第3話 たまご召喚

 同級生のスキルを一通り訊いてまわっているのか、ヤンキー2が俺のところにスキルを訊ねに来た。


「俺は剣術3だったんだぜ」


 どうやらそれが自慢で言ってまわっているらしい。

ここで答えないと、コミュニティから外されそうだ。

俺はあえて誤魔化すことにした。


は召喚魔法だね。

とりあえず卵が召喚できるらしい」


 うん、間違ってはいない。

たまご固定なことを言ってないだけだ。


「なんだよw 使えねーな」


 どうやらヤンキー2は俺のスキルが自分より使えないスキルだと知って嬉しいらしい。

これがスクールカーストのマウントというやつか?


「出してみろよ?」


「は?」


「卵だせよ」


 仕方ない。1個だけだぞ。

俺は玉子を1個出してやった。


 するとヤンキー2はその玉子を割って掌に出した。

何するんだ?こいつ。


「食えるな」


 そう言うやいなやヤンキー2は俺が出した玉子を食った。いや飲んだ。


「は?」


 何それ?生卵を割って飲んじゃうの?

それって田舎では有りなの?

そういや、昔のボクシング映画の主人公が、ジョッキに入っている生卵を大量に飲んでいたっけ。


「こんな森の中じゃ、食えるもんは貴重だなw」


 ヤンキー2は俺の背中をバンバン叩きながらそう言った。

ちなみに玉子とは食用の鶏卵のことだ。

卵になると生物全般の卵子の事を言う。

食えて当たり前だ。

だが、なるほど、俺のスキルはこのサバイバル状態の中では貴重なんだ。

こいつバカに見えて、結構鋭いじゃないか。


「ステータス」


 ヤンキー2が離れて行ったのを確認して、俺はもう一度ステータスを見てみる。

するとMPが19になっていた。

つまり玉子1個出すのにMP1を消費したのだろう。

いや、時間が経ってMPが回復していたとしたら拙い。

本当はMP2を消費しているのに1だと思ってたまご召喚を使っていては大変なことになる。

まだMPが0になった時のことが判っていない。

MP0で気分が悪くなる程度なら良いが、下手すると死ぬパターンもあるからな。

仕方ない。もう1個出すか。


 俺はスタータス画面を見ながら卵をもう1個出した。

するとMPが18となり、卵1個の召喚にMP1消費することが確認できた。

俺は召喚した卵ををポケットにそっと仕舞うのだった。


「皆、集まってくれ」


 委員長がクラス全員に集まるように声をかけた。


「ノブちんと話した結果、クラス召喚に間違いないみたいだ。

ゴブリンもいたし、ここは異世界ということになる。

そしてクラス召喚されたからには、召喚主がいるとノブちんは言っている。

なんらかの手違いによって森の中に出てしまったが、召喚主も僕たちを探している可能性が高い。

僕たちはその召喚主に合流しなければならない」


 おいおい、ノブちん、クラス召喚の定番は悪い王族に奴隷にされるというパターンだろうが。

召喚主を盲目に信じて良いのか?

どうやら委員長にはラノベ知識が無いみたいだな。

これはこのクラスと行動を共にするのも考えものかもしれないな。


「本当に異世界なの?」


「いやだ、帰りたい!」


「マジかよ、今夜の番組にスターズが出るのに!」


 メガネ女子が泣き、ヤンキー少女1がお気に入りのアイドル出演番組が見れないと嘆く。

まあ、いつかは告知しないとならないのだろうけど、あまり良い手ではなかったかな。

流石に本人たちがそうなんじゃないかと察するタイミングまで待っても良かっただろうに。


「静粛に!

まず生きるために食糧と水を探さなければならない。

幸いにも丸くんが【クリーン】の魔法が使える。

生水でも【クリーン】をかければ安全に飲めるんだそうだ。

食糧はパッチテストというのをすれば毒の有無がわかるらしい」


 ほう、クリーンは便利そうだな。

それで飲み水が確保出来るなら、丸くんとやらに頑張ってもらおう。

とりあえず水源を探さないとならないな。

それとパッチテストってこの世界の毒が致死性で摂取量が少なくても致命的だったら、それだけで死ねるぞ。

誰か【鑑定】でも持っていれば良いのに。


「僕が【植物鑑定】を持ってる。

たぶん食べられるかわかる」


「栄ちゃん、本当?

なら食べられるかは栄ちゃんに見てもらおう」


 その方が良いだろうね。

危険なパッチテストなんてしなくて安心したわ。


「おーい、それと転校生が召喚魔法で玉子出せるぞ」


 ちっ! ヤンキー2のやつ余計なことを。

MPに限りがあるんだから頼られても困るぞ。

だいたい人数分出せないんだから、渡らなかったやつに恨まれるだろうが。


「召喚魔法はMPの消費がきつい。

無から有を出すんだからな。

なので10個も出せないと思ってくれ」


 俺は安全マージンを確保することにした。

全員分出せなんて強要されたらMP枯渇でどうなるかわかったもんじゃない。

丸くんと栄ちゃんも無理するんじゃないぞ。

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