第10話

 剣戟がぶつかり合う音が村の中に響き渡る。


「クソッ――やるなこいつ!」


 一度距離を取って息を整える。

 ゲームらしく攻撃し続けていても体は疲れを感じていないが、相手の攻撃を見切る為に頭は常に回しておかなければならず、そういった意味ではかなり体力を使う。


 相手のコボルトも同じなのか、疲れた犬のように短く息を吐く音が少し離れた俺の耳にも入る。


「行くぞ!」


 今度はこちらから仕掛ける番だ。

 力任せに振るう初撃は同じように力任せに振るわれたコボルトの一撃とぶつかり合い、そのままもつれるように鍔迫り合いの形へと入る。


 コボルトとは言え魔物であるせいか一瞬力負けをしてしまったそのタイミングで、彼は俺の首筋に噛みつこうと口を開けてその牙をこちらへと向ける。

 俺は咄嗟に下にすり抜け、そのまま柄頭で下あごを殴り上げてコボルトを吹っ飛ばす。


「はぁっ!」


 吹っ飛ぶコボルトに追撃の刃を振るい、その刃はコボルトの腰あたりを斬りつけた。

 しかし、強引に空中で体を捻りながら繰り出されたコボルトの刃も俺の胸あたりを深くとらえた。


「っ――いってぇな!」


 鋭い痛みが走るが出血はしておらず、体を動かすには何の問題もない。

 コボルトも相応のダメージを負ったのか、上手に受け身を取れなかったようで、体を起こしながら薬草のようなものを口へと運んでいた。

 追撃をとも考えたが、少し距離が開いてしまった事もあり、こちらもポーションを取り出して頭から瓶を逆さまにして被る。


 この世界のポーションは使用する分には飲む必要はなく、何らかの形で体にかかれば効果を発揮する。

 しかし、飲んだ場合は隙が大きい代わりに回復量が多く、かけた場合は隙が小さい代わりに回復量が少し落ちてしまうという仕様があるようだ。


 再び仕切り直しとなった形となり、再び俺とコボルトの睨み合いとなる。


「ちょっと試してみるか……」


 俺は腰を落とし、刃を鞘へと納める。

 コボルトは少し困惑した様子を見せたが、すぐに好機と見たのか俺へと向かって距離を詰める。

 俺は動くことなく、いつでも抜刀できるように柄に手を添えて相手の動きに神経を今まで以上に集中させる。


 コボルトによって振り下ろされる刃が俺を捉えそうになった瞬間――俺は動いた。


「一閃!」


 コボルトの攻撃は俺には当たらず、逆に膝をつくコボルトの姿が俺の後ろにあった。


 一閃、これは戦闘用スキルである"剣技"の一つだ。

 カウンター技の一種で、MPを消費する事爆発的な瞬発力を得て、相手の攻撃が当たる前に相手を斬りつけてすり抜けるという技だ。

 デメリットとして、失敗すれば防御も出来ずに攻撃を貰う事になる上に、MPの消費のタイミングは構えを取った瞬間であるために無駄にMPを消費してしまう事になる。


「抜刀術って、不意打ちに対する手段だった気がするんだけどな」

「こら、つまんないツッコミしないの」


 コボルトはすぐに体勢を立て直し、薬草のようなものを口へと含もうとしたその時だった。


 パァン――ッ!


 どこからか乾いた破裂音が響き渡り、コボルトが薬草を地面へと落とした。

 銃声は続けざまに鳴り響き、コボルトの体は再び地面へと倒れた。


「今のって……銃声?」

「そ、銃声」


 聞きなれない女の声が背後からした。

 振り返ってみるとオートマチックの拳銃を手にした十代後半ほどの容姿の女の子の姿がそこにあった。

 綺麗な金髪を動きやすいようにポニーテールにまとめており、爽やかな明るい青い瞳。まさに美少女というのがしっくりくる彼女だが、その目はどこか無機質さを感じるものがあった。


「もうコトは片付いてたみたいだね、美味しいところだけ持って行っちゃってゴメンね?」

「いや、まあそれは別にいいんだけど……君がその、派遣された冒険者?」

「うん、私の名前はリリー。冒険者をしてるよ」

「あ、えーと……俺はエルドレッド。エルって呼ばれる事が多いかな」

「ふーん……エルか」


 興味深そうに俺の事をまじまじと見るリリー。身長は俺の方が高いおかげか、上目遣いで美少女に見つめられるという何とも幸せな状況だ。

 しかし、彼女は何を思ったのか銃を再び構え、発砲した。


「なっ――!」

「クッソ……逃がしたか、そういえばこの世界じゃ死ぬと光になるんだっけか」


 振り返ったそこにコボルトの姿はなく、建物の陰に消えてゆく赤い尻尾だけが一瞬視界に入った。


「ま、一先ずは依頼達成って事は問題ないでしょ。防御の強化は必然だろうけどね」


 慣れた手つきで彼女は弾倉を交換した。

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