第8話

「っしゃ――レベル10到達!」

「いやあ、いざ狩り始めると早いねえ」


 レベリングをすると決めて3日、アドレナリンによるものなのかスキルによるものなのか、魔物狩りが楽しくなっていた。

 アルファテストの時に本気でビビって慣らそうとしていたおかげか、身体系のステータスはまだ俺の真の力を発揮できていないようだった。


「しっかし、何かアレだな……銃より刀とか剣の方が強いって」

「エルはあんまり銃を使ってないからね、そっちに乗り換えるなら魔法縛りとかするといいよ」

「いや、折角だし近接特化……ってわけじゃないけど、近接寄りにトレーニングしていこうかなと思ってるよ」


 いくつかの剣技も身に付き、自分でも動きがゲームチックになってきたと思えるようになっていた。

 村へと戻る街道を歩き、アテナと何てことのない雑談をしながら帰りの時間を潰す。


 村の門が見えた時、村の方から誰かが呼んでいるような声がしたような気がした。


「何かあったんだろうか」


 よく見てみると衛兵が何かを叫びながら俺の方へと走り寄ってきていた。


「――ル! エルドレッド!」

「どうしたんだ、そんな慌てて」

「帰ってきたところ悪いが、すぐに緊急で仕事を受けてくれないか!」


 かなり焦っているようで、あまり舌が回っていない。


「仕事って……なんだ、商隊が襲われたとか?」

「そんなレベルじゃない! 隣村が魔物に襲われている!」

「なっ――」


 頭をよぎるのは魔物の【主人公補正】持ちだ。

 勿論、ただのイベントクエストである可能性も十分あり得る話ではあるが、もしも俺が主人公で話が進んでいるのであれば、事はそう上手く運んではくれないだろう。


「報酬は上に掛け合って一万は用意させる! エル!」

「……今ある情報って何がある? もしあるなら言ってもらわないと」

「簡潔に話すぞ、よく聞いてくれ!」


 彼の話をまとめるとこうだ。

 村に繋がれている馬を使っていい、魔物はゴブリンとコボルトの2種類、街の方へも伝令が走っているようで冒険者がいる。もしくは合流する可能性があるという事だ。


「それでエル、受けてくれるのか!?」

「受けるさ、おっさんは村の防御を頼む!」


 すぐさま俺はその場を駆け出し、村の厩舎へと急いだ。

 厩舎では既に馬が用意されており、俺の顔を見るなり「この馬を使ってくれ!」と馬を押し付けられる事になった。


「いきなりで悪いけどよろしく頼むぞ、ええと……」

「そいつの名前はお前がつけてやれ! 落ち着いた時にでもな!」

「なんつームチャ振りだよおい! うおっ」

「状況が状況だからな! ほら、そいつも早く乗れつってんぞ!」


 逞しい焦げ茶色の馬体に、見惚れてしまいそうな美しい筋肉。

 係員との問答に待ちくたびれたのか、デカい鼻が俺の背中を軽く押す。

 顔は優し気ではあるが、まるで雷のように額から鼻先にかけてだけ白い毛が生えていた。


「ま、たまには完全に感覚でってのも悪くないか!」


 彼の背中へと跨り、軽く腹を蹴ってやるとすぐに彼は駆けだした。


 この世界に来てからは自分の足もかなり速くなったと思ったが、それでもやはり馬の速さは段違いだ。

 まるでバイクにでも乗っているかのように周囲の景色がすぐに流れ、気配察知に引っかかる魔物もすぐに範囲外へと振り切っていく。


「まるで疾風……ハヤテってところか」

「ん、その馬の名前?」

「安直すぎる気もするけどな。そういや今の俺って日本語に聞こえてるだけなのか?」

「そうだね、勝手にリアルタイムで翻訳されてる感じ。それが何か?」

「いや、ならハヤテって名前は日本語に出来るか? 他の人が聞いても」

「んん?」

「ややこしくて悪いな。まあアレだ、この世界の人に意味が通じなくていいからハヤテって名前にしてくれって事だ」

「なるほどね、分かった!」

「お前もそれでいいか?」


 彼はまるで同意するかのように速度を上げる。

 自分で走れば半日はかかりそうな道のりをあっという間にハヤテは駆け抜け、俺らが拠点としている村と同じような塀が視界へと入った。

 目を凝らしてみると塀の一部は破壊されており、村の中からは煙が上がっているのが見える。


「ハヤテ、ペースを落として……いい子だ。アテナ、こう……馬って呼んだりしたら戻ってくるか?」

「魔法に馬を呼ぶのがあるから、それで何とかなるよ。馬との距離が遠いと消費MPが増えちゃうことには気を付けてね」

「サンキューな、ハヤテ、安全そうなところに隠れていてくれ」


 ハヤテの頭を撫で、軽く尻を叩いてやると彼は小走りといった様子で俺達から離れて行った。


「さて……急ぐか」


 俺は鞘から刀を抜き、村の方へと駆け出した。

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