chrono-10:表現力は、エアー……エア何とかとかね!(強引)の巻
――たかくぅん、まってよぅ。まってー、なーちゃんまって。たかいとこいかないで。なーちゃんいーけーなーいーからっ、たーかーくーん!!
気が付いた。と言っていいのやら。変な意識の接続が為されたかのような、どうとも不安定な感触を受け取っている……誰が? それは「僕」だ。昨日からずっと続いているはずの、僕、サーティーンの意識だ。たぶん。
「……」
毎度毎度の紺色小宇宙空間。その縦横奥行きがグボっと広がった無重力のだだっ広いスペースに、僕は仰向いたまま浮かんでいたわけで。いつもながら、不可解な場所だ。目を開けてても、一寸先も見通せないような、闇であることすら認識させないような闇の中にいるような……不安定さ。自分の身体が見られるのだけは、まあ落ち着かせてくれるけれど。もちろん身に纏いしは、これまたいつものラメ紫全身タイツであるけれども。胸文字は【13】。うん、やっぱり僕は「僕」だ。
先ほど在坂の風を切るほどの鋭い肘を掠め喰らって、それからどうした? 記憶が無いってことは昏倒でもしたんだろうか。まあね、あれだけ綺麗に決められるとね。脳をすこだま揺らされたよね……
で、この「場」ってわけだ。前は睡眠中に起こった。てことは僕の意識が定まらなくなった時に、ここに誘われるってことかも。あるいは……引きずり込まれるってことかもだけど。
<サーティーン気を付けろ。『元老』が出張ってきた可能性が高い>
ファイブ、今も僕のそばにいてくれたことは心強いけど、はっきりの「戦闘」の雰囲気みたいなのに飲み込まれつつあることは、この僕でさえも感じている。しかも「元老」て。イメージだけどいちばん厄介そうな面子な気がするよ。
次の瞬間、辺りの光景が一変した。
「……!!」
一面の……何だ銀世界? 上下左右感じられなかった先ほどまでの異空間から、天と地がいきなり出現し、それに応じて重力も発生してきた? いきなり「地面」方面に向けての自由落下が始まってしまったけど、高さがうぅん十メーターはあるんじゃない? あかんよね。
「【
でもまあ咄嗟に能力を発現できるくらいにはもうこの一日で会得、精通しかけてるんだよね……「精通しかけ」って語弊があるかもだけど、す、寸止めとかそういうのじゃあないんだからねっ!!
だいぶ脳髄辺りがやられている感は己のことながらちゃんと認識はしている。それでも身体はちゃんと動いていて、例の「魚雷」を右手の中に発現させると、それに掴まり謎の推進力にて緩やかに滑空、無事白一面の世界に着陸をかましたのであったけれど。
「氷」だ、雪じゃなくて氷。地平線まで見渡せるほどの。日本に住んでる僕には馴染の無い開放感のある風景が展開していたのだけれど、その地平を隈なく埋めるようにしてあったのは、大小さまざまな大きさ、形をした「氷」だよ、そしてその見た目が何かわざとらしいほどにキラキラ光を断続的に反射していたり、透き通るような水色をしていることが作り物感をこれでもかと突きつけてくるようで。要は、ここは先ほどのインナースペースの亜種、程度に考えているのが吉かも。こののっぴきならない場に落とし込まれている時点で吉も凶も無いとは思うけど。
「お前が例の【13】か。言ってたほど間抜けヅラでもないな」
いきなり、現れたかのように感じた。軽く投げかけられた声は、やっぱり僕的にはあまり聞きなれていないところの「外部からの僕の声」だったけれど、いや
が、
「心配するな。『
例の如く芝居がかった台詞回し。もったいぶりつつ余裕をカマしてくるそのスタイルは「僕」には無い資質と思えたけど、今の僕って内面外面からの影響を受けやすい状態みたいなんだよね……だからいま目の前に現れた、なぜか南極観測隊が着込んでいるような、顎から下をがっちり外気からガードしている鮮やかなオレンジ色の防寒具に身を包んだ「僕」もまた、何かしらの外的刺激を受けてゆえの「僕」なのかも知れない。とか考えていたら頭がだいぶ熱を持ってきていた。まあ、よく分からないというのが、ここ最近のすべてに言える、贈る言葉なのかも知れない……(贈ったとてェ……
<『元老』だ。手ごわいぞ>
うん、ファイブの忠告はありがたいけど、さりとてさりとてなんだよね……どう出る?
「……『能力エネルギー』の多寡がある奴に委ねる……『ひとり一能力』の輩たちが寄ってたかって多勢で向かっても、出せる能力ってのはモロバレであるし、ゆえに『弱点』となる能力でピンポイントで狙われたら一網打尽なリスクもある。そういった点じゃあ、お前らが早々に取ったその戦略はある意味正しいな。【
自分に酔ったかのように喋り続けるのは余裕のあらわれだろうか。腕を組んで、水晶のような輝きを放つ「氷」の塊のひとつに頑強そうなブーツの足裏をにじりながら乗っかって、そのオレンジはのたまうのだけれど。
「よってこの統合された俺が相手をするっつうか、てめえらを殲滅する」
とか落ち着きすぎてた僕は抜けまくってたよ。はっきり「戦闘」って感じてたじゃないか。様子を見過ぎてしまった……これは【
考えている場合でも無かった。
「【活力】ファイヤーッ!!」
泰然としていた所作からは一転、氷塊からワンステップで飛び出した相手は、僕との距離を一呼吸未満で詰めてきた。瞬間、その姿が赤く瞬き輝いたかと思ったら、僕めがけて一直線の「炎の塊」としか認識できないほどのそれは燃え盛る玉状のものが撃ち出されてきてそれは【集中】の「魚雷」発現にて右に体を推進させると共に自分の体を最大限よじって交わしたものの、相手の体の周りには小ぶりの「火の玉」も何個も発現していたわけで、それは流石にどうとも出来ずにさらに崩した体勢だったからなすすべもなく連続で喰らってしまう。
「……っ!!」
「氷」から「炎」。また「炎」系かよ直球というか直感的に分かりやすい「能力」持ち多いね羨ましいよ……もらってしまったダメージは幸い、拳で小突かれる程度のものだったけど、たたらを踏まされて一歩二歩下がった足元がいきなりぬると滑って僕は盛大にコケて尻もちをついてしまう。ついた場所も「氷」の上だったわけで、結構な硬さのところに全体重と勢いもプラスして打ち付けてしまったよ顔ゆがむわ……
「……そんなに慣れてはいないようだなー【13】。この『場』にも順応できてるたぁ言い難いしよぉ。なんだ拍子抜け。おとなしくこっちの軍門にくだるっつぅならよー、これ以上の痛い目見ることは無いが、どうするよ?」
ずっと感じていることだけど、ここまで
自分の中身は分からない。けどまあ、ひとまずは僕の思う僕を押し通すだけだ。
「【集中】【集中】【集中】は【ダイブ】【ダイブ】【ダイブ】……」
尻さすりながらというキマらない恰好だけれど、相手から意識と目線を切らさずに、僕は氷の上に気を付けて立ち上がる。身体周囲に「魚雷」を三発分、発現させながら。
「はっ、大したエネルギー量だな本当に。だがよぉ……てめえの『28発』には及ばないものの俺も『18』撃てるキャパはあるんだよなぁ……さらにてめえは今日も外界に出張って、結構な数を撃ちっぱなしてたようじゃねえか。その辺のアドバンテージは均された、そう見ていいよな? だったらこっからは殴り合いだ、ってやつだ」
ずいぶん喋るな。<こちらの残りは19だよ>とのファイブからのいつもの冷静忠告が意識の中の中で響くけど、
「僕も君を倒す気でやる。君はなんか……なんとも言えないけど、間違っている、気がする」
大きく息を吸い込んでから、向かい合う、「自分」に。対峙した同じ顔が歪む。
「……ずいぶん『自分』に自信があるようで。俺は【
再びオレンジの防寒服みたいな恰好に戻ってそいつ……【アイス】がふっ、と感情を押し込んだように無表情になってこちらを睥睨してくるけど。
もぉぉう、とりあえずはやるしかない。自分の「真実」に近づくためにも!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます