一章 百合展開を阻止せよ!

第1話 男ってヤツは


始まりといえば、話の一番重要な部分だ。


ありていに言えば、美女の目元と同じ。

美女を口説きたいのなら、それどこのマスカラ?――とまず聞くといい。

十中八九、ハア?――と返ってくる。ざまあみろ、馬鹿め!


ともあれ、何アレ、始まりが肝心。

ならば、話を始まりに戻すとしますか、プラトン先生。





事件の始まりは、友人のこんなおバカなセリフからだ。



「お前さ、セックスしたことある?」



僕は晴れ晴れとした表情で友人に言葉を返す。



「何をバカなことを……舐めるなよ。僕の童貞力は13万だ」

「ククク……何を隠そう、私も童貞でね」

「それなら、決めるか童貞王! 俺はこの勝負に財宝エロ本を賭ける」

「探せ! この世の全てをそこに置いて来た……」

「ありったけの~夢を~!」



こんな風に、男子高校生っぽいアホさを晒しても、誰からも冷たい目を向けられない。

僕とその友人……曽我原そがはらあきはそんな遊び場が欲しくて。

だから、旧校舎の部室棟2階、一番奥の空き教室を占拠した。

もちろん、合法的にだ。

この部屋を手に入れる為、僕らは芸術映画同好会という仮の名を名乗り、生徒指導のハゲ谷先生、俗にいう萩谷はぎや先生を欺いた。

まあ、実際に映画を見ているのだから、映画同好会というのも嘘ではないが。



「で、次何見るんさ? 譲二」

「ドーン・オブ・ザ・デッド(リメイク版)」

「好きだなーそれ。それ見てからあのチェーンソー買ったんだもんな。部室でひと際、場所取ってんぞアレ」

「アレはな、いつか車の中で振り回したいと思って、持ってきたんだ……」

「映画みたいにか? 頼むから誤爆すんな?」



僕らが占拠した空き教室(僕らはセーフ・ルームと呼んでいる)には、奇妙な獲得品がたくさん置かれている。

僕や、秋が面白いゴミを拾ってきて、部屋の中に溜めているのだ。

部室のドアに掛かった、水色のドリームキャッチャーもその一つである。



「前々から思ってたんだけど」

「うん」

「この中心の石、魔法陣みたいな印が中にあるよな」

「知らない。それ、“魔女の家”にあったヤツだし」

「あぁ、あのゴミ屋敷か。て、入ったのかよ?」

「うんにゃ? たまたま前通ったら、投げつけられた」

「誰に?」

「住んでる婆さん」

「魔女本人か……」

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