第19話 初めてのレベルアップ

 俺は今、木の枝を持ちながら東通村に向け歩いている。

 ゆうなからは「子供がやってる冒険ごっこみたい」と嘲笑われ、剣児からは「やっぱ出野さんは特別感出でるよなぁ」と意味不明な評価をされた。

 俺は手に持っている木の枝をまじまじと見て考える。

 しょうかんしというくらいだから、普通の召喚士と同様に何かを召喚できるんだよな?

 「目の前の魔物を焼き払え!火の精霊召喚!」、「怒りの裁きを与えたまえ!雷の精霊召喚!」、そう頭の中で妄想を膨らませて歩く道のりは意外と楽しかった。


 歩き始めて5時間、俺は全然大丈夫だったが二人に疲れがみえてきた頃、それは突然やってきた。


「魔物だー!」


 剣児がそう言うと目の前に緑色をした4匹の【スライム】が現れた。

 知能を持たない魔物の代表格だ。

 聞いていた話だと、他の魔物と比べ弱いが人間を襲い、幼き子供であれば死ぬ可能性もあるとの事だ。

 俺の感覚ではスライムはただの水の塊にしか見えなかった。

 

「剣児君、最初の魔物にしてはベストな魔物よ!剣で思いきりやっちゃって!」


 そうゆうなは指示を出すと、剣児は1匹のスライムを力いっぱい叩き斬った。

 スライムは一発で息絶えた。


「おらでも倒せたぞ!」

「すごーい!」


 俺は茶番劇でも見せられているのだろうか。

 これではただの弱いものイジメじゃないか。

 残り3匹のスライムのうち、1匹が俺の元へと近寄ってきた。


「怖かったであろう、俺は弱いものイジメはしないぞ」


 足元に来たスライムを撫でながらそう優しく声をかけ、残りの2匹の動向を伺った。

 2匹は剣児とゆうなの目の前で威嚇をしている。

 その内の1匹に向け、またも剣児は力いっぱい叩き斬った。

 水分を含み、ぷにぷにしたスライムは斬られることで本体が四方八方に飛び散った。


「レベルアップだー」


 レ、レベルアップだと!?

 剣児の言葉を聞いた俺は、目の前のスライムを無表情で見た。

 スライムは知能はないにしろ、少し怯えたような様子だった。

 スライムの言葉を代弁するとしたら、「優しかったあの人は急に態度を変えたのです」だ。


 俺は構わずスライムの横っ腹を躊躇なく木の枝でぶっ叩いた。

 いや、正確には少しズレて木の枝で叩くというより、拳でぶん殴ったというほうが正しい。


 シュッ


 衝撃が強かったのであろう、それまでスライムだったものは霧となって風に流され消えていった。

 続けて剣児の元へと駆け寄り、木の枝を持った状態で最後の1匹を同じくぶん殴った。

 そのスライムも霧となった。


 ドクンッ


 俺の中に流れる血が一気に暴れだすような高揚感。

 俺は今までに体験したことのない感覚に驚いた。

 全身に力が漲るこの感覚。

 さっきまでの俺とはまったくの別次元の高みにいるようだ。


 おそらく……、これがレベルアップだ……!


「いぎなり消えだっ!?」

「新手のスライムかもしれません!周囲を警戒してください!」


 俺か初めてのレベルアップを体験し感動している中、剣児とゆうなは突然発生した霧と共に消えたスライムを警戒し、剣を構えていた。


「どこから攻撃してくるか見当もつきません。くっ、これでは東通村に無事に着けるか怪しいですね」

「んだな。レベルアップで浮かれでる場合じゃねぇみてぇだな」

「隠れてないで出てきなさいよ!私達はここよ!」


 俺が倒したとも知らず、二人は額に汗を滲ませ剣を握っている。

 この茶番劇を終わらせなければならない。


 しかし何をどう説明したらいいのか分からなかった。

 内容によっては俺の強さがバレてしまう。

 俺は頭を捻らせ、二人が警戒体勢を解き、そしてこの現象に納得するような作り話を脳内で完成させた。

 そしてうずくまり、スライムを殴った手を抑えた。


「痛たたたた。さっきのスライム、死ぬ直前に自爆したっぽい」


 それを聞いた二人は警戒を解き、俺に声をかける。


「だ、大丈夫ですか?薬草ありますけど要りますか?いやー、さっきのスライムてっきり消えたかと思いました。あの霧は自爆からくる煙みたいなものだったんですね」

「あー、おらは運が良がったのがぁ。出野さんの倒したスライムだけ自爆したっぽいもんな」


 二人からその言葉を聞いた俺は、地に向け半目で少し口角を上げた。

 俗にいう悪い顔だ。


「大丈夫だ。自爆といっても所詮スライム。少し痛いくらいで別にこの後に支障が出るわけではない」

「自爆するスライムなんて初めてですよ。これはタンナーブに帰ったら報告しないと」


 このあと【自爆スライム】という魔物がタンナーブ近郊で出るとの噂が広がったのはまた後の話。

 俺が立ち上がると、ゆうなが声をかけてきた。


「出野さんはスライムを2匹倒したんですよね?剣児君はレベルアップしたみたいですけど、もしかしてレベルアップしました?」


 すっかり忘れていたが、そういえばレベルアップしていたな。


「したぞ。初めての感覚だった。こう、全身が強化されるというかなんというか、とにかく俺じゃないみたいだったわ」

「おらもあんなの初めでの感覚だったじゃ」

「私も一人でこの辺の魔物を倒したとき初めてレベルアップを経験したけど、何だか強くなったなって感じますよね」


 変身する魔物を除き、俺も含めてそれ以外の魔物は生まれた時から強さは変わらないから初めての感覚だ。

 いや、そういえば俺のいた魔王城で鎧やら大剣やらを装備した時もこんな感覚あったっけ?

 もう覚えていない。


「あ、そうだ!冒険者の書に手を当ててみたら?能力値が変わってると思うよ」


 感覚ではなく数値で見るとそれがもっと実感に繋がる。

 そうか、レベルが上がるとそんな楽しみもあったのか。

 俺と剣児は逸る気持ちを抑えながら、冒険者の書を取り出した。


「俺は向こうでやるから見に来ないでくれよ」


 元魔王である俺の能力値は、人間のそれを遥かに上回っているので絶対に隠さなければならない。

 幸い、二人の中では、俺は強がりだけど実際は能力値が低くて見せられないという設定になっているので、こんな事が罷り通っている。


「出野さんまだ恥ずかしがってるんですかー?まぁいいですけど。じゃあ剣児君、やってみて!」

「分がった!どんくれぇ増えてるんだべが楽しみだな」


 ゆうなと剣児がウキウキしながら冒険者の書を開いている中、俺は二人と少し距離をとり、冒険者の書を開く。


――――――――――――


名前:出野 ハー(年齢?歳 性別 男)

レベル:1

職業:しょうかんし

職業レベル:1

HP:1,050,000/1,050,000

MP:35,000/35,000

物理攻撃力:2,250

物理防御力:2,310

魔法攻撃力:1,890

魔法防御力:2,490

 素早さ :2,110

  運  :90


使用可能魔法一覧

火属性:チャッカ(小) ~ ドゴウゴウ(極大)

水属性:チョロ(小) ~ ドバーン(極大)

氷属性:バリ(小) ~ バリジャッキン(極大)

雷属性:ピリ(小) ~ ドンバチン(極大)

土属性:ゴゴ(小) ~ ズゴーン(極大)

風属性:フワ(小) ~ ビューン(極大)

闇属性:ヌン(中) ~ ヌラリアン(極大)

即死:スット(小) ~ アトカスット(中)

毒:ジュク(小) ~ ジュクジュ(中)

麻痺:ギチ(小) ~ ガチギ(中)

飛行:プカン


使用可能特技一覧

一刀両断/我軸円斬がじくえんざん発風剣はっぷうけん無絶無斬むぜつむざん真無絶無斬しんむぜつむざん/完全防御/結界術(消費MP量に準ずる)


使用可能しょうかん一覧


――――――――――――


 さて、ここからどう変化するのか。

 俺は冒険者の書に手を当て、数値が塗り替えられる様をじっと見ていた。

 ものの数秒で塗り替えられた。


――――――――――――


名前:出野 ハー(年齢?歳 性別 男)

レベル:2

職業:しょうかんし

職業レベル:1

HP:1,170,000/1,170,000

MP:40,000/40,000

物理攻撃力:2,400

物理防御力:2,450

魔法攻撃力:2,030

魔法防御力:2,680

 素早さ :2,220

  運  :90


使用可能魔法一覧

火属性:チャッカ(小) ~ ドゴウゴウ(極大)

水属性:チョロ(小) ~ ドバーン(極大)

氷属性:バリ(小) ~ バリジャッキン(極大)

雷属性:ピリ(小) ~ ドンバチン(極大)

土属性:ゴゴ(小) ~ ズゴーン(極大)

風属性:フワ(小) ~ ビューン(極大)

闇属性:ヌン(中) ~ ヌラリアン(極大)

即死:スット(小) ~ アトカスット(中)

毒:ジュク(小) ~ ジュクジュ(中)

麻痺:ギチ(小) ~ ガチギ(中)

飛行:プカン


使用可能特技一覧

一刀両断/我軸円斬がじくえんざん発風剣はっぷうけん無絶無斬むぜつむざん真無絶無斬しんむぜつむざん/完全防御/結界術(消費MP量に準ずる)


使用可能しょうかん一覧


――――――――――――


 んー、なんだろう。

 強くなったはなったが、元々の数値の衝撃が強すぎてあまり実感が湧かないなー。

 あと気付かなかったけど、使用可能しょうかん一覧ってのが増えてるな。

 今は何にも使えないみたいだけど、この職業レベルってやつが上がると使えるようになるのかなー。

 んー、職業レベルってどうやったら上がるんだ?


「出野さん、どうでしたかー?」


 少し離れたところからゆうなの声が聞こえた。

 俺は冒険者の書を袋に入れ、ゆうなの元へと歩きながら話す。


「まぁまぁ上がってたかな。でもまだ見せられるようなもんじゃないけどー」

「出野さん!おら物理攻撃力15も上がったどー!」

「剣児君、出野さんがショック受けるかもしれないからあんまり嬉しそうに言ったらダメだよ!」


 剣児は物理攻撃力が15上がったことが相当嬉しそうだ。

 俺はその10倍の150上がったんだが、それを言ってしまったら剣児君は冒険者をやめてしまう可能性がある。


「えっ?そんなに上がったのか?剣児は凄いな、才能が溢れてるわ。ゆうな、剣児、俺は二人の能力値の事は全然気にしないから嬉しかったら俺の前でも喜んでいいぞ!」


 これは決して強がりではない。

 余裕の表れだ。


「よーし、この調子でどんどんレベルを上げつつ東通村へ向かいましょう!」

「おー!」


 ゆうなと剣児は剣を高く上げ、俺もやや遅れて木の枝を高く上げた。

 そして東通村を目指した。

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