第15話

 価値の交換によって我々は、個人ではできないことを成している。

 全てを個人の力だけで成すには、圧倒的に時間が足りない。

 他人の力を借りることは悪ではない。


 腹を満たすと彼らは男性の家を出た。

「まだゆっくりしていればいい」

 と言う男性の言葉に、

「また困ったら助けてください。ありがとうございました」

 と返すと、そそくさとその場を後にした。

「よかったのか?」

「いいんです。これからは私たちも自分たちのことは自分たちでやらないといけませんから」

「そうは言うが、何も知らないぞ」

「そぉれはぁ、そぉなんですけどねぇ」

 女性はどこか遠くを見ながら言った。

 彼は視線を追ったが、その先には空があるだけで鳥も雲も何もなかった。

「とりあえず、どこか泊まるところです。話はそれからです」

「金がないんじゃないのか?」

「あ」

 忘れていたと言わんばかりに大きく口を開ける女性。

 頼りになると思っていた存在が案外間抜けで、彼もまた同じ表情をしていた。

「じゃあ、お金です。お金をいただきましょう」

「どうすればいいんだ?」

 これもまた、知らなかったようで、女性は腕を組んで手をあごに当てると頭を捻り出した。

「村だと家は自分たちで作って暮らしてたし、食べ物もとってきてたからなぁ。お金ってどうやったら?」

 などとつぶやいているがはっきりとした言葉は出てこなかった。

「さっきの男に聞くのがいいんじゃないか?」

「そうですね。そうしましょう」

 女性は手を打って悩むのをやめた。

 そして、彼に対して人差し指を突き出すと上目遣いに口を開いた。

「あと男ってのはよくないです。あの人にはユキオという立派な名前があるんです」

「ユキオ? 名前?」

 彼はまた初めて聞いたことのように、言葉を繰り返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る