グリーンスクール - 守ってあげたい

辻澤 あきら

第1話 守ってあげたい-1


                守ってあげたい



 某月某日――晴。風向、南南西。


 ――さあ、さあ、お立ち会い。遠からん者は音にば聞け、近からん者は目にば見よ。新聞部の号外でござぁい。

 早朝の校門に人を集める声が飛ぶ。

「おい、また中川のヤツ号外を出してやがる」

「あいつんとこ、号外の方が多いんじゃないか」

「まぁ、行ってみよう。またプレゼントもあるかも」


 全学年が待ち望んでいる新聞部の号外。次々と登校中の生徒が集まる。

「さぁ、ちょっと聞いてくれ。こないだの土曜日、野球部が試合をした。相手はどこだ?これが、愛球会。愛球会、知らない?知らない?そう、知らない人の方が、多いみたいだね。これはうちの学校の同好会なんだ、な。同好会と試合したのがそんなに面白いのか?そりゃあ、あんた、どっちが勝ったか聞いてから、言って欲しい台詞だね。これが、愛球会の勝利となった。どうだ、驚いたか?うちの野球部と言えば、進学校ながら、なかなかの強豪で、ベストエイトは堅い。堅い堅い、鉄板並み。あの、甲子園の希望の星、緑川直樹まで輩出したほどのチームだ。これが、負けちまった。さぁ、一体どんな試合だ?それが、今回の号外の中身だ。詳しくは読んでくれ。一部、たったの百円。消費税なしの良心価格。おまけに、例のごとく、プレゼントの応募券も附いている。プレゼントは、一体何だ。今回は、新聞部特製の、生写真五枚組。あの、緑川直樹ありの、江川純ありの、五十嵐風人ありの。おっと、野球部だけじゃない、サッカー部、テニス部、柔道部、水泳部、それぞれのヒーローの写真あり。なんと、新聞部のこの中川さんの写真もある。これは、いらない?いらない?あっそぉ……。まぁ、いいじゃないか。ご希望とあればどんな相手のどんな写真でも撮ってプレゼントして差し上げよう。この応募券が附いている。ごまかしちゃだめだよ。ちゃんと、コード番号を打ってあるからね、コピーしたってだめだよ。AIで管理してあるんだからね。号外を買ってくれた人にだけ、チャンスが回る。さぁ、買った買った!」


 飛ぶように号外が売れる、とまではいかないが、熱心なファンは確実に買って行く。部員の新田も坪井も立花も大忙しでさばいていく。中川は愛敬を振りまきながら、次々と客を呼び込む。予鈴が鳴るまでの勝負。時折、中川に写真の打診をする者もいて、中川は交渉に応じる。

「どう、別注で。五枚いくらくらい?」

「そりゃあ、写真の内容によりますよ。普通の写真でよければ、こんなもんですけど。隠し撮りとなりゃあ、話は変わります。このくらい、場合によっちゃあ、このくらい、ってとこですか。ただし、経費は別ですよ」

「何だよ、経費って」

「そりゃあ、隠し撮りなら、時間が掛かりますから、腹も減るし、場所によっちゃあ、蚊にも喰われる。虫除けスプレーなんかも必要になるんですよ」

「何の写真を撮る気だ?」

「そりゃあ、隠し撮りですよ。何なら、ビデオでもいいですよ。こっちは時間が掛かるんで、割高になりますけど」

「ちょっと待てよ。それって、犯罪にならないか?」

「なるかも、しれませんね」

「バカ野郎、何考えてるんだ?」

「それは、ほら、購入者との信頼関係で成り立つってことですよ。あくまで、個人で楽しむ分には、バレっこないってことです」

「いいよ、そんなヤバイのは。普通のでいいから、頼むよ」

「OK!じゃあ、放課後、部室に来てください。打ち合わせしましょう」


 予鈴が鳴って、三々五々ばらばらに散って行く。ほとんど売れ残ることなく号外は売れた。

「部長、こんなもんですけど」と、一年の坪井はるみが残った号外を掲げて見せた。

「おう、上々。残ったヤツは、処分しとけよ。応募券目当てのヤツもいるからな」

「中川、急がねえと授業に遅れるぞ」

新田浩介の言葉に中川は慌てて一年の二人に言った。

「おう、お前らも遅れるなよ。こんなことで遅刻すると、活動停止を言われるかもしれないからな。弱みは作るな」

「はーい」

坪井と立花純子が声を合わせて応えた。

「じゃあ、昼休み」

「じゃあ、また」

四人は校舎へと駆け込んだ。


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