魔法ですか…?」


対するサラは未だに懐疑的な視線をロクシーに向ける。

オレンドとは正反対だ。


「そうだ。神代の魔法陣だ」

「へぇ〜。こんな娘っ子がねぇ〜。あっはっは!」


何が面白いのか。面白くなくても笑うのか。

オレンドの言葉に引っかかったのはロクシー。

こちらは必要以上に気が強く、魔族に取り込まれている状況を忘れてしまったかのような反応する。


「ん!?なによ!こう見えて、人大陸は端から端まで冒険したんだから!」

「へー、そうかぁ、すげーなぁ!」


ケラケラと笑うオレンドと

以前として様子見を続けるサラ。

二人の反応の違いを意にも介さず佇むヴォルカス。


「そういうあんたは頭がゆるそうな顔してるわね!ふふん!」

3人に負けるもんか!という思いがあるのだろうか、

ロクシーも負けじとオレンドに対して食ってかかる。


「ああん!?おうおう!レディ!誰の顔がゆるゆるふぬけ顔だ!アングリーしちゃうぜ!?」

噛みつかれたオレンドもそれに応える。


「あんたよ!」

「ほう!ならこれならいいってか!?」


パチン


オレンドが指を鳴らすと、そこにあった顔がロクシーと同じ顔に変化する。


「ほーらほーら!クレバーな顔だろ?」

声までそっくりだ。


「ちょ!ちょっとあんた!それ私の顔じゃない!私の顔返しなさい!」

「やなこった!はっはっはー!だいたい、ロクシーの顔はそこにあんだろ?悔しかったらここまでおいてー!」


そのまま、糸に引かれるように城門の奥へとオレンドの身体が飛んでいく。

傀儡子の得意とする術-糸人形-による操作だ。


「こ…このぉ…待ちなさいコラー!」


駆けだすロクシー。


「はっはっはー!」


糸に引かれるように、あっちこっちへ飛び回るもう一人のロクシー。

中身はオレンド。


それを見てサラは自分が警戒をしていることが馬鹿らしくなりため息をつく。

「お子様同士、仲良くやってなさいよ。私はもう戻るわ。何事もなかったみたいだし」


しかし、

はしゃぎまわる子供たちは、お姉さんのちょっとした悪態も見逃さない。


「俺は若いからモテちゃってしょーがないもんなぁー!はっはっはー!誰かさんと違ってなぁ!」

「お…オレンド…あんたそれは悪口かしら…?」


ビキビキ…

と青筋が浮かぶ音があたりに響く。


次の瞬間、サラの黒い目がオレンドを捉える


「うっ…」


飛び回っていたオレンドの身体が急に地面に縛り付けられる。


「言ってくれるじゃない?」

「わ…わりい…」


サラの強力な術にあてられて、身動きが取れない。

そこにロクシーが馬乗りで掴みかかる。


「はぁはぁ!捕まえた!さぁ、顔を返しなさい!!」

「あ、いてて!わかったわかった!」


ふむ。

と、ヴォルカスは訳もなく一人頷く。


「オレンド…次同じことを言ったら、覚えてなさいよ…。」


はぁ、ばかばかしい、と我に返ったサラから一抜け。

そのまま城の方へ足を向ける、と


「…サラさん!」

「何?」

ロクシーが呼び止める。


「トレジャーハンターもね、男ばっかりの仕事なんだけど…。女の子同士!よろしくね!」

「…よろしく」


突然の挨拶に驚くサラ。

まさかこの状況でよろしく、などと言われると思っていなかった。


当の本人は期限を良くしたのか

えへへ、と表情を緩めている。


「城内でも気を抜かないことね。戦争で家族を失った魔族は山ほどいるわ。城内は人族を良く思わない魔族ばっかりなんだから。気をつけることね。」

サラはそのまま視線を逸らして城の方へ歩き始める。

速度は少しだけ遅い。


「はい!ありがとー!…ね!サラさんは人族のこと嫌い?」

「さぁ?あんまり会ったことがないから、わからないわ。」


背を向けて淡々と回答するサラとそれにめげず話しかけるロクシー。


「そっか!」

「満足かしら。失礼するわね」


話の切れ目だと悟ったか。サラはその場を後にする。

残されたのはロクシーと馬乗りされているオレンド。


「して、オレンドよ」

「はいはーい!なんでしょう!?」


相変わらずこちらは楽しげだが、

次の言葉を聞いて口先を尖らせたのはロクシー。


「しばらくロクシーの世話を頼む」

「は!?なんで私がこんな奴と一緒にいなきゃなんないのよ!」


あ、痛っ。

勢いあまってロクシーの指がオレンドの頬を刺す。


「ふむ。私は多忙ゆえ、な。オレンドも戦のない時は城内でも外でも、付き合ってやるが良い。月の出ている間は、古代魔法でもなんでも聞きに来るが良い。人が休む時間帯ゆえ、まだ暇がある。」

「だ、そうだ!よろしくなあ!ロクシー!」


ガバッとオレンドが起き上がり、そのままロクシーに抱き着く。


「ちょっと!ふざけないで!離しなさい!!!」

「はっはっはー!」


3人は城の扉の中へと吸い込まれていった。

いつまでもぎゃあぎゃあと賑やかに。

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