第14話:スキルドレイン

「そっか……、スキルを無効化できるのだから、中に入ってしまったらスキルダメージも受けなくなるんだね」




 範囲が狭い分、身動きはほとんど取れないけど、今の遥の役目は時間稼ぎ。

 つまり、相手を挑発してその場に留まらせたら良いのだから、十分すぎる成果だった。




「でも、このあとはどうしよう……。倒すだけなら高ランクの魔物を召喚すればいいだけなんだけど……。とりあえず、あの強力な固定ダメージスキルをどうにかしないと、聞く耳も持ってくれないよね?」




 でも、それが難しいんだよね……。

 何かいい手はないかな……?




:スキル無効化の牢獄を作ろう。

:HPの高いSランク魔物を召喚するとか?

:最終的には冒険者組合に引き渡すわけだからな。

:組合には通報しておきました。

:ただ、組合員も簡単に倒されるよな?

:スキルレベルが下がったら良いのだけど……。

:ダイヤスラ妖精すら倒せる力か……。正直羨ましい。

:スキルドレインとかはどうだ?

:デビシーフか!?

:見た限り、ドレイン無効化の装備はつけてないもんな

:ドレイン対策は冒険者なら必須なのに、誰にも習わなかったのか?




 スキルレベルが下がる方法なんてあるんだ……。えっと、デビシーフだね……。




「……見つけた! これでいいんだよね?」




 視聴者みんなに見えるようにモニターを表示させる。




―――――――――――――――――――――

レベル:20 種族:デビシーフ(ランク:D)

HP:50/50 MP:150/150

筋力:25 耐久:20 魔力:40 精神:30 速度:40

スキル:【スキルドレイン(LV:1)】

経験値:1,000 お金:300円

召喚DP:100

―――――――――――――――――――――




 ランクを考えると召喚DPは高めだけど、それでも低ランクなので特別高いわけでもない。

 今はほとんどDPが残っていないけど、ダンジョンで倒した冒険者の装備を売り払えば一体くらいは召喚できると思う。



 でも、お世辞にも強いとはいえない魔物……。

 あっさり倒されてしまいそう……。

 召喚時に上げられるだけレベルを上げたらいいのかな? 



 とりあえず装備を売ってみよう。

 僕はマスタールームにある装備を全て売却して DP に変えてみた。

 すると、全部で200 DP になっていた。




「まぁ、こんなものだよね? うーん、少し心配だなぁ……」




 一応、 今の DPでどのぐらいデビシーフを強化できるか調べてみる。



 レベル24か……。

 土田あいてのレベルが100を超えてることを考えると、さすがにまだ低すぎるよね?

 強いレベルで召喚できないなら、逆にたくさん召喚してみようかな?



 逆にそんなことも考えたが、土田の固定ダメージは範囲内にいる全てにダメージを与えることができる。

 たくさん出したところで一撃で倒されてしまうのだった。


 やっぱり、強力な一体を作り出すしかないみたいだね……。




「DPが増える明日の朝まで待つしかないかな。遥、大丈夫かな? うぅぅ……、不安だよ……」




 もし倒されたとしても遥は冒険者傷組合で復活することができる。

 それでも怖い思いはするし、痛みも感じる。

 できれば、そんな思いはして欲しくないけれど……。




「僕にもっと力があれば――」




――――――――――――――――――――

かなたんファンクラブ会員1号

¥50,000


大丈夫、ファンクラブ1号の俺がかなたんの力になってやる!

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

真のかなたんファンクラブ会員1号

¥50,000


ちょっと待て! 勝手に1号を名乗るな!

それにかなたんを助けるのは俺だ!

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

裏かなたんファンクラブ会員1号

¥50,000


これは一番助けた奴がファンクラブ第1号ということだな

――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――

奏くんファンクラブ会員1号

¥50,000


絶対に負けない!!

――――――――――――――――――――




「ちょっと、ファンクラブなんてないからね!? それにみんな上限一杯まで投げてるよね!? でも……、うん、ありがとう……」




 いきなり始まるファンクラブ第1号争いによって、ダイヤスラ妖精の時以来の赤スパで覆い尽くされていた。


 それだけで合計DPが5130も溜まっている。



 こ、これってホントにファンクラブを作らないといけないのかな?

 うん、そうだよね……。ここまでしてくれたみんなに報いないといけないよね?

 でも、 まずは遥を助けないとね。




「よし、デビシーフを召喚するよ!」




 もらった DP は全て使い切って……。



 えっと……、あっ、レベル100までいけるんだ……。

 じゃあ、レベルはこれで……、えっと、能力値とSPスキルポイントを振り分けて下さい?


 あっ、数値は自分で決められるんだ……。

 それなら【HP】は必須として、【MP】もスキルドレインを使うのに使うよね?

 他にも、スキルレベルを下げた後に攻撃もするから【筋力】と【速度】もいるかな?



 かなり、一部に特化した能力となってしまう。



 えっと、次は……SPのほうか……。

 とは言っても、覚えてるスキルってスキルドレインだけだよね?


 とりあえず、最大になるまでスキルドレインを上げてみる。

 そして、残ったSPの使い道だけど……。




「あっ、これ、新しいスキルも覚えさせられるんだ……」




 それなら断然【ダメージカット】だよね。

 本当はスキル無効化を覚えさせたいところだけど、強力なスキルはそれだけSPを多く必要になる。


 残りSPで覚えさせられるのは、ダメージカットだけだった。

 ただ、そちらも残ったSPでレベルを上げておく。

 その結果……。




―――――――――――――――――――――

レベル:100 種族:デビシーフ(ランク:D)

HP:1050/1050 MP:1150/1150

筋力:125 耐久:20 魔力:40 精神:30 速度:140

スキル:【スキルドレイン(LV:10)】【ダメージカット(LV:4)】

経験値:9,000 お金:300円

召喚DP:4940

―――――――――――――――――――――




 なんかとんでもない数値になってしまった。

 でも、ダイヤスラ妖精に比べたら、やっぱり見劣りする気がする。

 向こうはSランクの魔物だもんね。


 とにかく、この魔物を土田のすぐ上に召喚していた。




◇◇◇




 何度か遥を攻撃していた土田。

 しかし、未だに有効打は与えられなかった。


 そもそもどういった原理なのか、全くダメージを与えられている気がしない。


 そこでようやく少女の足元が光っていることに気づいた。




「くっくっくっ、そうか、聞いたことがあるぞ。スキルを無効化する罠を。つまりお前が今立っているところにその罠が仕掛けてあるんだな?」


「……」




 ついにバレてしまった……。



 遥の顔に一筋の汗が流れる。

 ただ、その瞬間に土田の頭の上に巨大な召喚陣が現れる。


 黄金色に輝くそれは、光を発したかと思うと、黒いコウモリが現れて、高速で土田へと向かってくる。


 コウモリが攻撃を加えてくる前に、土田は固定ダメージを与えていたが、それを耐えて、そのコウモリは土田を攻撃する。



 しかも、それだけではない。

 奏のモニターにはとある表示が現れていた。




土田正樹つちだまさきのスキル【固定ダメージ】のレベルが3に下がりました』

土田正樹つちだまさきのスキル【固定ダメージ】のレベルが2に下がりました』

土田正樹つちだまさきのスキル【固定ダメージ】のレベルが1に下がりました』




 一瞬で土田のスキルレベルは1となり、その上で致命打となり得る攻撃を加えていたのだ。




「ぐはっ……。い、一体何が!?」


「……」




 困惑する土田。

 遥もいまいち状況が飲み込めていない。


 ただ、こうなっては土田に戦う術はない。


 僕もマスタールームから出ると、2階層ボス部屋へと向かった。




◇◇◇




 僕の姿を見ると。デビシーフは肩に止まってくる。



 意外と小柄なんだな……。



 どちらかといえばコウモリに似ている。

  ただ今それを気にしている場合じゃない。


 僕は改めて満身創痍の土田の顔を見る。




「くっ、俺もここまでか」


「どうして、このダンジョン襲ってきたの?」


「俺は元々使えないスキルだからといって、レベル1の状態でダンジョンの奥深くに捨てられたんだ……」


「えっ……?」




 土田の 言葉に僕は思わず息が詰まる。

 すると、遥が補足をしてくれる。




「私も聞いたことがあります。パーティーを込めるメンバーは四人。だからこそ新しいメンバーを加えるために使えない人物はダンジョンの奥に捨ててくる、という話を――」


「あぁ、そういうことだ。そして俺は捨てられた。当然だよな、どんな相手でも1ダメージしか与えられないやつなんて。 だからこそ俺は復讐を誓った。俺を捨てたやつら、そしてダンジョンそのものに対しても……」


「あなたはそこで間違えたのですよ」




 遥は目を閉じ、呟くように言ってくる。




「もっと早くに奏さんと出会わなかったから……」


「えっ、僕!?」


「はははっ、本当にそうだな。こんな面白おかしいやつと出会っていたら俺の人生も違ったかもな……」


「ちょっと待って! 僕の評価おかしくない!?」


「おっと、どうやら俺はここまでらしい。復活したら冒険者組合に自首してくるよ」




 その言葉をつけると、土田はゆっくり消えていった。




「本当にこれで良かったのかな?」


「奏さんはダンジョンマスターだから? なら、冒険者を追い払って何もおかしいことはないですよ」


「うん、ありがとう」




 僕はしばらく、土田が消え、何もない空間をじっと眺めていた。

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