救えない話

青夜 明

夢魔と眠り姫

 一人の少女が泣いていた。

 それを、全ての狭間から覗く者がいる。マジシャンのような格好をして、風など無いのに赤いリボンを揺らして微笑む、人間ではない存在だ。


 ──泣かないで。


「誰……?」


 聞こえてきた声に少女が顔を上げると、その世界に姿を見せた。


「夢魔だよ」


「夢魔……?」


 夢魔は宙に浮いて、少女に手を差し伸べる。


「人間の願いの力から生まれた、夢の魔法を使う存在だ。この力で、君の願いを叶えよう」


 少女は戸惑いながらも、期待の目を夢魔に向けた。


「私の、願いは──……」




 少女の願いは、新たな世界へと変わる。

 少女は創造主として、新たな世界に受け入れられた。

 夢魔は少女に赤いリボンを結び、語りかける。


「君は夢魔の主になった。そして、共に神として受け入れられたんだ。今、幸せかい?」


 少女は笑った。


「うんっ!」


 しかし、少女の表情は曇る。


「帰らなくて、いいのかな……」


「そうだね、いずれ帰りたくなるかもしれない」


 夢魔は少女の手を握り、眠らせて囁いた。

 少女には聞こえなくなってしまったが、構わないようだ。


「君がいなくなったら、この世界は存在する意味を失って、きっと破滅に導かれるだろう。でも、君はそんなこと知らなくていいんだ」


 夢は、いつか終わる。

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