第12話 適性職

 俺は今、柿ピーをボリボリ食べながら、職業神殿内でゆうなから職について説明を受けている。

 それにしても説明長いなーと薄々感じていた。


「仮に剣士の適性しかない人が魔法使いになりたいと望み、魔法使いになったとしましょう。しかし、適性がないので魔法は一切覚えません。それくらい適性は大事なものです。先程話した例外とは勇者の事です。勇者は適性がないと絶対になれません。勇者という職はそれほど特別な職となっています。ここまでで質問はありますか?」


 唐突に質疑応答がやってきた。

 俺はこの説明の始めにある画期的なことを思い付いていた。

 俺が勇者になれば、一人でグレンヴァに戦いを挑めるんじゃないかと。

 待ってましたと言わんばかりに俺は手を上げ質問を投げかける。


「俺に勇者の適性はあるのか?」

「……。さて、では占い師のところに行きましょうか」


 質問になぜか答えてくれないが、とりあえずゆうなの後について歩いた。


「ここが占い師のいる部屋です。一人ずつしか入れないので出野さん中に入ってください。私は向こうの椅子に座って待ってますから。占い師の方が適性を教えてくれるので出てきたら教えてくださいね」

「えっ?適性ってゆうなが教えてくれるんじゃないの?」

「先程も説明しましたが、私では出野さんの適性を調べることはできませんので占い師から聞いてください」

「お、おう」


 何かこの怪しげな雰囲気を醸し出す部屋に占い師がいるという。

 しかし何故か懐かしいような気がしなくもない。

 何故なら、俺の魔王時代の配下の一人も、こんな雰囲気の部屋に住んでたからだ。

 あー、異世界で元気にやってるかなぁ。

 思い出に浸っているとゆうなが「早く早く」と急かしてきたので、俺は入り口の垂れ布を捲り中に入った。


「ようこそ占いの館へ」


 頭にフードをすっぽりと被った老婆が、布で覆われた机を挟んで向こうに座っていた。

 机の上には大きめの水晶玉が置いてあった。

 一人ずつしか入れないと言っていたが確かに狭い。

 俺は目の前の椅子に腰かけた。


「俺に勇者の適性はあるのか?」


 開口一番、先程ゆうなに無視された質問を占い師にぶつけてみた。


「まぁまぁ、少し時間をくださいな。ここにお主の顔を近付けてくれないか」

「こうか?」


 水晶玉を指差していたので、俺はそこに顔を近付けた。

 占い師は目を閉じ水晶玉の周りを手で撫でるような仕草をし始めた。

 占い師の手からは糸のような繊細な魔力が放出され水晶玉に纏わりつき、次第にその魔力の糸は様々な色に変わっていった。


 ほう、人間のわりに魔力操作が上手いな。

 そう感心したのも束の間、俺の顔にまで魔力の糸が伸びてきた。

 攻撃的な魔力ではないため、俺はそのまま受け入れた。

 そしてその魔力の糸は俺に付着すると更に色が変わっていった。


 そういうことか。

 後は色の組み合わせというわけか。

 色の組み合わせでどうこうは俺でも分からないから結局この婆さんにしか分からないってわけね。

 占い師は目を開け魔力の糸の色を確認し、適性鑑定が終わった。


「お主の適性は……、珍しいこともあるもんだね」

「おいおい、勿体ぶるなよ。で、勇者はあったか?」

「勇者以外全部あった」

「えっ?勇者以外?」


 俺が一番欲しいものだけ無かった。


「そうだ。剣士/武術家/槍使い/弓使い/盾使い/魔法使い/僧侶/召喚士/魔物使い/商人/盗賊/錬金術師/???、これら全てがお主の適性だ。最後の???だけ何かは分からないが、ほとんどの場合あまり良くない職だね。そして???は呪われて転職できなくなるからおすすめはせんよ。ちなみにわしの占い師という職も???から発生した職だ」

「そうなのか。んー、多すぎてあんまり覚えられないから、紙に書いてくれ」

「面倒だが仕方ないな」


 占い師は渋々紙と筆を取り出し、一つ一つ俺の適性を書いてくれた。


「婆さん、最後にちょっと聞きたいんだけど、何でわざわざ水晶玉に顔を近付けるんだー?むしろこの水晶が無くたって出来るだろう?魔力の糸を相手に付けるだけで色が変わるんだからさ」

「お主、魔力が見えるのか?」

「えっ?見えるけど婆さんは見えてないのか?」

「わしは特別な力があって見えているが、普通は見えないはずだ」

「あー、そうなのか。んじゃこの話は忘れてくれ」


 俺は適性の書いた紙を受け取り、部屋を出た。

 紙を見ながら、やはり勇者の適性がなかったことに落ち込む。


「俺勇者の適性がないかー。まぁ元魔王だし仕方ないよな。でも勇者以外全部適性があるってことは選択肢がかなり多いな。???ってのも気になるし。とりあえずゆうなに報告してくっか」


 ゆうなを探すためにキョロキョロ辺りを見渡すと、少し離れたところから手を振って場所を教えてくれた。


「どうでした?勇者の適性ありました?」

「それなんだけど……。残念ながら俺に勇者の適性はなかった」


 俺がそう答えるとゆうなは勝ち誇ったような表情をした。

 その表情に少しイラっとしたが、それを知ってか知らずか彼女は続ける。

 

「勇者は選ばれし者だけがなれますからね。ちなみに何の適性があったんですか?」

「色々あったんだが、覚えきれないので婆さんに書いてもらった。それがこれだ」


 俺は持っていた紙を見せた。

 ゆうなはその紙を見ると、表情を一変させ声を張り上げる。


「えーっ!こんなの初めて見ましたよ!みんな適性は一つ二つがざらですが、ほぼ全部じゃないですかー!ただ、基本勇者の適性がある人は、こんな感じで適性が多いんですけど、こんなに適性が多くて勇者だけないのはかなり異常ですよ」

「んー、そうなのか?でもそれ聞いたら勇者適性だけないことがもっと残念に感じるわー」


 いらない豆知識が俺の傷口を抉ってきた。

 さっき気分を入れ替えたばかりなのに、更に落ち込んだ。


「しかも???があるじゃないですか!これはほぼ外れ職ですが、場合によっては超レア職の場合もありますよ」

「でもその職に就いたら呪われるんだろ?」

「はい……。なのでこれを選ぶ人は少ないのですが。でも実は、超レア職の中には勇者もあったりするんです!」

「おぉー、マジか!」


 ゆうなの言葉に一瞬心が揺らいだ。

 しかしこの???が勇者でない可能性も大いにある。

 言ってしまえば呪いの類いなど俺にとっては屁でもないが、グレンヴァの言っていた契約魔法が脳裏に過る。

 やっぱり手を出しづらいな。


「で、何か就きたい職はありましたか?」


 ゆうなは興味津々といった顔で聞いてきた。


「俺は……」  

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