【第一章】異世界

第4話

「おうエル! しばらく見なかったが元気か?」

「ああ、心配かけちゃったかな」


 村人たちの言葉が分かるようになっている。

 都合のいい事に、どうやら村で俺の事はそれなりに知れ渡っている上に、程よく社会的な立場も確保されているようだ。


 最初こそ苦労はしたが、アテナの言葉だけではなく衛兵によるレクチャーもあって、感覚を取り戻すのに1週間ほどしかかからなかった。


「筋がいいな、冒険者になれるぞ」

「はは、王道ってとこだな」

「王道? まあ確かに冒険者に憧れる子は多いが……大抵は諦めるからな、どうなんだろうか」

「いや、こっちの話さ」

「とりあえずだ、そろそろ魔物を相手にしても問題ない頃だろう。ここでスキルを一つお前に与えるとする」


 普通の会話から当たり前のようにゲーム感のある言葉が飛び出すのにはまだ慣れない。

 もう少しゲーム感が強ければ、試しに村人に一発攻撃を仕掛けてしまっていたかもしれない妙な感覚だ。


「まずエル、確認がてらお前のスキルとレベルを教えてくれ」

「ああ。レベルは5で、俺が持っているのは【主人公補正プレイヤー】【近接戦闘術LV3】【射撃LV2】【魔法LV2】【気配察知LV2】の4つだな」

「やっぱりレベル5にしちゃ豪勢なスキルレベルと数だな……大物になるかもな」

「ちなみに普通はどれくらいなんだ?」

「レベル5なら1つか2つってのが普通だな。気配察知はもう少しレベルが上がれば大抵生えるスキルではあるが、そのレベルで2ってのはかなり珍しい。さて、話を戻そうか」


 衛兵は俺へと手をかざし、何か小さく呟いたと思ったその時だ。俺の中で何かを理解したような感覚があった。

 確認してみると先ほどのスキルの中に【レベル看破】というものが追加されていた。


「そのスキルは相手の大まかなレベルが分かるものだ。相手によっては判別不能といった事もあるが、その場合は逃げる事を勧める」

「これはありがたいな。相手のHPも分かるのか」


 HPが分かるとは言っても、ゲームのUIのように視界に直接表示されているわけではなく、そのような部分は自分の感覚で理解できる世界だ。

 以前のテストでアテナに聞いたが、一応ゲームのように表示させることも出来るのだが、正直それをするメリットを俺は感じなかった為に、視界は非常にクリアだ。


「さて、俺から依頼を出そう」

「初仕事か、お手柔らかに頼むよ」

「安心するといいさ、俺も鬼じゃないんだから」


 苦笑いしながら衛兵は言葉を繋げる。


「お前に頼むのは周辺の魔物の討伐だ、コボルトにゴブリン、ウルフにスライム……まあ何でもいい。合わせて10匹倒してくれたら報酬を払おう」


 衛兵は小さな袋を取り出して揺らす。揺れる袋からはチャリチャリとコインが当たる音がしており、聞いてみると1000ウル入っているのだそうだ。

 一回での食事や消耗品から俺の感覚でそれが日本円でどの程度のものかと言えば、大体1万円程度のものだ。ただ、武器等はあちらの世界に比べると酷く安価な印象はあるが。


「えらく大盤振る舞いじゃないか?」

「初仕事だしな、次からは相場通りだから期待すんなよ?」

「調子に乗って使うと痛い目見そうだな」

「逆にがっつり使っちまうのも手ではある。先行投資として良い武器や防具を買うってのは賢いやり方だしな、使い手が未熟だと――という意見もあるが、まぐれで大きな一撃が狙えるようになる。という意味では俺はアリだと思っている。まあ、あくまでこの依頼をこなせたらの話だが」


 衛兵はそう言うと袋を懐へとしまう。

 小さいとは言ってもコインの入った袋をしまうスペースは無いように思えるが、ゲームでもよくある亜空間収納だろう。


「ほんと、変なところで調子狂う世界だな……」

「何か言ったか?」

「いや、行ってくるよ」


 物理的に考えて納得しづらい事でも便利なものは便利だ。下手に考えたところでそもそも何にもならないのも事実だ。

 俺は村の外へと続く門へと歩み始めた。

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