第3話 レベルアップ効率が爆上がりしました。

 この展開は前に何度かあった。レベルが上がると、頭の中に声が響くのだ。これは他の人もそうだし、当たり前のことだと思う。


 問題なのは、レベルが上がったということだ。俺は慌ててステータスを開いた。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル5


 スキル

 <スライム>

 『擬態』……自身の体をスライムに変化させることができる。

 『分裂』……擬態した体を分裂させることができる。最大は8。


――


「やっぱり、レベルが確かに上がっている……」


 レベルが上がるというのは衝撃的なことだった。

 俺だって一応は冒険者だ。モンスターを倒したことはある。

 だが、レベルはそう簡単に上がるものではないのだ。


 レベルは数字が増えていくごとに上がりづらくなってくる。1から2になるのは簡単だが、2から3になるのはそれより格段に時間がかかる。

 レベルが4になったのは去年のことだ。レベルが3になったのは確か13歳の時。それほどまでにレベルが上がるのは珍しい。


 スライムを何体か倒したくらいで上がるはずはない。だから俺はこれほどまでに疑問を持っている。


「なんでこんなに早くレベルが上がったんだ……?」


 偶然にしてはおかしい。俺は頭をひねって、何がいつもと違うかを考えてみた。


「あ、そうか! 『擬態』だ!」


 原因はすぐにわかった。俺はこれまで、スライムの姿でモンスターと戦ったことはなかった。

 いつもと違うことと言ったらそれしかない。きっとレベルアップの原因はそこにあるはず。


「でも、なんで擬態した姿だとレベルアップが早くなるんだ……?」


 考えられる原因はいくつかあるけど、一番しっくりくるのはこれだ。


「まさか……分裂した数だけ経験値が倍になってるのか!?」


 パーティでモンスターを倒すと、直接とどめを刺した人以外の人もレベルアップすることがある。

 これは冒険者たちの間では経験値と呼ばれていて、モンスターを倒すと、パーティ全体に経験値が配分されるのだ。


 それと同じ要領で、スライムを一匹倒すと、俺を含めた8匹の分身がそれぞれ経験値を得ることができるのではないだろうか。

 簡単に言ってしまえば、経験値8倍。


 俺はさっき人間の姿で1匹、スライムの姿で16匹のスライムを倒したわけだから……。


 1+16×8=129


 スライム129匹分の経験値を得ることができたのだ。


 とはいえ、経験値分配はそんなに単純な仕組みにはなっていない。経験値分配は戦闘における貢献度や、対象のモンスターとの戦力の差など複雑な要素で行われる。現に、戦闘に参加していない俺に経験値が分配されたことはない。


 やはり単なる経験値分配とは別物だと思う。これはおそらく、俺のスキルの隠された効果だ。俺はとりあえず、そう結論付けることにした。


 これはあくまで仮説だが、本当だとしたらとんでもないことだ。ものの20分で129匹のスライムを倒したのと同じ効果を得られたのだから。


「すごい……これは大発見だ!」


 なんで今までこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。

 単純計算で、今までの俺が1匹のスライムを倒している時間で、8匹のスライムを倒し、64匹ぶんの経験値を得ることができるなんて。


「いける……! これならダンに追いつくことができるぞ!」


 やる気を出した俺は拳をグッと握って、スライム狩りを再開した。


 タックルをしては避け、タックルをしては避け、また別のスライムを探す。

 人間というのは単純な生き物で、しっかりとした報酬が用意されていればやる気が出る。俺はすっかり経験値8倍の魅力にハマってしまった。


 気が付くと、3時間が経過していた。一旦元の姿に戻ろう。


「ふう。これでどうかな……?」


 一息つくと、また脳にメッセージが流れてきた。


――


 レベルが6になりました。


 <スライム>の能力が強化されました。


――


 よし、レベルが上がっている! 俺は思わずガッツポーズをした。

 同時に、気になることができた。『能力が強化されました』とはなんのことだろう?


 ステータス欄を確認する。


――


 アルクス・セイラント 17歳 男

 レベル6


 スキル

 <スライム>

 『擬態』……自身の体をスライムに変化させることができる。

 『分裂』……擬態した体を分裂させることができる。最大は12。


――


「あっ! 『分裂』できる数が増えてる!」


 能力の強化とは、文字通りスキルがアップグレードされることだった。

 8匹以上になると思考が薄れてしまうのが難点だったわけだが、これからは12匹になれるようになったぞ!


 そして、12匹に分裂できるということは、さらに別の意味も持っていた。


 スライムを倒すスピードが12倍。経験値12倍。

 人間の姿の俺が1匹のスライムを倒す時間で、計算上は144匹のスライムを倒すことができるようになった。


「やった! 1日でこんなに効率よくレベルアップできるようになるなんて!」


 <スライム>の能力が強化されたのは今回が初めてだったが、これからも強くなる可能性があるんだろうか。

 というか、強くなるスキルなんて聞いたことがない。冒険者歴2年目の俺が言っても説得力がないが、そんなスキルはこれまでなかったはず。


「よくわからないけど……とにかく、強くなるのはいいことだからよしとするか」


 再びスライム狩りに戻ろうとしたその時。


「グゲゲッッ!!」


 首を絞められた鶏のような鳴き声が聞こえてくる。この草原エリアで聞こえるということは、間違いなくアレだ。


 深緑色の肌。ニタニタ笑っている、裂けたような大口。人間の半分くらいの背丈の小人。

 ゴブリンだ。

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