公子、2度目の人生をスタートする

《 条件を満たしました 》

《 プログラムのインストールを開始します 》

《 インストールに成功しました 》


《 おめでとうございます あなたは<求道者>になりました 》

《 メニューを表示しますか? はい/いいえ 》



 光だ。朝の柔らかい光。

 それがこんなに素晴らしいものだったとは。

 清潔な白いシーツから出て、窓辺に向かう。

 日の光に透かして見る自分の手は、とても健康的で瑞々しい。


「で、何だこれは?」


 目の前に透明な板のようなものがあり、文字が浮かんでいた。


《 おめでとうございます あなたは<求道者>になりました 》

《 メニューを表示しますか? はい/いいえ 》


「何だこれ? そして、どういう状況だ? 俺は悪魔に囚われて、消滅したはずでは……」


 魂の消滅だ。生まれ変わりすらできないと思っていた。それなのに、記憶が継続しているなんて。


《 メニューを表示しますか? (はい)/いいえ 》


 板の選択肢「はい」を指で押してみた。

 状況が全く把握できない中、手掛かりはこれだけだ。


《 メニュー: 》

《  ▽ステータス New! 》

《  ▽スキル 》

《  ▽クエスト New! 》

《  ▽メッセージボックス New! 》


「……見慣れない言葉が多いな。上から見ていこう。<ステータス>は……、2行しかないのか」


《 セリム・ベルクマン 男 14歳 》

《 求道者Lv: -51 次のレベルまでの経験値:310/1000 》


 <求道者Lv>というのは聞いたことがない。レベルとは、何のことだろう。


「とりあえず、俺の名前はそのままだ」


 周囲を見回してみる。

 よく知っている部屋だった。

 ベルクマン公爵家本城の俺の寝室。


「どういうことだ? 俺の意識が過去を再現しているのか?」


 14歳という表示が気になる。

 俺の肉体が死んだのは、17歳のときだ。


「時間を巻き戻してやり直し? そういう夢なのか?」



《 メニューに戻りますか? (はい)/いいえ 》


 板の画面を1つ前に戻す。


《 メニュー: 》

《  ▽ステータス 》

《  ▽スキル 》

《  ▽クエスト New! 》

《  ▽メッセージボックス New! 》


「次、<スキル>は……、白紙だと? 馬鹿にしているのか!」


 スキル無しと言われるほど、無能なつもりはないぞ。

 ……いや、落ち着こう。<求道者>に必要な<スキル>が無いというだけだ。


「もっとヒントになりそうな情報を……、<メッセージボックス>はどうだ?」


《 メッセージ:未読3件 》

《  デイリークエストが開始されました New! 》

《  メインクエストが開始されました New! 》

《  ようこそ New! 》


「順に読んでいこう」


《 ようこそ 》

《  あなたは求道者になりました。正しい行いをし、徳を積むことで求道者のレベルが上がります。悪しき行いを避け心を鍛えてください 》


「……抽象的だな」


 続けて、2つ目の<メッセージ>を確認する。


《 メインクエストが開始されました 》

《  レベル上げ:初級 難易度★★☆☆☆ 》

《  悪魔の誘惑に打ち勝つには、求道者のLv30が必要です。レベルを上げましょう 》


「レベル30? さっきの<ステータス>に50とか書いてなかったか?」


《 セリム・ベルクマン 男 14歳 》

《 求道者Lv: -51 次のレベルまでの経験値:310/1000 》


「は? <Lv: -51>って、マイナス? マイナスもあるのか??」


 ということは、クエストが言うレベル30までに、レベルを81も上げないといけないのか。どれくらいかかるんだろう。


「でも、<悪魔の誘惑>……。はっきりと書かれている」


 もしここが過去の世界なら、俺は17歳で、悪魔に取り憑かれてしまう。


《  悪魔の誘惑に打ち勝つには、求道者のLv30が必要です。レベルを上げましょう 》


 これが本当なら、レベル上げは必須だ。

 悪魔相手に、物理的な強さは意味がない。心の弱さにつけ込まれたら、意識を乗っ取られてしまう。


「どうやってレベルを上げるんだろう。見た感じ、戦闘経験や勉強では上がらなそうだな」


 <メッセージ>はもう1つあった。それを見てみよう。


《 デイリークエストが開始されました 》

《 以下の行動を全て実行することで、毎日経験値を獲得できます 》

《  祈り (未達成) 》

《  一日一善 (未達成) 》


「<デイリークエスト>をやれば、経験値が入る。そして、経験値を集めると、レベルが上がる仕組みか」


 <祈り>と<一日一善>というのを、やればいいのか。


「祈るって、……手を合わせて瞑想でもしておけばいいのか?」


 俺は試しに、朝日に向かって手を合わせてみた。

 ……何も起きない。

 しばらく続けてみよう。


《 デイリークエスト<祈り>を達成しました 》


 10分ほど祈ったところで、メッセージが表示された。


「これで<祈り>は出来たか。経験値は入っていないな。もう1つの<一日一善>もやらないと、クリアにならないのか」


 <一日一善>って、何でもいいから善行いいことしろって意味だよな。

 教会にでも行ってみるか。


 パジャマのままだったので、着替えようとクローゼットに手をかけた。その時、ドアをノックする音が聞こえた。

 入室を許可すると、メイドのマリが入ってきた。


「おはようございます。お着換えを手伝います」

「ああ」


 マリは16歳の若いメイドだ。幼いときに乳母を亡くした俺の世話係を、ここ数年、務めてくれていた。

 俺と2歳差で、ずいぶん年上のように思っていたが、今見ると意外と幼く、可愛らしかったんだな。


「本日は、家庭教師がお休みの日です。どこかに出かけられますか?」

「教会に行く」

「かしこまりました。では、こちらのお召し物をどうぞ」


 マリに渡された服に着替えて外へ出た。

 街に出て、<一日一善>できることを探そう。


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