『赤犬の贖罪』

夷也荊

プロローグ

プロローグ 上

あなたは、今、紙切れを手に取った。もしくは、スマホが着信を告げた。

それはあなたの家の郵便受けに入っていたかもしれないし、学校の下駄箱に入っていたかもしれない。もしくは、スマホのディスプレイに表示されたかもしれない。


(なんだろう?)


あなたは、ちょっとドキドキしている。

しかし、そこに書いてあったのは、次のような文だった。




『これは不幸の手紙です。

この手紙と同じ内容の手紙を、あなた以外の五人に渡してください。

そうしなければあなたは不幸になります』




あなたは急に興ざめて、がっかりし、そして最後には少し怒りを感じる。

そして当然のように、あなたはこの手紙を無視した。そのまま手紙を捨てるか、削除したか、それは誰も知らない。

今どき、不幸の手紙とか、悪質なチェーンメールとか、ありえないだろう、と。

ところが、あなたの知らない場所で、こうしたものを拡散させる人々がいるのだ。

何故なら、ちょっと嫌なことが起こった場合、人間はそこに理由を探してしまうからだ。

「憑いていない」とか、「運が悪い」とか、日常的に使われてはいないだろうか。

不幸の手紙も、その理由の一つになり得る。あなたにちょっと嫌なことが起きた場合、すぐに脳裡に浮かぶのは、きっと捨てたはずの不幸の手紙だ。そして、少しだけ不安になる。手紙の指示に従わなかったから、嫌なことが起きたのでは、と。

 さらに、不幸の手紙の指示に従わなければ、もっと嫌な思いをするのでは、と。





さて、話は変わって銃の話をしよう。

これも、人の不幸に結びつく道具の一つだろう。

日本において銃で人を殺せば、確実に罪に問われることぐらい、誰でも知っている。

では、あなたに一丁の銃を渡そう。

この銃は、弾が半永久的に補填される仕組みになっている。

そして、この銃で人を殺しても、何の罪にも問われない。




果たして、あなたは、一生の中で一体何発の弾を使うことになるだろうか。

あなたの手の中に、他人を不幸にする可能性が握られ、しかも罪には問われないという点において、不幸の手紙と銃は非常に似ていると思わないかな?




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