一回戦の模様

一回戦第一試合 ヘラクレスオオカブト対アデリーペンギン

 先に仕掛けたのは、体格において圧倒的有利なアデリーペンギンであった。意外にも気性の荒いこの南極ペンギンは、地べたを這う鈍重なヘラクレスオオカブトの背を何度もしつこく嘴でつつく。執拗な攻撃に耐えかねた硬い外骨格は破られ、憐れにもオオカブトはアデリーペンギンに身を食われてしまった。


一回戦第二試合 アノマロカリス対アリゲーターガー

 唯一、絶滅動物からのエントリーとなったアノマロカリスに神々の注目が集まった。このカンブリア紀の頂点捕食者は、小回りの利かないアリゲーターガーを初っ端から果敢に攻め立て脇腹に噛みつこうとした。だがアリゲーターガーの硬いガノイン鱗はそう易々と傷つかない。

 次第にアノマロカリスを鬱陶しく思ったアリゲーターガーが反撃に出ると、六十センチメートルのアノマロカリスは二メートルもの巨体を誇るアリゲーターガーに全く敵わなかった。最後はガーパイク特有の細長い口吻に咥えられ、そのまま胃袋へ直行となった。


一回戦第三試合 ラーテル対ホホジロザメ

 何者をも恐れない気の強さから「世界一怖い物知らずの動物」と呼ばれるラーテル。しかし如何せんこの猛獣は怖いもの知らずすぎた。このフィールドは陸地と海が設けられていたが、優勝候補ホホジロザメの泳ぐ海に自ら飛び込んだのだ。当然、待ってましたとばかりにホホジロザメが近づいて、ラーテルの体にかじりついた。

 そのまま捕食されるかと思いきや、ここでラーテルの秘密兵器が発動! ラーテルは臭腺から悪臭を放つ汁を出し、嗅覚が敏感なホホジロザメを退散させたのだ。以降、ホホジロザメは戦意を全く喪失してしまったが、一方のラーテルも噛まれた際の傷が致命傷となり、これ以上の戦闘続行は不可能となった。ラーテルは死亡し、ホホジロザメが勝者に。


一回戦第四試合 アメリカブタバナスカンク対アムールトラ

 優勝候補と評されるアムールトラが登場。この地上最強ハンターは先手を打ってスカンクに襲い掛かる。だがここでスカンクの悪臭攻撃! スカンクの中では大型なアメリカブタバナスカンクは悪臭汁の量も多く、臭いもより強烈だ。アムールトラはすっかり戦意を喪失し判定負け。優勝候補がまさかの初戦敗退という失態を晒した。なおその後、アムールトラはその美しさを神々に気に入られ、天界の檻で飼われることとなった。

 一方、悪臭の立ち込めるフィールドは、神による不思議パワーでさっぱり消臭された。


一回戦第五試合 キングコブラ対ニシローランドゴリラ

 ウエイトと知力ではゴリラに分があるものの、コブラには一撃必殺の猛毒がある。どちらが勝っても不思議ではない好カードだ。キングコブラは五メートルもの長い体を活かして鎌首をもたげ、威嚇のポーズを取った。ゴリラは一瞬たじろいだものの、すぐに冷静さを取り戻し、じっとコブラの体を観察した。

 ゴリラが手を出すと、コブラは倒れ掛かるように噛みつこうとした。ゴリラはさっと手を引いてそれを避ける。それを三回ほど繰り返した後に、とうとうゴリラは攻略法を編み出した。攻撃の後に隙ができるのを見つけたゴリラは、コブラの噛みつきを避けると素早く首根っこを掴み、強力な握力を活かして喉を潰してしまったのだ。この一撃で、キングコブラは絶命してしまった。ゴリラパワー、恐るべし。


一回戦第六試合 ミズオオトカゲ対ヒクイドリ

 上から見下ろすヒクイドリを、下から狙う形のミズオオトカゲ。最初に仕掛けたのはヒクイドリであった。強烈な蹴りがオオトカゲの顎に命中し、刃のような鍵爪が突き刺さったのだ。

 この一撃が勝敗を決した。オオトカゲは出血多量で死亡し、初撃のみでヒクイドリが勝負を制した。先手必勝とはこのことである。


一回戦第七試合 ベトナムオオムカデ対アフリカウシガエル

 かぼちゃのように大きなアフリカウシガエルに、機動力と気の荒さ、そして毒を兼ね備えるベトナムオオムカデが襲い掛かる。だが如何せんウエイトに差がありすぎた。唯一両生類からのエントリーとなったアフリカウシガエルは、大きな口でベトナムオオムカデの体をぱくりと咥えてしまった。

 しかしオオムカデもただでは死なない。首を折り曲げてウシガエルの鼻っ面に噛みつき、毒を流し込んだのだ。結果、オオムカデは捕食されて死亡、ウシガエルは毒が回って死亡。相打ちの結果となった。


一回戦第八試合 マントヒヒ対ヒト

 一回戦のラストバトルは霊長類同士の戦いとなった。ブリーフを履いた中年男性が、赤い尻をしたオスのマントヒヒと対峙する。

 男は何故自分がここに連れてこられたのか分からず途方に暮れていた。風呂から上がり、下着を履いたタイミングで、気づいたら真っ白い壁に囲まれた部屋に瞬間移動していたのだ。

 一方、元々群れのボスであったマントヒヒも、急に群れのメスや子どもたちと引き離され、白い壁に囲まれた見知らぬ土地に連れてこられ、困惑気味にきょろきょり周囲を見渡していた。その時突然、毛のない大きな動物とばったり遭遇した。ヒトである。

 マントヒヒは突然出くわしたヒトに対して、牙をむき出し威嚇した。おじさんはビビッて逃走するも、これがマントヒヒの狩猟本能に火をつけた。マントヒヒは意気揚々とおじさんを追い回し始める。その様子はさながら鬼ごっこのようであった。

 すっかり怯えてしまったおじさんは、マントヒヒを退散させる逆転の一手を探していた。下を向くと、土の地面に石ころが幾つも落ちている。おじさんはこれを拾うと、マントヒヒ目掛けて投げつけた。

 この投石攻撃が、クリーンヒットとなった。幸運にも石はマントヒヒの顔面に直撃したのだ。マントヒヒは顔から血を流したままうずくまり、それ以降はフィールドの隅でじっとしたままになった。結果、ヒトが判定勝ちとなった。

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