3 図書館はデートする場所じゃない
入学式の日に告白された奴がいるって話は瞬く間に学年中に広まっていて、俺はチクチクとした視線を感じていた。
いわゆる「リア充爆発しろ」ってやつな。でもそんな視線はすぐに落ち着いた。
お互いに初対面で「占いで運命の人って言われたから」という理由だけの告白である事。あまりにどうしたらいいかわからないから、今お試し彼氏・彼女をしているという事を俺が友達に正直に話したためだ。
別に俺は中学時代だってモテた訳じゃない。背が高いわけでもないし、顔だっていわゆる十人並みというやつ。
「頑張れよ……」
友達の顔に哀れみが浮かんでいた。
そんなに俺可哀想か。
確かに、性格で好きになられた訳でも、顔で一目惚れされた訳でもないもんな……。
入学式の日に鈴木さんを駅まで送ってから、下校時に駅まで彼女を送る時間が俺たちふたりの時間になった。
話せることはほんの少しずつ増えていって、些細な事にも笑顔を見せてくれるようになった。
本が好きな事、占いも好きな事。兄弟はいなくて一人っ子な事。
中学時代は美術部だったこと。
そういう彼女のことを、ひとつひとつ俺は知っていった。
本も読むけど動画見る方が好きな事。本当は園芸が好きで、家でも花や野菜を育てている事。姉がいる事。
中学時代は卓球部だったけど、別に高校では卓球やろうとは思ってない事。
俺もそういうことをひとつひとつ話していった。
そして駅について別れるときには、いつも彼女はふわりと微笑んで。
「鳥井くん、今日もありがとう。楽しかった」
「う、うん。俺も」
バイバイと彼女が手を振って、駅の階段を上がっていって、ホームに辿り着いて。
そこで俺に気付いて、また手を振ってくれる。
それに手を振り返して、俺は自転車に跨がって帰る。
日に日に、彼女の言葉が自然体になっていって、話せる事が増えていって。
俺に向けられる笑顔が本当に優しくて。
「いい子、なんだよなあ」
思わず独りごちてしまうくらいには、鈴木さんの事を考えてる俺がいる。
なんなんだろう、この感情。
ググったら、「人は告白されると相手の事を好きになりやすい」って出てきた。
好意を向けられる事で、自分も好意を持ってしまうんだとか。
それなのか?
でも、彼女が俺に向けているのは好意なのか?
そもそも、彼女は俺の事好きなのか?
思考はいつもそこで堂々巡りだ。
「日曜日、空いてる?」
そんなことを思いきって言ってみたのは、俺たちが付き合い始めてから2週間目の木曜日。
その間俺たちがした事といえば、一緒に下校してその間に話す事だけ。これ付き合ってるって言うのかな、と一昨日辺りから俺は悩み始め、思い切って鈴木さんを日曜日に誘う事にした。
自分で言ってなんだけど、心臓バックバク!
「日曜日?」
オウム返しにして振り向いた鈴木さんは、顔を強張らせた俺を見て一瞬フリーズした。その後で、見る間に顔を真っ赤にする。
「にっ、にちようび! にちようび、あいてます! はい、だいじょうぶです!」
「とっ、図書館……図書館行って勉強しない?」
「はいっ、一緒に勉強、します」
お互いに意図が通じてしまったから、俺たちは思いっきり挙動不審になった……。
初デート、どこへ行ったらいいかなって凄い悩んだんだけど。
本が好きって言ってたし、一緒に勉強って言えば誘いやすいし、お金もかからないし、図書館なら無難かなって結論に至って。
それでOKをもらった俺と、誘われた鈴木さんはお互いにまともに話ができないくらい緊張してしまった……。いや、多分、俺の場合は鈴木さんの緊張がうつってるんだよ。
鈴木さん、うちの鬼姉とは違って凄いシャイだからさ。
そして日曜日。
気合い入りすぎてるのがわからない様に服に気をつけて、駅で待ち合わせした俺は鈴木さんを待っていた。
「おはよう、鳥井くん」
俺の目の前に現れた鈴木さんは、清楚を絵に描いた様なワンピースで「鬼姉とは違う!」と俺は内心ガッツポーズで叫んだくらいだ。
「そういうの、いいね。……制服しか見たことなかったから新鮮」
「そ、そうかな。似合う?」
「うん、凄く、似合ってる」
「……どうしよう、死んじゃう……」
俺の拙い褒め言葉で照れて座り込んじゃうのどうなの!?
可愛すぎないか? 俺の暫定彼女!!
既にふらふらになっている彼女を助け起こして、自動販売機で買ったジュース渡してベンチで並んで飲んで、ようやく彼女が落ち着いたから、俺たちは歩いて図書館へ向かった。
結論から言おう。
図書館は、デートをする場所じゃなかった。
そもそも、おしゃべりができない。
今まで図書館で勉強した事なかったから知らなかったけど、「図書館は本を読む場所です。勉強での席取りはやめてください」って張り紙までしてあって。
それでも、小さい声で話しながら、お勧めの本を教えてもらったり、小さい頃に読んだ本を見つけて読み返すのは楽しくて。
閲覧スペースで並んで本を読んでいるだけで、俺はなんだか幸せな気持ちになってしまった。
ちらっと横を見れば、楽しそうに本を読んでいる鈴木さんがいる。
なんかいいな、こういうの。
図書館はデート向きじゃないけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます