「付き合って下さい!」 初対面の女の子に突然告白されて、全く意味がわからない!

加藤伊織

1 ファースト・インパクト

「私と付き合って下さい!」


「えっ……?」



 女の子からの突然の告白。

 これはきっと普通なら心ときめくシチュエーション。


 だけど俺は困惑しかできなかった。


 なぜなら――。

 


 今日は高校の入学式で、今まさに帰ろうとしていたところで、俺たちは全く見知らぬ同士だったから……。

 



「あの、すみません。……誰?」


 間抜けな返事をしてしまったことを許して欲しい。

 顔も見覚えなければ、名前ももちろん知らない。高校になると名札なんてものもない。

 目の前の女の子が同じクラスかどうかすら、俺にははっきりわからなかった。

 

「あっ、ごめんなさい、名前! 私、1年B組の鈴木麻耶すずきまやって言います。あの……あなたの名前教えて下さい」

 

「俺の名前も知らないで告白してきたの!?」

 

 びっくりした。人生で一番びっくりした。そして更にもう一段階びっくりした。

 今まで顔もろくに見えない角度でお辞儀をしていた彼女が上げた顔が、あまりに真剣だったから。


 こういうのって、悪戯のシチュエーションが多いじゃん。

 罰ゲームとかでさ、告白して釣れるか試してこいよ、みたいな。

 漫画とかでよく見るやつ。俺はそんな経験ないけど。


 でも、そもそも今日は高校初日だし、いきなりそういう人間関係が出来上がっているとも思えない。

 なにより彼女は、凄く真剣だったから。


「C組の鳥井篤志とりいあつし……。ごめん、鈴木さん? 俺たち初対面だよね?」


 なんで今告白されてるのか、俺には1ミリたりとも理解できない。


「はい、初対面です!」


「初対面ってことは、一目惚れ、とかじゃないんだ」


「はい、違います!」


 ……なんていうか、凄くハキハキした子だな。顔を見ると緊張してるみたいだから、余計勢いがついてるのかもしれないけど。


 そして俺は、彼女のことを冷静に分析してしまうほど、自分の方は混乱していた。

 

「ごめん、なんで告白されてるかわからない」


 だって、初対面かつ一目惚れじゃないって事は、彼女は俺のこと好きじゃないんだよね?

  

 目の前にいるB組の鈴木さんは、真新しい制服に身を包んで、ショートボブの髪を風に揺らしている。

 可愛いかどうかって言ったら、初対面の俺でも、「あ、この子結構可愛い」と思うくらいには可愛い。

 


「理由を言ったら付き合ってくれますか?」


「り、理由によって? かな」


 彼女の圧に押されて俺が怯んだ瞬間、耳を疑う言葉が飛び込んできた。


「今日、昇降口で26番目に出会う人が、運命の人だって占いで言われたので!!」


「………………マジで? それだけ?」



 4月の風はまだ少し冷たくて。

 大きめに作った制服の首元をひんやりした風がくすぐっていく。

 俺は言葉を失ったまま、しばらく彼女と見つめ合ってその場に立ち尽くしていた。

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