アイスをどうぞ

星乃

子供は苦手だけど

 私は子供が苦手だ。予期せぬ行動をするし、謎だから。今だって、三つ並んだベンチの中からわざわざ私の隣に座ってきた。他は誰も座っていないのに、何故私の隣なのか。


 一人暮らしの家でエアコンが故障してしまい、サウナのような部屋から脱出した私は公園に来た。外なら多少は風があるからましだろうと。実際、木陰のベンチで座っていると部屋で過ごすより快適だった。近くのコンビニでカップアイスを買ってきて涼んでいたら、この子が隣にやってきたのだ。


 黙々とアイスを食べていると、こっちをじっと見て話しかけてくる。


「お姉さん、何してるの?」


「何って……アイス食べてるんだけど」


 見れば分かるでしょ、と言いかけてぐっと飲み込んだ。いくら関わってほしくないとはいえ、冷たすぎるかもしれない。


「おいしそう~」


 物欲しそうに見られても、後一口で食べ終わってしまう。隣の女の子の視線を一身に浴びながら食べきると、立ち上がる。


「え、もう行っちゃうの?」


「もう食べ終わったし……」


 君がいると一人でゆっくり出来ないからです。なんて、心の中で独り言を言う。でも、もう少しいてあげても良いか。無言で再び座ると、隣の女の子は満面の笑みになる。正直めっちゃ可愛い。


「てか……知らない人には気をつけた方が良いよ」


「それは知ってるよ。でも、お姉さんは危なくないもん」


「分かんないよ~こんなんでも実は誘拐犯とかありえるし」


「でも、お姉さんは大丈夫だし」


 語尾を真似してきたかと思えば、真剣な瞳で見つめられた。忠告のつもりで言ったつもりが、ぐうの音も出ない。


「いや、まあ確かに私は危なくないけどさ……」


目を逸らしながら呟く。まっすぐすぎて、直視できなかった。


「あー、お姉さん照れてる~」


「照れてないし」


 調子狂うな。でも、こんなに人と話したの、久しぶりかも。バイトでは一応接客やってるけど、事務的な会話しかしていないし。大学でも、自然と一人でいることが多い。


 私達はなんだかんだ、空がオレンジ色に染まるまで一つのベンチに並んで座っていた。いろんな話をした。お互いの名前とか歳とか、自己紹介に近いことを。


「そろそろ帰るね。お姉さん歩美いないと寂しいでしょ?ごめんね」


「別に、寂しくないし。それより、近くまで送ろうか?」


 まだ暗くなっていないとはいえ、ここまで一緒にいて一人で帰らせるのはなんだか心配だ。


「大丈夫だよ。あのね、歩美の家、あそこなの」


 歩美の指さす方を見ると、公園のすぐ側の一軒家だった。確かに、あんなに近くなら私なんかと時間潰していても問題ないわけだ。それより、こんな簡単に他人に家を教えていて大丈夫なのか。


「お姉さん、またなんかしょうもないこと考えなかった?」


「な、なにを……」


「私は、お姉さんだからこんな風に懐いてるの。知らないおじさんとか他の人にはしないよ。じゃーね」


 そう言って手を振ると、歩美は赤いランドセルを揺らしながら走って行ってしまった。察し良すぎるし、私だから懐くって……なんなんだ、あの子。

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