ゴシック的描写研究 弐回目

・城壁に伝う枯れた蔦のように、私は過去への郷愁に囚われていた。


・闇に上る紅い月の光が、割れたスタンドガラスに乱反射して、辺りを真っ赤に染め、さしずめそこは屠殺場のような残酷さを想起させる。


・舞い散る埃は、陽を受けて輝き、神聖ささえ感じられる。


・人形を放り出したかのように、無造作に転がる死体。


・その気味悪く動く異形は、まさしくベルメールの遺した少女の破壊像のようであった。(ハンス・ベルメール・・・・球体関節人形の祖。少女趣味と破壊が混淆した作品で有名)


・血に塗れた赤黒い肉の層が露になり、それが頸の断面であることに気がつくことが出来なかった。


・彼女の相好は美と同時に死であり、暗鬱であった。磁器のように白く滑らかな肌にこびりついた血潮が赤く映え、無関心に死体から腸を引き摺り出すその姿は、繊細であり凄烈な、豪奢であり傲慢な絵画のようであった。


・「もうおしまいだ‼」燃え盛る屋敷を背に、彼は慟哭の限りを尽くした。炎は不死鳥の如く高く燃え上がり、屋敷が崩壊する音と、中に残されている女の叫び声が、呪詛のように甲高く響いた。


・ふわり、とフリルが舞う。ふわり、と甘い香りがする。天蓋付きのベッドには、お嬢様がひとり。こっそりと持ってきたビスケットを頬張ると、その小さな手を頬に押し当て、ベッドの中に静かに沈んだ。


・吹き抜けの大きなホールに出た。辺り一帯に静謐さが漂い、驚くままに見上げると、はるか天井には、荘厳な宗教画が描かれていた。

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