※この作品は別作品に移動しました。(滅びゆく世界で『無能生産者』認定だと!? ~コミュニティー先で強制労働なんて絶対に許さん! 復讐を果たし、成り上がる!~に変更されました)

@AmorePonta

第1話 体たらくな日常の終焉

「働け、働け、働け~」



 作業用のツルハシを振り上げること、16時間。休みも与えられず、ひたすら働かされる。



 その現場の指揮をまかされているパワハラ現場監督からは、常に理不尽な暴力、罵詈雑言を浴びせられ、それが普段の労働の疲れと重なり、心身ともに摩耗していく。



 このような労働を課せられ、1年が経っただろうか。季節の変わり目を認識する余裕がないほど、自分たちはただ道具のようにして、こき使われる。ここまで見た中で、あまりの重労働の末、再起不能になった連中は数知れず。



 未だに自分はこのコミュニティーにて奴隷的な扱いを受けさせられ続け、働かされている。こうなったのもすべては世界を崩壊させる要因となったあのキメラのせいだ。



 キメラさえいなければ、今頃自分は家でのほほんと家でゲームしたり、ネットを見て、穏やかで誰にも邪魔されない日常を送り、私生活を満喫し、充実させていたはずだ。



 その安息な日々を壊されてから、今はこのありさまである。


 どうしてこうなった?足は鉛のように重く、手足に乳酸が溜まり、動かせない。すこしじっと動きを止めていると



 バシッ!ズドーーーン!




「ごらぁ!くそども!働けや!役立たず!死んでしまえ!」




 少しでも動きが止まると、パワハラ現場監督による強烈なミドルキックを毎度毎度お見舞いされる。




「はいぃぃぃぃ!!大変申し訳ございませぬぅぅぅぅ!!!」




 動かし続けなければならない。たとえ疲労骨折しても。


 何も考えず作業に従事し続けるのだ。必死の労働の甲斐もむなしく年中無休で働かされた先には何の見返りもない。




「貴様らは、ただ働けばよろしい!見返りなどいらん!そんなものを愚かなお前たちが欲していいはずがない!だから働け、働け、働け~」




 今日もベルシュタインはこのコミュニティードヨルドににて、無能生産者として強制労働に駆り出され続ける日々を送っていたのであった。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~










「決まった~!ゴーールゥ!ゴラッソォ!ゴラッソォォぉぉ!!FC ルーデンヒルツ!これで3対0! FC ウィリック オールダイナマイツは、前半はやくも苦しい展開となりましたー!」



「のーーーん!!」



 前半早々、屈辱の3失点を喫してしまい、その直後にベルシュタインはゲーム機のLANケーブルを引っこ抜き、ネット回線を切断した。



 そしてまもなくしてサッカーゲームのオンラインマッチは終了を迎えた。


 画面には切断負けの文字が映し出され、回線切断したことによるゲーム側からのペナルティが課せられた。



「あぁぁぁぁ!!!くそくそくそ!なんですわ!」



 大学1年の入学時から4年生までの期間はあっという間に過ぎ去ってしまった。



 自分には友人と呼べるような高尚な存在は、ついにこの年齢をむかえてもつくることはかなわなかった。



 就職活動の時期に入っても内定を得ることはできなかった。



 なにもできず、なにも生み出さず、ただ日々惰性でやることといえば、ゲームに打ち込み、毎日毎日画面上にいるサッカー界のスター選手をコントローラーで操作することのみ。



 持て余した時間はすべていろいろなゲームへと費やし消えていった。



 この大学の4年間はまさになにもやらなかったことづくしだったといえる。



 そうして卒業後、家でゲームして籠るようになって3年あまり経過した。



 同年代の連中は自分がこうして家でゲームをしている頃、上司にへつらい、媚びを売り、ひたすらおべっかしているのであろう。



 どんな形であれ、社会人としての出世競争に今日も彼ら彼女らは担ぎ出され、しのぎを削りあっている。



 一方自分は卒業まで就職できなかったからといって、たいしてなにもせず、家でひたすら好きなゲームをやっているだけ。



 このようなことをしていても金になるわけもなく、世間の連中がこの自分の姿を見れば、だれもがうんこ製造機として認定し蔑むだろう。



 それだけ自分は世間とは隔絶された生活環境に身を置き、その日その日を自堕落に暮らしているのであった。



「ふぅ~、やっとロボットのパーツ厳選が終わった~」



 さきほどサッカーゲームで回線をぶった切ってから6時間ほど、とあるRPGのゲームを取り組んでいた。



 ロボットのパーツ集めとその組み合わせに随分頭を悩まされ、6時間あまり費やしてしまった。



 ロボットの厳選が終了したところで満足し、ゲームの電源を落とした。自室の窓の外を見ると、日が昇っていた。



 徹夜でゲームに没頭していたら、いつのまにか早朝をむかえていたようだ。



 完全に昼夜逆転した生活をこの3年も送っていたためか、朝日の昇ってくる時間帯が自分の就寝の合図と化していた。



「日が昇ってきたことだし、寝るとしますか」



 そうしてすぐさまベッドにもぐりこみ、いびきをかきだす。



 お昼過ぎまでの約8時間、睡眠をとり、起床するとまた前日の繰り返しで、ゲームに興じることだろう。



 明日も明後日もおそらくこの平穏で穏やかな生活は崩れることはないものとずっと信じていた。しかしそんな当たり前の日常は、ついにその日をもっておわりを迎えたのである。



 ドンドンドン!ドドドドドドドン!



 その音がくしくも目覚ましのアラーム音となっていた。やけに自室のドアを

たたく音がうるさく、耳障りだった。おかげさまで目が覚めてしまった。



 目をこすり、まぶたが重たいのを感じつつ、ベッドから起き上がり、ドアの方に目をやった。



 ドンドンドン!ドドドドドドドン!



「・・・・・またか・・・」



 この状況にデジャヴを感じた。おそらく父、母、もしくはその両方かもしれない。我が家恒例の説教タイムがやってきた。



「いつまで家に引きこもってゲームしてるんだ!いい加減ハローワークでも行ってきて仕事を見つけてこい!」



 といった説教をこれからされるのであろう。



 この3年の間に何百回と数えきれないくらい繰り返してきた。説教の場を設けられた度に自分は説き伏せられ、「わかった!心を入れ替えて仕事を探しに行ってくる!」と口先ではそう答えてきた。



 しかしいざそう両親に対し啖呵を切ったものの、いつも口先だけの約束で終わってしまい、仕事を探しに出るといった行動になかなかつながらなかった。



 そんな調子を繰り返し、自分でも嫌気がさしてきた。口先ではなんとでもいえる。しかし行動につながった試しがなかった。このようなドラ息子といった不良債権を両親共ども3年も抱えているのである。



 普通であればこんな人でなし、親からも家からも勘当され、追い出されるはずだ。しかし今日までそんなことにはなっていない。自分は何も親からの再三の説教を煙たがり、仕事を捜すという意欲がないわけではなかった。



 親のいうことはごもっともであり、完全に家に引きこもっている自分の方に非がある。仕事をするわけでもなく、部屋で1日中ゲームをやっているのだから、至極当然である。



 そんな自分にも更生する気がさらさらない訳ではない。



 この生活から脱却する気が全くない訳ではない。



 いつまでもこんな生ぬるい生活は続けられないし、生まれた時から今現在まで自分を育て上げてくれた両親には感謝している。



 当然親の想いにはこたえたい。こたえたいのだが、いざ心の中で行動しようと誓っても、実行にうつすことができなかったし、実際できた試しがなかった。



 その際、心の中で葛藤のようなものが決まって生じてきてしまい、一歩が踏み出せない。一歩を踏み出そうとすると、すぐにあれこれと言い訳めいたものを自分の中で作り出してしまい、最終的にその言い訳めいたものに流され、なにも行動できずに元の生活に返り咲いてしまうのである。



 そうした繰り返しの結果、3年間もゲームばかりに時間を費やすニートになってしまったのだった。



ドンドンドン!ドドドドドドドン!



 そして今、この戸が叩かれた時点で、通算443回目の親からの直々説教タイム記念となった。443回もこの状況を繰り返した自分であったが、今日という今日は一味違った。



「・・・・・・居留守を決め込もう・・・」



 寝たふりをして、その場をやり過ごそうと思った。443回目をむかえるにあたって、ここにきて初めての籠城作戦だった。



 今の自分にできることはそれだけだ。親の説得も序盤の224回目までは心に響いたものの、その後225回、358、400をむかえるにしたがって、しだいに響かなくなっていった。そのころから、行動するということがさらに億劫となってきた。



 今日は眠い。前日にロボット厳選に勤しんだためなのか、たしかに睡眠は十二分にとってたはずだが、それでも疲れが取れず眠いことこの上ない。



 眠いなら居留守を決め込めばええじゃん?



 そしてドアがさきほどにも増して強く叩かれているのを、感じながらも自分はベッドに横になり、二度寝を決め込もうと画策し、それを実行しようとした。



 ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!



 しかし戸をたたく音と並行して、父のしゃがれた声とともに、必死に声に出して何かを訴えているのが聞こえてきた。



「おい!ベルシュタイン!無事か!開けてくれ!無事なら返事してここを開けてくれ!」



 それはいつもの父の様子とはかけ離れ、なにか緊迫感あふれる感じがした。様子がおかしい。何があったのだろうか?



 籠城作戦はとりあえず中断し、自室のドアのロックがかかっていたのを解除し、父を部屋の中へ招き入れた。



「・・・父さん・・・何があったんだよ!」



 部屋に入ってきた父は全身が切り裂かれ、ところどころ風穴があけられ、血を噴いていた。・・・・ひどいケガだ。



「・・・・やられた。・・・前々から町近辺に出没していたなぞの生物が・・・・そいつらにやられちまった・・・」



 父はぐったりうなだれ、今にも虫の息で死にそうになっていた。



「ちょっと!そのケガやばいよ!早く病院に!110番かけなきゃ!」



「病院なんて・・・さっきもかけたさ・・・・・だけど・・・かからない・・・」



「今病院にかけているから、ちょっと待ってて!」



 110番通報し、救急車を手配してもらう。・・・・・でもあれ?この番号であってるよね?


呼び出し音が鳴り続けるだけで、いっこうにつながらなかった。



「おかしいな・・・・なんでだろう・・・」



「・・・ベルシュタイン・・・・そとにはでるな・・・外は怪物ばかりだ・・・絶対に・・・・絶対に・・・・出るんじゃないぞ・・・・・」



 バタンッ!



 父はそう言い残し、それからなにも口を利かなくなってしまった。必死にベルシュタインが呼びかけるも、一切の応答がない。



 そうしてまもなく父は息を引き取ってしまった。その姿にベルシュタインは震えが止まらなかった。最愛の父が死んでしまった。幼いころから今まだずっと自分の事を気にかけてくれたあの優しかった父が、こうして亡くなってしまった。



 異常事態だ!異常事態が発生している!


ここ最近、ネットや動画などを見ているとやけにその父が言及していた謎めいた生物といった情報が否応なしに目に飛び込んでいたことを彼は記憶していた。



 その生物はある日突然現れ、最初は田舎などの山あいの町に出没していたのだが、それが段々、都会にも出てくるようになり、ここ最近その被害が拡大していたらしい。もしかするとその生物に父は襲われてしまったのかもしれない。



 居ても立っても居られず外を見る。するとその例のなぞの生物が動画で見たまんまの姿で街中ごったがえしているのがわかった。それらは人間を標的に次々と襲い掛かっている。



 逃げ惑う人々。その様子はまるでアニマルパニックのようだった。人間が動物に追い回されている。



「・・・母さんは?母さんは無事なのか!?」



 部屋を出て、父1人部屋に残したまま、すぐさま一階へかけ下りていった。



「母さん!いたら返事をくれ!」



 必至に声を張り上げ、母さんを呼ぶ。排水溝から水道管まで家じゅう至るところまでくまなく母を捜し続けた。



 しかしそれもむなしく母を見つけることはできなかった。



 探しに出るしかないのか?しかし父の死ぬ直前に言われたことを思い出す。



「・・・・・外に出るな・・」



 出ない方が身のためかもしれない。今ここで無茶をして、外に出ようものならすぐさま、あの怪物らに襲われ、ゲームオーバーだろう。現実世界はゲームの世界とは違い、ライフポイントも1つしかない。コンティニューでやり直しなど効かない。



 ベルシュタインはそう思い、踏みとどまった。



 それから全く外に出ず、3週間あまりが経過した。その期間ずっと家に身を潜め、母さんの帰りを待つこととした。



・・・・・母は3週間たてども、未だに家に帰ってきてなかった。

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