2.騎士団

「おはよう」


 職場に着くと、部下たちはもう揃っていて、口々に話しかけてくる。

  

「「「隊長、おはようございます!」」」

「カミラが遅いなんて珍しいね?」

「具合でも悪いんじゃないかって心配してたんです」

「たまには休み取ってくださいよ」


 家を早めに出ているから間に合ったけれど、普段より遅く着いたから心配してくれていたみたい。


「心配かけてごめん。番を見つけてさ」


 私が隊長を務める竜人部隊は街の治安維持が主な仕事。平和な国だし、竜人は身体能力が高い種族だから危険なことはほとんど無い。もちろん訓練は欠かさず行っているけれど。むしろ書類仕事なんかより訓練をしていたい。


「カミラに番?!」

「えっ?! そんな幸運の持ち主は誰ですか?!」

「私たちのカミラさんが男のものになるなんて……」

「そんな気軽に言わないでくださいよ! 番ですよ?!」


 私の番発言に部屋にいた部下たちが一気に騒がしくなる。


「あ。そうそう、男じゃなくて女の子だった」

「へー、女の子かー。……え? 女の子??」

「え、カミラさんの番ちゃん女の子だったんですか?!」

「カミラさんの番が女の子だなんて最高じゃないですかっ!!」


 みんなも驚くよね。……なんか最後おかしくなかった?


「仕事終わりに会うことになってるから今日は早く帰るわ」

「え、むしろなんで来たの?」

「なんでって、仕事。それに人族には番、って分からないし」

「そっか人族か……」


 正直仕事どころじゃないけれど、一応隊長だし。もしリアが同族だったらそのまま蜜月に入るところだけれど、人族だからね……エマが気の毒そうに見てくるけれど、こればっかりは仕方ない。


「番に会ったのにそんな冷静でいられるとかカミラさんの自制心やばい」

「そう見える? 内心は結構冷静じゃないけど」

「見えます!」

「それなら良かった。歳下の女の子を怖がらせる訳にはいかないからね」

「番ちゃん、何歳くらいですか?」


 見たところ10代後半くらいかな? 可愛かったなぁ。


「多分10代後半じゃないかな」

「私たちの感覚で言うとまだまだ赤ちゃんですけど、人族は10代のうちに成人ですもんね」

「あれ、人族の成人って何歳だっけ?」

「確か18歳じゃなかったですか?」


 18歳か……リアは成人してるのかな? 番として反応したってことは身体的には大人なわけで……って夕方にまた会うのに自分を追い込んでどうするのか……落ち着こ。


「カミラどこか怪我してる? 血の匂いしない?」

「あー、ちょっとね」

「手のひら? うわ……」

「ぎゃー?! グロっ! 血だらけじゃないですかー!!」


 また握りしめてしまった手のひらからは爪がくい込んで血が出ている。治癒能力も高いし、これくらいならすぐ治るけど、確かにグロい。


「え、痛みで耐えたってこと? さすが脳筋……」

「エマ、それ褒めてないよね?」

「うん。褒めてない」


 ちょっとは褒めてくれても良くない? リアを襲うわけにはいかないし、私にしては頑張ったと思うんだけど。


「カミラさんと番の女の子がイチャイチャするんですね? 絶対見たい! 夕方、ついて行っていいですか?」

「ダメ。恋人になって貰えたら紹介する」

「カミラさんに告白されたら即OKですって! だってこの容姿ですよ?? 懐に入れれば優しいし、強いし、全然偉ぶらないし部下思いだし、スタイルも抜群だし、なんと言ってもとにかく顔が良すぎて毎日見られて幸せです。カミラさんの部下で良かったです! 他部隊の同期から羨ましがられてますもん」


 顔が好き、とはよく言われるし、それだけでOKしてもらえるんだったら苦労しないんだけどな……でも中身はどうでもいいってことでそれはそれで複雑。


 そしてやっぱりクロエだけ感想がおかしいし、私の事を美化しすぎている気がする。


「あー、よく知らないから恋人にはなれないって振られた」

「「「えっ?!」」」

「カミラさんが振られた……?」


 そんなに驚く? 改めて口にするとへこむな……

 あ、エマに隊長よろしくって言っておかないと。


「そうそう、エマ、次の隊長よろしく」

「……は?」

「リアがこの国の子じゃないから、近いうちに辞めようかなと」

「……はぁっ?!」

「辞める?!」

「カミラさん、本気ですか?!」


 冗談で辞める、なんて言わないって。私だって前任の隊長が番を見つけて蜜月が終わったと思ったら、明日から隊長ねって言われたしな……前任の隊長も番について行ったんだよね。

 後任を決めるのは隊長に任されているし、エマなら私よりしっかりしてるから心配ないと思うけど。


「もちろん本気」

「この脳筋どうしてくれよう……カミラを慕ってる部下が沢山いるのは分かってる?」

「分かってる。でも恋人になってくれたらリアの近くにいたい」

「番なんだもんね。それは引き離せないけど、カミラが辞める……? これは荒れるわ……」


 番が見つかったら何よりも優先するのは竜人族や獣人族には常識だから理解してくれつつ、惜しんでもらえるのは嬉しいな。


「番の子が移住してくれるとかないかなぁ……」

「はい! カミラさんが辞めるなら私もついて行きます!」

「え、クロエずるい! それなら私もついて行きたい!」

「みんなでついて行って傭兵でもやる?」


 私もだけど、クロエを筆頭に辞めることに抵抗無さすぎでしょ……エマが頭を抱えてるの見えない?? これって私のせい?


「ねえ、番の子って周辺国出身?」

「うん。隣国って言ってた」


 初めて会った日に隣国から来たって言ってたはず。隣国、って言ったらエマがニヤリとしたから嫌な予感……


「……辞めなくても、通えるんじゃない?」

「さ、仕事しようかなー」


 通えるけど、目立つし嫌なんだけど。


「はい。カミラは隣国から通うことが決定しましたー」

「良かったー!」

「え、カミラさんの竜化を毎日見られるってこと?! なんのご褒美ですか?」


 えー。通うの? 少ししたら押し付けてやる。


「ねえ、勝手に決めらないでもらえる?」

「通ってみて無理そうならまた考えよ。今カミラが辞めたら崩壊するから、少し時間くれる?」

「……おっけー」


 何かと支えてくれているのはエマだし、ここは従っておこう。怒らせると怖いとかじゃないよ?


 1回振られているけれど、諦めるつもりは無いし例えリアが嫌がったとしてももう逃がしてあげられない。

 ごめんね。誰よりも大切にするから、早く私の所に落ちてきて。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る