第11話 極振り後語り-一撃必殺ビルド

「それじゃあ今日は最後に『極振り企画の思い出語り』やるよ。あー、一応後で切り抜いて動画にはする。ただ全編は出さないかな。ある程度カットする」


 特にどれを話したいというものも無いので、リクエストを受けて話す対象を決めることにする。


「いや、ワールド・エンドの『速度極振り暗殺ビルド』が一番多いけど、とりあえず初回は『鋼の大地』のやつにしよう。他はまたそのうち。一応このゲームを見に来てくれてる人も多いと思うからな」


 動画は対象の層を考えたりせず思うように作ってはいるが、今は生放送をしていることだし見ている相手に多少気を使っている。話すテーマは合わせておいた方が良いだろう。

 

「じゃあ近くの公園に移動してから始めるよ」


 始まりの街と違ってこの街には人がそこそこいて、食事のとれる店も俺一人で利用できるわけではない。だらだら話すのなら場所を選ばないといけないのだ。

 

 公園に移動し、ガブちゃんを膝の上に抱え込んで配信画面を見る。先程より更にコメントが伸びていて、この『鋼の大地』において話して欲しい企画のリクエストがたくさん寄せられていた。

 

「一番多いのは……『一撃必殺ビルド』かな、多分。よしじゃあまあ適当に思い出話をするよ。あ、後次回以降のリクエストは俺のチャンネルの方でアンケート作っておくから投票しておいてほしい。流石に古い企画は細部を覚えてないから軽く見直してくる」


 『一撃必殺ビルド』。俺のこの『鋼の大地』の企画の中でも、特にうまくはまったものだ。だがその反面、修正が入るのも非常に早かった気がする。俺は別にそのビルドで稼ぎたいわけではないので、修正が入るのが決まればすぐにそのキャラクターでのプレイを止める。

 

 だから、『一撃必殺ビルド』のキャラクターは特に寿命の短かいキャラクターとなった。

 

「あれは、最初は敏捷値極振りから始めたんだ。このゲームに来てすぐの頃だったから何が出来るかも全く予想が出来なかったし、とりあえず敏捷値に極振りしてから、スキルは後で検証して行ってたんだ」


「で、その話をする前にまずはこのゲームのステータスの仕様についてだけど、基本値は最初のステータスの三、じゃないんだ。実はステータスの振り直しポーションを使えば全部振り直すことが出来て、結果一つのステータスに全て振り込んで、他を〇にしたりも出来る。俺は基本そのスタイルだな」


「だから、『一撃必殺ビルド』の時は敏捷値が最大で他は〇だった。ステータスが〇ってよくわからないと思うけど、本当に何も出来ない状態なんだよな。例えば、ダッシュは三歩ぐらいしか続かないし、普通に殴っても草食獣を殺せない、みたいな状態だった」


「毎回毎回そうなんだけど、最初のバランスが立つまでが大変なんだ。敏捷値極振りも何で他をカバーするかなって考えたときに、一時的に敏捷値のステータスを攻撃力に変換するスキルに気づいたんだ。まあそれ使うしか無いよなってことで、とりあえずそれを取得した」


 『そこから無双ってことか』『補えるスキルが見つかったら無敵だわな』『ワクワク』といったコメントを確認して、俺は首を横に振る。

 

「いや、まだそこじゃ終わらなかったよ。まあそれでも十分ぶっ飛んで強かったんだけど。装備は他に振ってたから理論上最大値ではないけど、ゲーム内のほぼ最高速に近い速度で近づいて、それをそのまま火力に変えて殴るんだから壊れてるよね。ただ、そこでまた別の武器見つけてさあ」


 『ああ……』『そんなやばそうな武器あったっけ?』『あれかあ。ナーフされてから見なくなったな』『天翼剣ね』といったコメントが寄せられる。見ている人の中には、あの頃の動画を覚えている人もいれば覚えていない人もいるのだろう。

 

 俺は、今こうして話していてありありと思い出した。

 

「下の名前は覚えてないけど、天翼剣っていう武器があってな。それ自体は高難度ダンジョンのクリア報酬で稀に手に入るっていうぐらいの武器だったんだけど。性能が、『その武器を使用するに際しては、筋力値の代わりに敏捷値を参照して攻撃力を決定する』って感じだったんだよ」


 一様に納得したといった雰囲気がコメント欄から漂ってくる

 

「当時の仕様では、俺の使ってたスキルの攻撃力と天翼剣の性能が両方反映されててな。まあ、その、ダンジョンボスが一撃で吹っ飛ぶくらいの性能してた」


「いやもちろん正面から、ってわけじゃないぞ。ただあのときの俺の速度で背中取れないやつなんていなかったからな。まあクリティカルが刺さるからだいたい死ぬ。っていう感じの性能してたな。おかげで他のプレイヤーも対俺専用に対策しないと張り合えない状態だったし」


「あ、対策は簡単だよ。下級のファイヤウォールとか、範囲で極低ダメージを与える魔法まいておけば俺が勝手に踏んで死ぬからな。ただ逆に言えば、それ以外の対策が無い、っていう状態でもあった」


 一息つこうとガブちゃんの首元をわしわしっと撫で、顔を埋める。本当にあれは、強すぎた。いやまあ俺がやった大体の事はぶっ飛んだ性能を発揮していたのだが。


「まあそんな感じでナーフは早かったな。俺はずっとソロ運用だったけど、それでも使い捨てのスクロールとか使えばほとんどのダンジョンは一人でクリアできたし」


 『無双だな。でも結構戦いはギリギリだったよな?』『聞く分には簡単なんだけどな』『動画ではあまり楽に見えませんけど……』といったコメントが見受けられる。動画も同時に見てくれているのか。ありがたいことだ。

 

「俺は完全に極振りだからな。最高速度は一瞬しかもたないからとどめまでのルートを最初に決めないといけないし、なにかかすったらおしまいだ。そういう意味では、一方的に楽、ってわけじゃなかったな」


「ただあれの問題は、俺のやり方を真似て研究した人がもう少しバランスを見て他のステータスに少し振ったり、他に有用なアイテムを見つけた場合には止める手段がなくなるってことだよな。特に俺は使わなかったけど、蘇生薬を数揃えられる人は、一人でどんなダンジョンでも絶対踏破出来る。一回死ぬ間に一回、もしくは二回殴ってれば良いんだからな。そのあたりを見てのナーフだろう」


 『むしろやってる間に真似されなくてよかったってことか』『アマツさんがそれで稼ぎに走ってたら、すごいことになってそうだね』などと考えてくれているが、まさにそうなのだ。

 

「ナーフされて当然だった、って感じだな。俺は別にイベントでトップ取ったり最難関レイドをクリアすることは興味ないから、そういう意味ではゲームにとっては良かったんだろうな。攻略組が真似してたらもっともめてただろうな」


 退屈だ、と言わんばかりに腕の下でもぞもそしているガブちゃんを解放すると、公園の草の上を走っていった。

 

「はい、俺の思い出語りはここまで。何かこれに関して質問があったら答えるよ」


 そう投げかけると、色々な質問が飛んでくるので時間の許す限り答えていった。といっても他の企画に関する質問は除外したり、似通った質問はまとめて答えるのでそれほど時間はかからない。

 

「『それはチートじゃないのか?』、ね。最初の頃はよく言われてたけど、俺は絶対にゲームで出来ない事はしないよ。ゲームで出来ることだからしてるんだ。で、ゲームで禁止されたりできなくなったりしたらもうやらない。チートっていうのは、ゲームで出来ないことを勝手にやることだからな。そこは勘違いしないでくれ。ちょっと例えは悪いかもしれないけど、遥か昔は盗みは禁止されてなかっただろ。でも禁止された。だからやらない。その程度の話だよ」


 最後の質問に答え、草を払って立ち上がる。

 

「はい、今回の放送はここで終わり。話した内容は以前の映像も混ぜながら一本の動画にして投稿するよ。見やすくまとめて戦闘シーンは演出もつけるつもりだから気になったら見てくれよ。それじゃ、皆にぶっ飛んだゲーム生活があらんことを」

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