101人目の管理人

のねこ

第1話 プロローグ

 人間がなんとも愚かな物だと知った、1年前。


 人々は六〇三年の間、未来、過去。未来派、過去派という二つの勢力に二分し殺戮を繰り返していた。

 世界が滅亡する寸前、神がその姿を幻想的げんそうてきで自然豊かな過去の空想、空想世界ファンタジーへと変え、機械の発達した未来世界へ先進させる——そうした流転を行い世界の時代を作ってきた。

 だがそんな当たり前だった日々は——突如、終わりを迎える。

 世界から神が消えたとされる六〇四年前。

 神話しんわ恐慌きょうこうが始まった。


 世界は人に伝えた。——神が今、世界から旅立つ、と。


 このことを誰もが疑った。

 神を信じない者、信じる者でさえその脳裏を過った思念波メッセージに疑問を持った。

 だが、それが真実だと人は疑えずに負えない事態が起こる。


 この世界のかみの出現である。


 神はその日、人々の目の前に現れた。

 誰もが一度は耳にしたことがあるであろうその言葉。


 ——本当に神がこの世界に居るなら、俺(私)の目の前に現れて見ろよ。


 その言葉の体現である。

 神は言った。

「私は失望した」、と。

 神は言った。

「これ程までにおろかな世界は見たことが無い」、と。


 神は、傲慢ごうまんに、強欲ごうよくに、色欲しきよくに、暴食ぼうしょくに、怠惰たいだに、嫉妬しっとに、憤怒ふんどした。


 だから——世界を、人類じんるいを見捨てた。

 誰もがその言葉を信じた。

 信じざるを得なかった。

 まるで、そのことを自分の記憶が知っていたかのような疑う事をさせてくれない感覚。

 そんな不思議な気持ちに世界中の全ての人がなった。

 それから世界には働くという言葉が消え、社会を動かす者が一人として居なくなった。


 その変わりに人類は、傲慢ごうまんを、強欲ごうよくを、色欲しきよくを、暴食ぼうしょくを、怠惰たいだを、嫉妬しっとを、憤怒ふんどをすることを一斉に止めた。

 償いを、罰を、重んじて受け入れた。


 それから一年後——殆んどの人間が死し、人口が100万人になった時、ある奇跡が起きた。——人の、魔法まほう使いの誕生である。

 100人の管理人かんりにんと神のみことばを伝える一二人の傍観者ぼうかんしゃと呼ばれる者たちの発生。


 一二人のうち一人が話す。女の子だった。

「主は人を許した。だが忘れるな、もう一度同じことを繰り返せば再び同じ不幸をお前たちに主がお与えになるであろうことを」

 と。

 すると傍観者ぼうかんしゃうちの一人が球体のほうを持って前に出た。

「この球体のほうは世界を未来へ先進させるか、過去へ後退させるかを決める道具である。それで今からこれに手をかざ管理人かんりにんの諸君に投票を行って貰う」

 それに続いて男が言う。

「そしてこの投票が半数以上に成らなかった場合。世界の形を決める為の戦争を——≪百人ひゃくにん戦争せんそう≫を行って貰う」

 それ以降、二度に渡って投票が行われた。——だが、その二回ともちょうど半々、つまり過去派五〇、未来派五〇という結果となった。

 管理人かんりにんになる権限はどの時も例外なく未来派五〇人、過去派五〇人に譲渡された。つまり百人ひゃくにん戦争せんそうは絶対に起こる。

 それからの時代はまさに戦乱。その戦争たちは過酷かこく被虐ひぎゃくの一途を辿った。

 多くの叫びと殺撃さつげきの世に家族、友人、恋人を亡くす。


 ——戦争は本当に何も生まなかった。


 これまで二度に渡って行われてきた百人ひゃくにん戦争せんそう

 一度目、世界は未来へと先進。二度目、世界は過去へと後退する。

 悲しみの狂騒を乗り越え、世界は再びそれを流転しようとしていた。

 ——だが、そんな絶望の悲しみの連鎖は終わりを迎える。


 そんな新たな世界の中心に立つ者の名を人々はこう呼ぶ。

 101人目の管理人、と。


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