第4話 ぱぱとままとはこにわ


バァン


勢いよく扉が開いた音でびっくりして眠気も吹き飛んでしまった。


「イシュ、イシュ」


はぁはぁと息を切らしながら、入ってきたのは先ほど慌てて出ていった父と、引きずられるようにしてきた眠そうな母だ。


「あなた、いしゅがどうしたの?」


どうやら、寝ていたところを起こされたらしい母が目をこすりながら舌足らずな声で聞いている。


「イシュが私をパパって呼んでくれたんだ!」

「あらぁ。そうなのぉ」


寝ぼけてる母はよくわかってないらしい。というか父よ、はっきりとパパと呼んだ覚えはないぞ。

頑張ってパ行の練習をしていただけだ。実際、ぱぁだったし。


「メイリーン、この子は天才なんだよ!」


母はメイリーンと言うのか。

父が一人興奮して、力説しているうちにやっと頭が働きだした母は訝しげに聞いた。


「まだ6か月の子が流石にパパは言えないでしょう」

「そんなことはない。私は二回も聞いたんだ」


いや、だからパ行の練習で・・・と思っているうちに抱きかかえられて、父の顔が目の前に。


「さあイシュクラフト、パパって呼んでごらん」

「あなた、それならそもそもママが先ですよ。私が毎週通ってママアピールをしているのに、まだ呼ばれたことは無いんですから」


なんの喧嘩を見させられているんだ。うーん、ここはなんか言っといたほうが早く治まって寝れるか。


「まぁーあ」


っち、失敗した。ママも中々難しい。

と思っていると、母の顔がどんどん明るくなって、最早光り輝いているのではないかという位キラキラしている。


「まぁまぁまぁまぁ!あなた聞きました?イシュったらママですって!!」

「だから言ったじゃないか、この子は天才なんだ!でも、イシュなんでパパじゃないんだ。さっきはパパって言ってたじゃないか」

「あなた、妙な嫉妬はおやめなさい。やっぱり、顔も見ないパパよりママの方が好きなんですよねぇ、イシュ」


仲良きことは美しき哉。でも、そろそろうるさいぞ。


「ぱぁあ」

「ほら、今度はこっちをみてパパって呼んだぞ」

「本当にすごいわ。もうパパとママがわかるだなんて」

「こうなったら、専門の教師をつけるべきか・・・」

「そうね、先生をお呼びしましょう」


ちょっと待て、僕はスローライフがしたいんだ。くっ、でも魔法の先生なら欲しい。


「そういえば、あなた今日の事なんですけどマチネがこの子は構わず、2人目の子をと言ってました。やはりお義母さまが」

「そうか。母の手勢はおそらく皆そう考えているのだろう。近いうちに纏めてどうにかせねば」


おっといきなり不穏な雰囲気に。


「ぱぁあ、まぁま、ねんね」


よし!しっかり言えた。

ほら、もう遅い時間だ。母も眠ってたんだろうし、父も帰ってきたならゆっくり休め。

難しいことはまた明日だ。


「まぁ!本当に天才ね」

「私たちの子だもの、それはそうだろうがもう少し対策考えないといけないな」

「ねんね」


ほら、可愛い子が訴えているんだ。さっさと寝ろ。


「イシュったら」

「そうだな。たまにはイシュと一緒に寝るか」


僕のベッドは大きいんだ。多分キングサイズくらいはあるはず。さあ寝るぞ。

僕をそっとベッドに降ろし、いそいそと隣に入ってくる父と母。

親子川の字で寝るなんて本当に初めてだ。

よし、毎日仕事で疲れてる父を僕が寝かしつけてあげよう。

ポンポンと軽く父を叩き、たたき、、、手が短くて上手くいかない。


「おお、もしかして寝かしつけてくれようと?」

「すごいわ。イシュ」


というか、僕がそろそろ限界だ。眠くて瞼が開かなくなってきた。


「眠いのね。いい子、おやすみ」

「ゆっくりおやすみ、私たちの可愛い子。イシュ」


おやすみ。父上母上。

僕の力はどうにかするよ。だから、悲しまないで。

僕が深い眠りに落ちようとしている時、ピロンと頭の中で音が鳴った。


スキルーー箱庭を起動しますか

YES/NO


え?なんだって?

頭の中に浮かんだ文字に気を取られながらも、眠気には勝てない乳児の性に恨めしく思いながら僕は眠りに落ちた。

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