第16話 ウ……を探せ

 「ない!ないっ!いないっ!」

 真誉は凝視を繰り返し頁を捲りながら、同じ言葉を時には若干変えて繰り返す。

 春夏冬との世間話から得た情報を元に、サングラスの美形の男子生徒をくまなく探す。


 真誉は勿論アルバムの中にくだんの人物がそのまま映っているとは思ってはいない。

 サングラスをしていたのは万一の際に自身を特定されないため。

 現に街の防犯カメラに姿を撮られているのだから、最悪姿そのものは見られても構わないと思っての事だとは思ってるだとろうと考えている。


 美形で背が高めの人物を片っ端から脳内でサングラスを当てはめながらアルバムを凝視していた。

 その疲労は計り知れる事もなく、頬から顎にかけ、床面の見えないフローリングに落ちている事からも容易に伺える。

 

 かれこれ全頁を5回は確認したであろうか。

 時刻は既に22時を回っていた。

 途中病院から連絡があったが今晩の付き添いはキャンセルを伝えた。


 病室が個室に移ってからは毎日付き添い宿泊の申請を入れている。

 付き添いをしない日は18時までに入れる事になっていたのだが、春夏冬との世間話の約束があったので真誉は失念していた。

 

 この付き添いにしても、料金は那由多を轢いた哀れな男、つなしあまねに請求するつもりでいる。

 治療費の一部という扱いにして。


 真誉の中には轢いた彼よりも、轢かれるに至るまでの一連に重きを置いている。

 目を覚まさないのは事故のせいではあるが、強姦さえなければ事故にもあっていない。

 十も那由多を轢く事はなかった。


 強姦さえなければ、十は今頃普通に一家団欒を楽しんでいただろう。

 お父さんの後にお風呂入りたくないとか娘に言われていたかはわからないが……

 だからこそ十は哀れな男でもあった。


 病院からの連絡に関しても数回は不在着信として残っている。

 喫茶店にいる時はマナーモードにしていたし、それから帰宅後自分の部屋でアルバムを探している時も、件の男子生徒を探している時もポケットで震える携帯電話に気付いていながら無視していた。


 時間を確認しようとポケットから携帯電話を取り出した時、偶然着信があったため電話に出ると病院から今晩の宿泊についての件を伝えられた。

 その時点でさえ20時を超えていたので病院側としても今から来られても困るであろうし、真誉は今晩は泊まらないと返答をした。



 「風呂……入るか。」

 何度見ても見当たらないものは見つからない。


 別の機会に見ればひょっこりと見つかるかもしれない。

 探し物が急に見つかるのと同じように。


 行き詰った技術員が図面片手に一服すると落ち着いて、それまで気付かなかった故障原因に気が付くように。


 風呂に入ろうとするが数日放置していたため、清掃をし湯船にお湯を張る。

 これだけでも30分程度の時間を要する。

 「お風呂が沸きました。」の機械的な音声が流れるまでの間に、軽く夕飯を食べる。

 

 買い物もろくに行っていないので、インスタント系しかなかったために時間はかからなかった。

 何かを考えるには短すぎた。


 春夏冬が映像を見せてくれれば。

 せめて携帯でそこの写真を撮影して見せてくれれば。


 もしかすれば探せたかもしれない。

 先程までやっていた事は、ウォーリーを知らない人がウォーリーを探すようなものだ。


 食器を洗っていると「お風呂が沸きました。」と音声アナウンスが流れてくる。

 その韻は、「上手に〇けました~。」と酷似していた。


 

 「突き飛ばすという事は、死んでも良い。死んでも構わないと思っている人物。という事は愛か憎か……」

 真誉は自身を洗い終え、湯船に浸かりながら自分がその男子生徒だったらという視点で考えようとしていた。


 もし愛を持っていたら……想像するのも不愉快ではあるが、強姦に参加していたはずだと考えている。

 しかし、憎であっても参加していたかも知れない。

 愛でも憎でも、そこにに至る経緯にもよるが、例えば告白を無下に断られれば少なからず憎しみの感情を抱いても不思議ではない。


 本当に例えばであるが、愛であれば初めての貫通は自分だと喜ぶはずだ。

 憎であるならば、自分をフった男に貫通されるなんてどんな気分?というドス黒いものが出てくるはずだ。

 この想像は、どちらにしても気分の良いものではなかった。

 

 


 那由多が未経験なのは、あくまで真誉が知る範囲での事なので実際はわからない。

 しかし、浮いた話を一つも聞かないので未経験で間違いではないと思う。

 だから那由多の初めてを奪ったのは強姦した奴らの中にいる。

 

 真誉は再び頭の中が沸騰し始めてきた事を自覚していた。

 姿の見えない人物達に対する炎が地獄の氷ですら溶かしてしまい、その中に封じられた悪魔が動きだしてしまうような。


 どのようにして地獄を見せてやろうかと、先走って想像をしていた。

 

 その自身の想像が、心の天秤を傾けようとしていた。


 DANGER × DANGER


 どちらに傾いても危険だった。


――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 まだまだずっと先の話になりますが、那由多の初めてについてどうしようかなと。

 強姦魔達に散らされたとする方が良いか、その他か。

 

 その他?真誉が知らない誰か?

 ブラコン気味の那由多が他の誰かとってありえない?

 であるならば……無意識化の真誉?


 高熱で魘されてる真誉に房中術?


 ないな……

 もしそうだった場合、真誉が全てを知り全てを終え、目覚めた那由多に対しどう向き合えと。

 自分自身の天秤で真誉が壊れそう。


 ないな……


 それと、DANGER×DANGERってネタ。わかる人いそうだ……

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