第34話 思わぬ再会(最悪のタイミングでの)

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。

―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。



一九七五年、八月:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上


 メタソルジャーは白い塗料で錆を隠したりあるいはその上から更に錆びているような船の外の区画を走り抜けた。

 ただひたすら、ここで大量殺戮が発生する事に反対しようとした。

 一方でローグ・エージェントはぞんざいにゆっくりと歩いてケインを追っていた。行くべき場所がわかっている者の余裕があった。

 超人的なパルクールで駆け抜けるケインはブリッジへと辿り着き、反射で見え辛いガラス越しに少し窺った。

 だがそこには予想外と言えば予想外の人物がいた。

 ブキャナン…テト攻勢のあの日、アメリカ軍の特殊任務部隊――コードネームでドッグフードと呼ばれていた――を裏切った元同僚。



「ブキャナン!? ニューヨークを吹き飛ばしに来たのか?」

 ケインは開いていたドアから室内へと入った。よくわからない計器が立ち並ぶ広々とした室内はガラス張りの窓で大きく視界が開けており、その遥か向こうにはマンハッタンの市街が巨人のように存在していた。

 ブキャナンは力無くケインの方へと振り向いた。ブキャナンの前には縦に置かれた容器のようなものがあり、それを起爆させるための装置らしき物体もあった。

 この核爆弾の破壊規模は不明だが、被害が相当であるのは簡単に想像できた。ネイバーフッズの仲間達とは今すぐには連絡が取れない――無線機器を配布してもらうべきであったか。

 装置には鍵が刺さっており、それを回せば爆発するか起爆のカウントダウンが始まるのかも知れなかった。

 どうするか。映画や小説なら、このような時に何か気の利いた事を言って注意を逸らすのであろうか。生憎、そのような言葉が咄嗟には浮かばなかった。練習しておけばよかったか。

 なるほどもしかすると、世界を救うなりなんなりしたければそのような事にも備えるべきであったかも知れなかった。まあなんでもいい、何か言ってみなければ。

「投降しろ、ゆっくりだ、ゆっくりとそいつを置くんだ」

 反応は無かった。ブキャナンは空っぽのような表情で彼を見返してきた。

「お前の妻は政府の保護下にある。安全だ。お前も投降すればやり直せる」

 無論それは嘘であろうなとケインは我ながら思った。正確にどのような沙汰になるかは不明だが、しかし冷戦下において国を裏切り、そのせいで死傷者が出ている以上、かなり重い刑になるのは目に見えていた。

 まあ、時には優しい嘘も必要かも知れないが。

 ケインは太陽光で逆行になっている事に気が付いた。目だけ動かせば、恐らく相手に察知されず周囲を窺える。

 何か気を逸らして、接近するための一手に使えそうな物を探せ。軌道を計算しろ。正確に当てて、一瞬でも怯ませろ。その後はまあ、なるようになる。

 ならなければ、あるいはそれが運命か何かであれば、この大都市は核爆発で壊滅的な被害を受けるであろう。

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