第11話 ショットガンvsスーパー日本刀

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。

―謎の忍者…ローグ・エージェントが放った刺客



一九七五年、八月:ニューヨーク州、ブルックリン、ウィリアムズバーグ


 雨の中でショットガンの確認をした。特に細工も見られない。機構の状態も良好なようであった。グリップと繋がっているストックの斜め上部分を頬に当て、肩で固定し、相手に銃を向けた。

 相手は奇妙なパターンで刀を振るい始めた。右に、左に、右に、左に…何かがおかしいと思った。視界がぼやけ、あちこちにあの忍者がいるような気がした。嫌な感じだ。

 やがてケインは、かつては全然駄目であった射撃技術を熟練させる事ができたあの奇妙な訓練を思い出した。時間の流れの異なる位相だかなんだかにある、射撃訓練場の記憶。そこで積んだ様々な訓練が蘇った。

 彼は己の周囲でゆっくりと敵が刀を構えるのを目にした。これはある種の精神的な掌握なのだ。術を完成させるためにはこのようにゆっくりと動く必要がある。ケインは精神的な干渉に対する抵抗の仕方も学んでいた。

 これが普通、当然だと信じさせようとする何かの圧力を感じていた。否、そうではない。強い拒絶を持とうとした。心に入り込む何かを否定した。当然を当然でないと定義した。この手法が個人的には最もやり易かった。

 断固たる態度で拒み、そしてゆっくりと刀が引かれるのを目視した。ケインは己の周囲から突き出される刀を跳び上がって回避し、お返しに正面にいる忍者の頭を強く踏み付け、ぐっと動かした。着地すると忍者は一人に戻っていた。

 重さ的にはショットガンは満タンまで装填されているようだ。鋭い目で睨んだ。ショットガンを腰だめで構え、相手の出方を伺った。ケインが発する隠しもしない敵意は相手を刺激し、すうっと踏み込んで来た。遅いようで目視不能に近い速度。

 しかし予想は可能であった。ケインは滑るようにして刀を突き出す相手の肩及び背中の上をごろりと紙一重で転がって後ろに着地し、ショットガンを発射した。相手は咄嗟に刀で防御したが、散弾の全てを斬るには遅過ぎた。

 何発か胴に命中して、恐らく防具で軽減されたにしても、暴力的な衝撃によるダメージは通ったらしかった。次弾を発射。これは全て防がれたが別にいい。排莢して次を撃った。これは不意を突く目的で跳弾を狙った。

 ショットガンの散弾で跳弾、否、そもそも跳弾という現実に狙うには不確か過ぎるものを、ケインは弾道を可視化するエクステンデッドとしての能力で見ていたし、更には熟練した射撃によって制御できた。

 あり得ないようなものを狙った。幾つかは地面を跳ねて相手の脛に当たり、逸れたものは『不幸な』反射によって忍者の背後から襲い掛かった。12ゲージ弾の粒が敵を混乱させた。まるで四方八方からスレッジハンマーで殴られたかのような。

 即座に移動しつつ別の角度から狙った。相手はよく守られ、更には肉体の強度も己と同等かそれ以上だと判断した。それならば耐えてくれるであろう。続けて更に別の角度から撃っておいた。相手のペースを崩している。

 接近して顎を下から蹴り上げた。相手の防具が砕けた感触があった。すうっと後退して胴の防具目掛けて更に撃った。何かが壊れるような轟音が銃声及び雨音の中で響いた。未だに降り続く雨はこの場で起きている死闘を全て見ているらしかった。

 それこそ、こういう相手と戦うなら有名なコミックのキャプテン・アメリカのようなシールドでも作ってもらった方がよかったかと考えたが、しかしこれが己の得意とする戦い方であった。どこまで行っても己は銃と切っても切り離せない関係にある。

 銃は恐ろしい武器である。加減がほぼできない。ならばそれを使う側には当然ながら責任が生じる。それは当然の事だ。だが、外国から来た諜報員やそれが雇った強力な忍者ならどうか? それらとの戦いにおいて、人々を守るためにどこまで本気を出すべきか?

 相手は出血していた。当然であろうが、しかしまだ動けるらしかった。やはり並の肉体ではない。ケインは相手が斬り掛かるのを躱し始めた。届くぎりぎりの範囲から巧みに、掠めるようにして放たれた斬撃をすうっと避けた。

 一気に踏み込んで圧すように斬り付けてきたが、即座にショットガンを暴発せぬよう脚の上を滑らせて地面に置きつつ、こちらからも接近してその腕をぎゅっと握った。

 がちがちと震えて拮抗していたので、空いた左手で胴を何度も殴った。そして注意を逸らしたところで掴んでいる方の相手の腕に技を掛けた。

 関節を攻撃するのはこういう相手でも、少なくとも力が掛かりさえすれば有効であった。不意に相手の手を捻って激痛を走らせて、刀を取り落とさせた。ケインはその手を掲げさせてから肩で相手の胴を殴打し、更に追撃で顔面を肘で攻撃した。

 壊れた防具が更に砕けた。金属が凹むような感触があった。ケインは先程あの超人兵士に受けた技を思い返して模倣した――相手の手を放すと、高速で胴を連打してからアッパーで顎を殴り上げた。相手が血を吹くのを確認してから、ケインは破城鎚じみた蹴りで忍者を吹き飛ばした。

 相手が通りを跨いで向かいの打ち捨てられた建物のガラスを突き破り、その薄暗い室内に消えた間に彼は刀を拾い上げ、それを地面に突き刺した。そして斜めにしてから、刃の横腹に負担が掛かるようにぐっと曲げようとした。

 普通では破壊できないはずのそれに異様な力が働き、そしてぐっと曲がり始めた。日本刀やそれに類似した刀剣は大抵、刃に対して横方向にはあまり弾性が無い。普通の人間なら不可能なぐらいの力を作用させれば曲げたり、あるいは折る事もできる。

 ケインは超人兵士としての力でぐっとそれを曲げ、耐えられなくなったそれは折れずとも、しかしぐにゃぐにゃに曲がった。古今東西、刀剣は力や精神の象徴であり、これは有効な手に思えた。相手は怒るはずだ。

 そしてケインはそれを背後の建物の屋上へと投げると、次にモスバーグを拾って解体し始めた。まず弾を全て排出させた。それからパーツごとに分解しながらそれを地面に捨てた。

 ちょうどそれと同時に、明らかに冷静でいられなくなった相手がこちらにゆっくりと向かって来るのが見えた。

「さて、腰抜け。お前と私、昔ながらの手法だ。無手で戦って、どちらかが最後まで立っている。お前にその勇気があれば、下らない術など使わず堂々と立ち向かって来い」

 ケインは相手のプライドを破壊し、貶め、怒らせる事を選んだ。それによって相手の様々なアドヴァンテージを消そうとした。実際上手くいったように思われた。

「掛かって来い、腰抜け野郎カワード・エス・オー・ビー!」

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