【4】同族



ラーヘル「私はラーヘル・マエルフォールン。

階級は大佐、見ての通りフランツェ国の軍人だ。

訳があって、今は君たちを拘束しているが、君たちを酷い目に合わせたいわけではない。安心してくれ」


ロウ「あぁん!?じゃあこの拘束を解きやがれ!!!」


スクルド「初めまして!」


 既に敵意剥き出しのロウをスクルドがなだめる。

続けて、スクルドは口を開いた。


スクルド「ラーヘル大佐。初めまして。私はロクラ・フルールと申します。

奥の男はライアスと聞いております。


 まず、私たちを殺したり、拷問にかけたりするようなことはないとわかり、一安心しております。

そして、眠りから覚めたらいたこの部屋と、この拘束状態。

ラーヘル大佐のおっしゃる通り、我々は何かしら理由があるということについても、なんとなく察しておりました。


 すぐに開放してほしいとは言いません。

まずは、お話を伺いたく思います。

私がこの後、狼にでもなって人を殺し回る、なんてお話でしたらこの状況にも納得するというものです」


ラーヘル「フルール君。とても少年とは思えない紳士的な返事に感謝するよ。

お察しの通り、私たちは万が一を考慮して銃を携帯してこそいるが、君たちを撃つことはないだろう。

 まず、我々が何者であるか簡単にお話ししたい。

この黒い目隠しをした女がカルア。奥で笑っている男がキール」


 カルアと呼ばれた女は軽く会釈をした。

一方、キールという男は相変わらずニヤニヤした笑みを浮かべ、ギョロギョロとスクルドとロウを舐めるように見てくるだけだ。


ラーヘル「・・・1人が眠っている状態だが、また後で話すとしよう。

ここからが本題だ。


 信じられないと思うが、君たち3人は、フランツェ国が独自に研究してきた超能力研究における”適合者”だ。

 端的に言えば、選ばれし神の子。

君たちはこれからフランツェ国の全面サポートを受けつつ、その体に宿した超能力を開花させ、国のために使ってほしい。


 急に拉致して監禁、拘束したのはそのためだ。

あまりにもこちらの都合を優先した酷いやり方だとは思うが、こんなやり方をしてでも君たちの助けがほしいと思っている。

もし、国に協力してくれるというのなら、君たちの家族も含め、一生の生活を国が保証しよう」


スクルド「・・・・・・」


ロウ「・・・は?」


ラーヘル「信じれらないと思う。

 しかし、超能力は実在する。

現に君たちをここに連れてくるにあたって、既に2人の、2つの超能力を使用している。

それがカルアとキールの2人だ。

カルアは、自分と同じ超能力者を探知することができる。

キールは、自分の周辺にいる人間を眠らせることができる」


スクルド「なるほど。そのような力があれば、能力と使い方次第で戦況をひっくり返すことが可能であるということは理解できます。

何も知らない私たちが自らの力を急に使えば、人を殺めるかもしれませんし、それが敵国に知れ渡ればフランツェより酷い方法で拉致するでしょうから」


ラーヘル「ご理解ありがとう。

初対面の相手に突然告げられる飛躍した話だ。3日ほどここで生活してみてくれ。すぐには結論が出ないだろうからね。

 一旦拘束を解いて・・・と言いたいところだが、すまない。もう少しだけ不便な生活を送ってもらう必要がある。

風呂は入れないが、体を拭くタオルはある。

トイレに関してのみ、3名の軍の人間が付き添い、所定のところへ移動してやってもらう。

 呼びたいときは昼夜問わず1時間ごとに見回りがくるから遠慮なく呼び止めるといい。

私個人としては一刻も早く自由なままで迎え入れたいところだ。

既に君たちの部屋も整っている」


スクルド「いえ、きっと私があなたの立場でも、全く同じ判断をします。

それはそうと・・・一つお願いがあります」


ラーヘル「なんだね?未来の英雄フルール君」


スクルド「その超能力とやらをこの目で見てみたいのです。

自分が眠らされたという時点で疑う余地などないのでしょうが、どうしても懐疑的に思うところがあります。

 なので、キールさんの催眠能力でお隣にいらっしゃる軍人さんをお一人、眠らせてみてもらえないでしょうか」


ラーヘル「なるほど。それもそうだね。

2人にきてもらったのは、君たちの仲間としての挨拶と共に、実際に超能力者がいるということの証明のためでもあるからね。

ゲード君、少し強制的に休養となるがいいか?」


軍人A「ハッ!」


ラーヘル「キール君、ちょっとお願いするよ」


キール「へへっ・・・・・・・」


 不気味に笑ったかと思うと、まるで別人のように真顔になったその男は、自分の手の甲を合わせ始めた。そして合わせた手の甲を軍人に向かって開いたその時。


 軍人はその場に倒れこんだ。

もう1人の軍人が力が一切こもっていない軍人を支える。


ラーヘル「言っておくが、うちの軍はミュージカルで敵を楽しませて平和を保とうとしてるわけではないからね。

何より、自分たちが眠ったからこそ、彼が演技をしているわけではないことが理解できるんじゃないかな」


スクルド「おおっ!すごい。これが超能力なのですね!

わかりました。不躾なお願いだったにも関わらず、聞いてくださり、本当にありがとうございます。

それと、最後にお願いなのですが!」


ラーヘル「なんだい?」


スクルド「カルアさんとキールさんのお二人に伺いたいのですが、その能力が目覚める前に何か兆候がありませんでしたか?超能力者にのみ共通するような何か。

 さっきまで一緒に話していた対角に座るその男とは、自分たちがここにいる理由が知りたくて、それぞれの共通点がないか話し合っていたんです。


 そして、ここまでのラーヘル殿の話を聞いて、一つ、超能力に関係しそうなことを思い出したんです。

 私と彼は、体が熱くなって今にも火が吹き出すのではないかと錯覚するほどの体温の上昇を経験しているんです。

今までの他の人には理解されなかった不思議な現象が、この部屋にいる初対面の2人の間で一致したんです。


だから、カルアさんとキールさんのお二人にも、何かしら似たような経験があられるのかと思ったのですが・・・」


カルア「それは初めて聞いたわ・・あっ」


 間をおかず、カルアという人物が答えた。

と同時に、ラーヘルを見やる。


ラーヘル「構わないよ。彼らには真実を告げるんだ」


カルア「ありがとうございます。

兆候というものは確かにあったわ。私とキールの場合は体に電気が走るようなものだったけどね」


スクルド「なるほど・・・教えてくださり、ありがとうございます!

改めて、自分が超能力を秘めていることを実感できました!」


ラーヘル「それなら良かった。

私は毎日君たちの元に訪れるよ。これから共に国を守る仲間になるんだからね。

君たちを拘束から開放することは上にお願いするから、もう少し辛抱してくれ」


スクルド・ロウ「ありがとうございます!」



キィィィ

バタンッ


トットットットット・・・



 話終えると、やたら重たい鉄の扉がゆっくりと閉まり、遠のく足音だけが響いた。



ロウ「・・・・・・・・・・ふふっ・・ははは!!!」


スクルド「静かにしろ。

それにしても、よく合わせてくれたな。感謝するぞ」


ロウ「いや!あんだけ怖く睨むくせに、口はちょっと笑っていたのは傑作だったぞ!!!

あと、これからもお前を信じていいのか怪しいな!はっはっは!」


スクルド「そうか?合わせてくれる辺り、俺はお前のことを信じているぞ。なんにせよ、考えていることは同じだろ?」


ロウ「あぁ。あいつらはなーんか信用ならねぇ。俺のよく当たる勘がそう言ってんだ」


スクルド「ただ、信用ならない存在ってだけならいいがな」


ロウ「ん?そりゃどういう意味だ?」


スクルド「まだあくまで疑いがあるってだけだが・・・・」


ジュリー「ん・・んぁ〜」


ロウ「お、お連れさんも起きたようだな」


スクルド「説明の二度手間にならなくてちょうどいい。ここからはボリュームを下げて話すぞ」





ラーヘル「状況報告を申し上げます。現在のところ、作戦は順調であります」


ガラン「おぉ〜!そうかそうかぁ!

では、あとは彼らの能力がどんなものであるかが気になるところだねぇ」


ラーヘル「はい。そちらについても判明次第ご報告いたしますので、今しばらくお待ちください」


ガラン「今は何してるのぉ?」


ラーヘル「ハッ!現在は彼らとの間に絆を構築しているところであります。能力者の中に1名、冷静に判断をできる者がおりまして、彼を中心にこちらの意思を伝えて軍に協力するよう伝えていくことを」


ガラン「待てぇぇぇい!ちょっとその繋ぎになっているガキに会わせろぉ!!!」


ラーヘル「し、しかし、ガラン少将!お言葉ではございますが少将が直々にお時間を作ってまで」


ガラン「いいから会わせろぉ!能力者がフランツェにつけば、相当な戦力となるぅ。この仕事は慎重にやらねばならないのだよぉ!」


ラーヘル「ハッ!」




〜翌日〜




キィィィ


 重い鉄の扉が開いた先には、昨日きていたラーヘル以外に3人、知らない者がいた。

2人は昨日同様、警護の兵士なのだろうが、真ん中を堂々と歩く小太りの男はどうもただの兵士ではないようだ。


ガラン「やぁやぁおはようぅ。

初めまして、私はガランという。一応この施設で一番権力を持っている者だぁ」


スクルド・ロウ・ジュリー「おはようございます!」


ガラン「おぉ〜、素晴らしい挨拶ができる子達じゃないかぁ!不便をかけてすまないねぇ!今からの話次第ではすぐに拘束具を外すからねぇ!え〜とぉ」


スクルド「ロクラ・フルールと申します」


ロウ「ライアス・クルーガンです」


ジュリー「マ、マナ・ナンシーラとい、言います!」


ガラン「ロクラ君、ライアス君、マナちゃんだねぇ〜。

ラーヘルから聞いてると思うけど、君たちはフランツェの英雄ともなり得る存在だぁ。よろしく頼むよぉ!」


ガランは3人に話しているようだったが、視線のほとんどはスクルドから離していなかった。


スクルド「あの、我々はどうすれば自由に動けるようになるのでしょうか。超能力が宿っていることは理解しましたが、このままではフランツェ国のために活用することもできず、ひたすら見回りの兵隊さんを呼び止めるだけの日々となりそうなのですが」


ガラン「ひっひっひっひっひ!!!

そりゃそうだぁ!確かにそうだぁ!ひっひっひ!!!

 まぁ安心したまえぇ。たった今、君たちに余計な疑いはかける必要がないと判断したよぉ。

すまなかったねぇ!

今すぐに解放してやろうぅ!!!


お前を殺して」


 ガランがスクルドに向けて銃を向け躊躇うことなく引き金を引いた。


ガキンッ!!!


 銃弾はスクルドの目の前の空中で弾かれた。

と、同時にロウが動き出した!


ロウ「うおおおおお!!!!!」


軍人「グッ!」


 人間が動けるスピードとは思えない速さで、腹部に殴打や膝蹴りを繰り出すロウ。

銃器を構えた姿勢でその場に倒れる兵士。

ガランとラーヘルが下がると同時に、通路に控えていた兵士たちが室内へ向けて発砲を開始する。


ロウ「うっわ!!!すんごく体軽いんだけど!?

何これすっげえええ!!!オラあああああ!!!!」


 7人ほどいた兵士のうち3〜4人の兵士はロウがなぎ倒した。


スクルド「壁は壊すなよ!それと銃器をこっちに投げろ!!!」


ロウ「おうよ!とりあえず拳銃だ!・・・あ・・・」



バタン



スクルド「・・!?まさかっ!」


キール「へへへへへへっ・・・・」


カルア「ガラン少将の勘は本当によく当たりますね。さてと・・・

どうするんですかこの子ら」


ガラン「まぁ、施設に送ればいいだろおぅ。元々第一段階はうまくいかない前提で進めていたからなぁ。

その点、カルアくんとキールくんは、賢明だったよねぇ。


 んでもってぇ・・・・しくじってくれたねぇぇ?ラーヘルぅ?」



スクルド(くそ、予定より少し早いが仕方ない。やるか・・・)



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