怪我

ヒロイン(アメリア)視点


「アメリアちゃん、いるー?」

「はーい。エマさんこんばんは……ってカミラさん!?」

「リア。ただいま」

「その足、どうしたんですか!?」

「あー、ぶつけた」

「嘘でしょ!?」


 エマさんに支えられて帰ってきたカミラさんの右足首はパンパンに腫れていて、ぶつけた、なんて信じられない。これ、骨折れてるんじゃ……?


「合同訓練で他の部隊の子を庇ってね。明らかに異常な腫れ方してるのに、家の方が近いから帰るって聞かないから連れてきた」

「エマさん、ありがとうございます! カミラさん、お医者さんのところ行きますよ!」

「えー、大丈夫だって」

「大丈夫じゃないです!」

「寝たら治るよ? 心配ないって」


 いくら治癒力が高いからってそんなに直ぐ治る怪我じゃないでしょ……


「ダメです。ちゃんと見てもらいましょ?」

「えー平気だって」


 絶対痛いはずだし、私が風邪を引いた時にはあんなに慌ててたのに、カミラさんは自分のことに無頓着すぎる。


「心配なんです……!!」

「っ……分かった」


 服の裾を掴んで見上げれば、息を飲んだカミラさんが頷いてくれた。


「あはは、さすがアメリアちゃん。カミラが勝てるわけないね」

「エマ、うるさい」


 エマさんのからかいに不満そうにしているけれど、早くお医者さんに見てもらいたい。表情ひとつ変えないカミラさんはどうなってるの……



「うん、ヒビ入ってるね」

「ヒビ……!!」

「固定するから、あんまり動かさないように。もちろん訓練も禁止ね」

「少しくらい問題ないでしょ?」

「……はぁ。カミラ、ちょっと」


 チラ、と私の方を見てマリーさんがカミラさんを少し離れたところに連れていく。


「無理するようなら治りが悪くなるし、性生活だって負担かかるんだから禁止にするよ? カミラ、抱かれる側だったりする?」

「いや、ほとんど抱く側」

「なら平気かな。あんまり激しいのは禁止ね」


 ……あの、普通に聞こえてますけど。マリーさん、私が竜人族に限りなく近づいたってご存知ですよね??


「激しい、ってどの程度?」

「普段の程度を知らないからなんとも」

「普段は「あの、さっきから聞こえてますけどっ!! 今日は絶対安静です!!」」

「え……リア、え?」


 カミラさん、怪我した時くらい大人しくしましょうね?



「ねえ、リア」

「ダメです」

「まだ何も言ってないのに」


 え、かわい……

 自宅に帰ってきて、渋るカミラさんを半ば強制的にベッドに押し込んだ。


「カミラさん、少し熱出てきましたね」

「え、そう?」


 おでこに触れれば、いつもより体温が高い。マリーさんから、熱が出るだろうって言われていたから念の為薬をもらっておいて良かった。


「お薬とご飯持ってくるので待っててくださいね」

「行っちゃうの?」

「すぐ戻ってきますから」

「……うん」


 しゅんとして見上げてくるカミラさんは置いていかれるのが嫌みたい。もう出来ている夜ご飯を持ってくるだけだし、すぐなのに。



「はい、あーん」

「……ん。美味しい」


 カミラさんが弱ってることなんてほぼないから、こうやってお世話が出来ることが嬉しい。私に食べさせるのは好きなのに、逆はちょっと躊躇う素振りを見せるのもキュンキュンする。


「リアも食べな? 自分でやるから、お皿貸して?」

「やです。はい、どーぞ?」

「……ん?」


 こてん、と首を傾げるカミラさんの口元にスプーンを近づければ、反射的に口を開いて食べてくれて可愛い。優しいカミラさんはきっと断らないだろうし、このまま最後まで押し切ろう。そうしよう。


「リア、楽しそうだったね?」

「はい!! すっごく楽しかったです!」

「リアが楽しいならいいんだけど」

「あ、だめですよ動いちゃ! 預かりますね」


 全部私に任せてくれて大満足。カミラさんは苦笑しつつ食器を下げようとベッドを降りようとするから慌てて食器を回収した。


「固定してあるし、少しくらい平気だって」

「すぐに無理するのでダメですー! はい、もう寝てください」

「えー」

「いい子で待っててくださいね?」

「ね、いい子にしてたらご褒美くれる?」

「かわっ……!!」


 あー!! 今日のカミラさん、可愛さが異常。熱でうるうるしてるし、上目遣いはずるいですよ! 私が弱いのが分かってて、絶対に確信犯だと思う。でも無理させられないし、誘惑に耐えきってみせる……


「リア、無理しないからちょっとだけ、だめ?」

「……っ、負担がかかることじゃなければ」

「ふふ、分かった」


 じいっと見上げられて、滅多にないお強請りに即陥落しました。



「えっ!? 今何て……?」


 食器を洗って戻ってきて、私も寝ようとベッドに入れば、予想外のことを言われて聞き返してしまった。


「上に乗って?」

「うえ……?」

「うん」


 聞き間違いじゃなかったらしい。


「いやいやいや、ダメですって!!」

「ご褒美くれるって」

「負担がかかることじゃなければ、って言いましたよね!?」

「うん。だから、リアが上で動いて?」

「ーっ!! 無理ですっ!!」


 無理。絶対無理。キスくらいじゃないの!?


「絶対?」

「絶対!! ……あの、なんで押し倒されてるんでしょう?」

「ん? 上は嫌って言うから?」


 そんな当たり前のように押し倒さないで貰ってもいいですか? 


「カミラさん、熱あるし、足もヒビ入ってるんですよ!?」

「へーき。ちゃんと満足させるから安心して?」

「ちょっ、そういう問題じゃな……んっ、ぁ……」


 もうスイッチが入ってしまったらしいカミラさんを止めるのは無理そうだった。



「はー、ほんとに怪我人……?」


 さすがに疲れたのか、パタッと寝てしまったカミラさんを眺めながら、思わずため息が漏れる。普段適わないのは仕方ないとしても、熱があって怪我もしているカミラさんにも翻弄されっぱなしっていうのはどうなの……? 体力ありすぎじゃない?


 今日はカミラさんは脱がなかったけれど、寝る前に暑い、と言ってシャツを脱ぎ捨てていたから、同性として嫉妬するくらい豊満な胸が視界に入って変な気分になってくる。相変わらず寝顔も綺麗すぎるし……


 甘えてきて可愛かったし、カミラさんが怪我をしていなかったら私がしたかったな……治ったら絶対私がする。


 絶対安静、と思っていたのに結局攻められてしまったし、明日こそは安静にしてもらわないと。

 絶対そういう雰囲気にはしない、と決意をしてカミラさんの隣に潜り込めばいつものようにぎゅっと抱き寄せられた。

 うわ、柔らか……意識が無いカミラさんに触れるのは何となく悪いことをしているようで罪悪感があるけれど、カミラさんから抱き寄せてくれたしちょっとくらい触っても起きないかな……?


「んぅ……りあ……?」

「ぅわっ!? ごめんなさい!!」

「……うん? むしろこれ、私がぎゅってしてるよね。ごめん、苦しくなかった?」

「あ、全然、むしろ柔らかくて気持ちよ……ぃや、なんでもないです」


 あぶな……触ってたこと気づいてなさそうなのに、自分から暴露するところだった……

 余計なことは考えずに寝よう。


「そ……? このままぎゅってしててもいい?」

「あ、ちょっと離してもらってもいいですか?」

「やだった?」


 落ち込むカミラさんが可愛い。そっと抜け出して唇を重ねれば、驚いたように目を見開いたけれどすぐに力が抜けて受け入れてくれた。


「ん……リア……もっと」

「っ、したいんですけど……だめです。カミラさんが治ったら沢山してあげますね」


 声も表情も色っぽくてちょっと揺らいだけど、カミラさんは怪我人だし、我慢我慢……


「えぇ……リア、ひどい……」

「安静にしてないと。さ、寝ましょ」


 カミラさんの腕の中に戻れば、ぎゅっと抱きしめてくれて安心する。

 ちら、と見上げれば不満そうにしていたけれど、気付かないふりをして目を閉じた。早く治してくださいね。

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