第4話 そして彼は豚小屋へ

 ベルシュタインは豚小屋に投獄され、それからというものの無能生産者として雑務、単純労働に身を捧げる日々となった。


 コミュニティードヨルドの統領セバスティアーノと謁見し、ベルシュタインを一目でみるや否や、



「こやつは無能生産者だ」



 そう言いつけられ、さっそく豚小屋行きとなった。



 それから豚小屋で衣食住の日々を過ごすこととなり、朝は6時起床、7時までに軽く朝食を済ませてから、町へ繰り出す。



 コミュニティードヨルドの各所で様々な作業に駆り出され、朝から晩まで働く。



 朝から晩まで強制的に作業させられていることは、正直気に食わない。



 しかしこのコミュニティーに住ませてもらう以上、何らかの形で貢献し、作業に従事すること自体は嫌ではあるが、コミュニティーに半ば居候させてもらっている身としては、何の対価も払わず住まわせてもらうわけにはいかず、当然何かしらやらなければならないのは理解できる。



 しかし無能生産者の立場として課せられた労働内容とその労働時間がこれまた半端ないのである。



 また作業の進捗状況もわるければ、鉄拳制裁が飛んでくる。1日16時間労働。皮肉にも無職だった自分の就職先はこんな劣悪な職場となってしまった。



 日々働き詰めにされ、休息のひとときはなかった。これを毎日繰り返すのである。まるで社畜だ。



 自分ら無能生産者は常に限界をゆうに超えるオーバーワークを義務付けられ、有能コミュニティー民の生活を支えるための犠牲となっているのが現状である。



 無能生産者に課せられた業務内容とは、主にコミュニティードヨルド中の建物や道路などの大掃除に始まり、水が流れない一軒一軒の家にお邪魔しトイレに詰まった糞尿の回収、風呂を沸かし、その風呂を沸かすための薪を危険な壁の外からの大量調達、壁の拡張による資材の運搬、あとは生ごみなどのゴミのたぐいを焼却施設に運ぶなどが挙げられる。



 主にインフラ関係ともいうべき力仕事を無能生産者はやらされている。コミュニティーの有能生産者の生活を下支えするために自分らは存在している形となる。



 一つを終わらせても、また他の場所。休憩も満足に取らせてもらえず、ひたすらパワハラ現場監督らを主導にコミュニティー中を引きずり回される。まるで市中引き回しだ。



 コミュニティーに住んでいる有能生産者はまるで自分らを罪人を見るかのような目つきでコミュニティー内をあっちこっち往来する姿を傍目から見ているのがわかった。



 コミュニティー全体をまわれば、今日の仕事はおしまい。それをまた明日、死明後日も。この作業は永遠に終わることはない。一難去ってまた一難のように、半永続的に終わりのない作業だ。



 無能生産者でもできる仕事。頭をつかわず、ただ手足を動かしているだけで事足りるような仕事。少し複雑で、ある程度スキルを必要とするような仕事は無能生産者の所轄ではない。



 スキルがあって能力のある人たちは有能生産者として認められる。



 有能生産者は(医者、電線作業員、鍛冶工)などのなんらかのスキルを持ち合わしているもの。また専門的なスキルを持ち合わせてなくても、何らかの頭脳労働、または身体能力に優れた者。



 そうしたものたちはみな有能生産者として、セバスティアーノにみなされ、コミュニティー内での快適な生活を約束されている。



 目を見張るような才能も、潜在能力などの伸び代もない人間、その人らは無能生産者となり快適な生活をおくれない。



 かりに自身には隠された才能があるとおごり高ぶったところで、セバスティアーノにその隠れた才能自体を認められなければ、全員無能生産者行きとなる。



 日が暮れ、コミュニティードヨルドを一日かけて全域を回ったところで、ようやく長い一日が終了した。



「作業終了!各自さっさと豚小屋にもどれ!いつもながらシャワーを浴びられるのは、ひとり30秒まで。30秒以上浴びたものは、飯抜きだ。忘れるな!」



 みな一同それぞれの持ち場から離れ、コミュニティーの端に位置する豚小屋まで、走って戻ることを強要される。徒歩での帰還は許されていない。



「お前らごときがシャワーといったものを30秒享受できるだけでもありがたく思え!はやく走れ!遅れた奴はシャワーも飯も抜きだ!」



 そしてここから10分程の距離にある豚小屋へと戻る。戻るやすぐにシャワールームへと無能生産者一同直行する。パワハラ現場監督の言いつけ通りに、1人30秒まで冷水シャワーを浴び、後ろで列をなし待機している者に、その場を順次明け渡す。



 シャワーを浴び終えた無能生産者らはすべて1階にある飯部屋に集められ、各自給仕係によって今夜の分の飯が配給される。PM 11 : 16 分。やっと本日分の夜食にありつけた。

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