イケニエゲェム

Mです。

第1話 ルール説明と自己紹介

 じっとりとした汗が流れる。

 熱いのか寒いのかさえわからない。

 熱いか寒いかそんな簡単な判断さえできずにいる。

 

 眠っていたのか、気を失っていたのかさえ思い出せない。

 目を覚ます、そこは全く見知らぬ光景。


 両手は背中の後ろに回され手錠のようなもので拘束されている。

 時間の経過と共に少しだけ冷静になる。

 

 周りに感ずかれないよう、周辺に目を配る。

 自分と同じ様に拘束されている年齢も性別も統一せいはない人。

 自分よりも先に目を覚ましていただろう人と、今、ようやく目を覚ました人と……その誰もが今の状況を読み込めないようだ。


 冷静に少しずつ分析するが……やはりこの状況に至る経緯が思いつかない。


 教室一つ分くらいの広さの部屋。

 窓一つ無い、頑丈そうな壁に覆われている部屋。

 見たことのない頑丈そうな扉が一つあるだけ……


 教卓のような机の上に置かれたTV……

 部屋に明かりは無く、そのTVが移す真っ白な映像の光だけが、その部屋を情報を照らす明かりだった。

 周辺には自分と同じ17歳くらいの年齢から40代くらいまでの男女が自分も含め10名程度の人。


 全く見覚えの無い人。

 なんとなく知っているような人。

 そして、見知っている人。


 その見知っている人間の男に目線を送る。


 見たことも無い怖い顔だった。

 周辺から情報を取り込もうとしているのか、顔を余り動かさず瞳を忙しそうに動かしている。

 怖い顔で考え事をしていた一点を見つめていた男の瞳が何かの気配に気がついたように、私の目と合った。



 怖い顔をしていると気がついたのか、男は無理に笑顔を作った。 

 私の送る目線の意図に気がついたのか、男は首を横に振り自分にも現状はわからないと私に知らせる。


 その突如、-ジジジというノイズのような音と共に、部屋を照らす明かりの様子が変わる。



 目が合った男の目も周辺の人たちの目も一斉に教卓のTVに視線を向けた。


 フードを深々と被り仮面で顔を隠した人間が映し出される。


 年齢も性別もわからない。

 

 「皆様、お目覚めかな?」

 私が目を覚ましてから始めての一声。

 モニター越しの仮面の人間が語り始める。

 声は変声機で変えられていて、やはり年齢も性別も判断がつかない。


 半分の人間はそのTVの画面を呆然と眺め、

 もう半分の人間は、周辺の様子を伺うように、周辺の人間を気づかれぬように観察したりしている。


 「罪深き人間の皆さん、今宵はお集まり頂きありがとうございます」

 謎の11人目の人間……

 恐らくこの状況を作り上げた張本人。

 自分達に不都合な人間だろうという判断は嫌でもわかる。


 「そんな皆様に命をかけたゲームに参加して頂きます」

 状況が読み込めないように呆然としている者。

 眉をひそめ、険悪そうにモニターを見つめる者。

 興味無さそうに目を背く者。

 周囲の人間をひたすら観察している者。


 「名付けて、イケニエゲェム!!」

 モニター越しに仮面の人間は楽しそうに語る。

 生贄ゲーム?

 そのワードから、その言葉の意味を推測するよりも、今は目の前の人間から告げられる言葉を直接聞いたほうが早いだろう。


 「内容は簡単だ」

 どうにも口調が安定しない……モニターの中の人間、何か意図があるのか?


 「すでに……その中に紛れているボクを?私を?俺を?見つけ当てるゲームさ」

 その言葉にようやく呆然とモニターを眺めていた人間は周辺の人間の顔を眺め始め、すでに周辺をくまなく見ていた者はその言葉に動じず、モニターの奥の人間を探るように見ている。


 「……それで、ゲームというのは?」

 トレモント・ハット?というのだろうか……

 ちょっと紳士的に見える帽子に似合わない少し胡散臭い感じの、30代半ば……くらいの男がモニターの人間に尋ねる。


 そもそも……目の前の映像はリアルタイムなのだろうか?

 多分……それも踏まえ、モニターの人間が言葉に反応を示すのかを試したのかもしれない。



 「……そう急ぐな、きちんと説明しますよ」

 相変わらず口調が安定しない仮面の人間。

 

 その返しの言葉を確認すると、トレモントハットの男と数名の人間は、周辺の人間の様子を見渡し何かを確認しているようだ。


 「いいねーーー、優秀だ、優秀です、それくらい意識できる人間が居るのは喜ばしいですよ」

 仮面で見えぬ顔は恐らく不敵に笑っているのだろう。


 「さてさて、ゲームの内容だが12時間置きにイケニエゲェムを開始する」

 「その12時間の間……互いに互いを探り合うもよし、この建物を探り何らかのヒントを得るも良し、無駄ではありますが、逃げ出す手段を探すもありかもね」

 仮面の人間はそう告げる。


 「いけにえゲーム?君をこの中から探し出すのだろ?何だかそのネーミングは少し違和感を感じてしまうがね」

 帽子の中年男はそう尋ねる。


 「そう……12時間後に皆が集合して」

 「そこで、ボクを言い当てれば君たちの勝ち……全員生き残り晴れて生還、しかし言い当てられなければ君たちの負けで全員皆殺し」


 「12時間後……もし私の正体がわかっているのであれば、狼処刑の投票も可能だ……、ただ間違えば全員皆殺しのリスクを負う事になるわけさ、そこでもう12時間、君たちの命に猶予を与えるのがイケニエゲェム……そこで投票を行いもっとも票を集めた人間の命を狼に捧げるってわけです」

 全員が圧倒されている。


 「……もし、その生贄ゲームとやらで狼本人を吊り上げたら?」

 帽子の中年男はそう尋ねる。


 「……そうだね、その時も君たちの負け……全員皆殺しかな?」

 なるほど……帽子の中年男性はそうぼそりと呟く。


 12時間後……全員生存をかけ、狼を言い当てるか……

 全員死亡のリスクを避け、羊を一匹狼に献上するか……


 この異常な状況で……今起きていることを全て鵜呑みにするのか……否か。

 そこに居る全員が考えているだろう。


 「それじゃ、俺も余り墓穴掘るわけにいきませんし、この辺で」

 そう仮面の人間が言うと、ぷつんとモニターの電源が落ちた。

 液晶の明かりだけで照らされていた窓一つ無い部屋は真っ暗になるが、

 ガシャンという音共に、部屋の明かりつく。


 同時にその部屋に囚われている人間の手錠が外れていく。


 「……やれやれだ、この中にこの現状を説明できる者はいないかい?」

 トレモントハットに左手を添えながら立ち上がり、後ろに振り返った中年男が、ここに居る者にそう告げるが、誰一人と口を開かない。


 「なるほど……それでは、まずは自己紹介……でもしておこう」

 やわらかい口調で中年の男は場を仕切るように話を進める。


 「この場を整理するためにも……互いに知る事も現状を理解するヒントになるかもしれないよ」

 中年の男は言う。


 「それじゃ、言い出した僕から自己紹介しよう」

 中年の男は周辺を見渡しながら


 「赤桐 功(あかぎり こう) 一応、しがない探偵事務所を経営している者さ」

 テレビドラマや小説ではよく耳にする職業だが……実際職業にしている人を見るのは初めてかもしれない。

 黒いハットをかぶり、黒いスーツに身を包む、少し無精ひげをはやしていて、それなりの年を重ねているのだろうと見て取れる。

 身長は180無いくらい……見た目は細身だがそれなりの武道は嗜んでいるようにも見える。


 「質問があれば……答えられる範囲で答えるが……」

 赤桐と名乗った男はそう言うが、誰も口を開かない。

 「それじゃ、次、誰か自己紹介お願いできるかな?」

 ……質問が無いのを確認するとそう赤桐は言った。


 暫く誰も動かなかったが……

 見知っている男性がその言葉に最初に従った。


 「青都 吟芽(あおと ぎんが) 高校生……」

 そう淡々と言い、自分の番を終えようとする。

 私の前ではいつもへらへら笑っているイメージしかない……

 こんな訳のわからに状況、しかたなかったが、私の知らぬ一面……いつもの彼の余裕を感じられなかった。


 「今回の件、仮面の人間に身に覚えは?」

 ハットの男のその質問に吟芽はます睨む事で答える。


 「……全く身に覚えなんて無い」

 そう吐き捨てる。


 ハットの男は帽子を上から支えるように押し付けながら……

 「……この部屋を、この状況を観察し……気が付いた事は?」

 帽子を深々とかぶりながら男は尋ねる。

 私の知る限り……この赤桐という男も、ギンも、その他数名、冷静に必要以上にこの部屋……モニターの仮面の人間を観察していた。

 


 「部屋に見覚えもないし、此処に居る理由もわからない」

 ギンはそう言うと、それ以上質問されたくないように早々に座る


 「それじゃ、次の人」

 赤桐は、そう周辺を見渡し言う。


 ギンに習いさっさと自分も終わらせてしまいたい、そう思い立ち上がる。


 「黒瀬 零素(くろせ れいす) 同じく高校生」

 それだけを告げ自分も早々に座ろうとするが、


 「黒瀬 零素?」

 赤桐は少しだけ考え込む、

 少なくとも私は、この赤桐という男を全く知らない。


 「初めまして」

 私には、少なくともそんな反応される覚えなどない。

 会話を断ち切る嫌味も込めて挨拶をする。


 「あ、あぁ初めまして、そうだね、僕と君は初めましてだ」

 優しそうに笑いながらも、何かを見透かそうとする目に、どことない嫌悪感を感じる。


 「青都 吟牙君だったね、同じ制服のようだが、2人は知り合い?」

 関係を知られてどうこう無いが、なんとも気味の悪い質問に聞こえる。


 -ダンッという音で自分に周囲の注目を集める。

 靴底を床に叩きつけ大きな音をたて、ギンは周りの視線を自分に向ける。


 「今は自己紹介だけなんスよね?他にも同じ制服の人居るけど、全員、知り合いかそうじゃないか、あんたに報告しないとダメっスか?」

 周辺を見渡し、ギンが嫌味混じりに言う。


 「ごめん、ごめん、職業柄か気になった事はすぐに口に出てしまってね」

 帽子を左手で押さえながら軽く頭を下げる


 「悪かったね、今はこれ以上聞かないよ」

 赤桐のその言葉を聞いて私はその場に座る。



 「無槻 鏡華(むつき きょうか) その2人と同じ高校の生徒」

 自ら立ち上がり、凛とした態度。

 眼鏡でキリッとした顔立、スタイルも良く、同じ高校生とは思えない大人びた雰囲気。


 はっきり会話をした記憶は無いが、同年代の生徒で学年トップの成績、次期生徒会長と噂されていた。

 正直、私もギンも近寄り難いと思っていた相手だ。


 「賢そうなお嬢さんだ、君なら何か一つくらいわかったんじゃないのかな?」

 赤桐がそう鏡華に尋ねる。


 「こんな趣味の悪い事、鵜呑みにしたくないけど普通じゃないのは確か、迂闊な発言はしない方がいいんじゃないかしら」

 冷たい口調で、とても聞き取りやすい滑舌で言い終えるとその場に座る。

 ごもっともと赤桐が言葉を返すとその場に座る。



 「緑木 甚之助(みどりき しんのすけ) 高校の保険医をやっている」

 白衣を着た、如何にもな男性。

 恐らくこの中では一番の年配者だろう、40代前半、自分の高校の保険医だったが、正直余り私には縁の無い場所だった。

 世話になったことも、話をしたことも余り無いが、物腰の低い優しいイメージのある先生だ。


 「情け無い話だけど、状況は全くわからないし、動揺していてどう対処するべきかの判断はできていない」

 赤桐に聞かれる前に自分の考えを伝える。


 「ぼ…お、俺は水口 圭(みずぐち けい) 高校生」

 ニット帽をかぶり、少し長めの髪

 ちょっとひ弱な体つきで、おどおどした態度にも見える。

 彼にも、赤桐も誰も質問する事なく自己紹介を終える。

 同じ学校の生徒のようだが、正直見覚えはない。

 私自身顔の広いタイプでは無いし、不思議では無いが。


 「麻橙 寧々(まとう ねね)です 高校生です」

 礼儀正しくお辞儀をする女性。

 絵に描いたような丸縁メガネがよく似合う、見た目から性格、育ちの良さが見て取れそうな容姿。

 同じように、そこに居る人間が全員一度確認するように彼女を見つめた後、すぐに下を向くように伏せ、赤桐からの追加の質問も無くその場に座る。



 「桃井 理佳(ももい りか) 高校の教師をしています」

 若い美人女教師……自分のクラスの担任でもある桃井 理佳。

 正直余り好きなタイプではない。

 教師という職業を全うするというよりかは、一人の女という方が意識が強く自分の若さと女という部分を武器にしているように見え、私達生徒を見下した目で見ているような気さえする。


 「……一応、聞いておくけどこの状況に心当たりは?」

 赤桐はそう桃井に尋ねる。


 「無いですね……自分の学校の生徒も多く居るようですが、共通点もわかりません」

 そう話、その場に座る。


 「灰葉 項晴(はいば こうせい) ………」

 私服姿の男がそう答える。

 もちろん、周辺の人間も、本人も次の質問が来るのは予測していただろう。

 赤桐は容赦なく口を開く。


 「……職業は?」

 赤桐よりは年下……20代後半から30代前半と思われる男性。


 「………っ」

 明らかに動揺している様子で……


 「……む、無職だ!」

 そう力強く言った。

 確かに無職を恥じて、今みたいな態度を取るのは理解できるが……

 何かを隠したようにも思える……

 

 赤桐も少し考えた後、あえてそれ以上の質問はしないようだ。


 「……ちっ」

 制服を着崩した男子生徒が舌打ちをして、起き上がる事無く口を開く


 「黄多 亮(きだ りょう) 高校生」

 これもまた、不良を絵に描いたような金髪の男子生徒。

 必要に絡むべき相手では無いと誰もがそれ以上の質問はしない。


 全員が正面を向き直す瞬間。


 「紫々戸 凛祢(ししど りんね) 無職です」

 そこに居た何名かが驚いたように声のした方を向く。

 もちろん、そこにその男性が居たことは知っている。

 立ち上がって、挨拶する男は……下手するとそこにいる誰よりも幼く見えるが、

 恐らく同じ高校の生徒ではない……

 学生か社会人なのかさえ判断ができない。


 何が楽しいのか不謹慎にニヤニヤと笑っている。


 ここに居た数名は、そんな奇妙な彼に驚いている訳ではない。

 いま、ここに居る人間で状況を見ようとしていたものは全員驚いている筈だ。


 少なくとも私が目を覚まし、仮面の人間の演説が始まった時は確かに10名しかいなかったはずだ。

 この目の前の男の詳細よりも……11人目の何時の間にかの存在。

 仮面の人間が何時の間にか紛れ込んでいる?ということだろうか。


 まるでこの状況を楽しんでいるかのような11人目の存在と……

 この中に何食わぬ顔で紛れ込んだ11人目の存在。


 それらに、そこに居る人間がそれぞれ思考をひろげる中……

 イケニエゲェムは静かに始まりを迎える。

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