第20話 前友 あれ おかしいぞ?お金無いんだけど……


日がとっぷりと暮れた頃、いつもの店で宴会をしていたボルトには店主が遠慮気味に383万ギル(日本円で約383万円相当)を請求した。


お店にとっては上客でとてもありがたいのだけれど、これだけ高額のツケが貯まってしまうと経営にも響いてしまう。この金額の半分でも、4分の1でも入れてもらえば助かると思っていた。


「ハハハ、心配するな店主。このSランクパーティー、ラビアンローズのボルト様がそのくらいの金など、パッと払ってやるよ」


ボルトはお金用の魔法の袋から金貨39枚を出して店主に渡した。


余裕振っているが、この出費は相当な痛手だったのだ。


「釣りはとっとけ ! こまかいのは、いらんぞ !」


「流石はボルト様 ! 感謝致します !」


女性の前で良い顔をしたいが為のセリフなのだ。本当は返して欲しかった。

 


パーティーの収入はボルトが半分取って残りを他のメンバーで等分にする。しかし、リョーマは未熟者と言われ、更に半分にされていたんだ。


女性はボルトから高額な貢ぎ物が贈られるから、この分配でも文句は言われなかっだけど、男は割りを食うんだ。

悪質な、だけどボルトからすれば最高のシステムだね。


そのシステムの恩恵でボルトはけっこう溜め込んでいたんだ。

しかし、先月は5千万G以上(日本円で約5千万円)あったはずだがもう、ざっと見たところ金貨30枚(3百万G)ほどしか残ってないのであった。


まぁ、一発当てれば良いだろうと彼はたかをくくっていた。



やがてボルトと一行はいつもの高級宿に帰ると、ボルトのそばに女将が来た。いつもは宿に帰れば向かい合って迎えるのに、ボルトの横に並ぶようにして出迎えたのだ。


ボルトは女将もいよいよ俺に御心酔かな ?? なんていう的外れなことを期待していたのだが……  女将の思い詰めた顔を見て、とてつもなく嫌な予感がした。


「頼むーーーーーーー !! まさか ! まさかの連続攻撃はやめてくれーーーーーーーーーー !!!」


残念なことに……  そのまさかの連続攻撃は疾風の如く、見事に決められたのだった。


小声で宿泊料金を請求された。

金額は3百万Gだったのだ。

一泊3万Gの宿に6人。

リョーマが値引き交渉して、この額だ。


お金用の魔法の袋の、底の底まで……  懸命にジャリジャリとあさり、何とかギリギリで支払う事ができた。


 「ふうーー、危なかった…… もう少しで恥をかくところだったぜ !」



残念なことに、もう全財産は銀貨1枚も残って無かったんだ。

ボルトはここにきてやっと危機感を覚えたのだが……


遅すぎるわーー !!!



ホッと、ひと息ついたのも束の間で、そんなボルトを更に追い込む刺客が現れたのだ。


以前、仕立てを注文したポトス用の聖女のローブを持って、商人がやって来ていたのだ。料金は納品時にという約束だった。


金額は覚えてないけど銅貨では買えなかったな ? と、彼なりに逃げ場を求めたりしてしまった。

 ~しかし、もうどうしたって逃げられないだろう。


商人は死神のように、何の躊躇ためらいもなく鎌を、ではなく金を請求したのだ。その額は40万Gであった。以前なら大した額じゃないのだが ?


「あわわわ、…………今 ……持ち合わせが、 、 、 なくて……」


ボルトは冷たい雨に濡れた子猫のような声で答えた。

 商人はあわわわと言う人に久し振りに会った。お金に関する対応はなんだって心得ている。

 当然ながら、まったく金を持っていない客の対応だって完璧だ。ボルトのように素性の知れた客ならどうとでもなるのだ。


「良いですよ ! またこちらに寄らせていただきますので明日にでも…… もし、お困りでしたら貸し付けもやってますから気軽にお申し付けください。心配なさらなくても大丈夫ですよー !」


「イヤイヤイヤイヤ !!!! たまたまだ !! たまたま偶然、奇跡的に持ち合わせが無いだけだからな。明日は必ず用意する。面倒掛けてすまんなぁ」


くうううっ ! 天下のボルト様がこのような仕打ちを受けるとは、なんという屈辱 !


何故こんなことになったのか ? 簡単だ。稼ぎが減って無駄遣いが増えたからなのだ。危機的に……

しかし、ボルトには何故こうなったのか理解わからなかったんだ。


もし多少なりとも計算ができたなら、こうはならないはずだ。当然、何をどうすれば改善できるのかも、まったく理解らないんだ。泥沼だよね !


解決方法としてボルトが考える事ができたのは、魔物退治だけだった。リョーマがいれば改善策は幾らかあっただろう……

 だが、ボルトはその一点に掛けたのであった !



翌日。ボルトはパーティーのメンバーを集めて後先考えず狩猟に出た。いつもならはすに構えてのんびりと仲間に任せているけど、この日は先陣を切って進んだ。


その行軍はガンガン進んだ。他のメンバーは付いて行くのも大変なほどだったのだ。


「おーー、かなり頑張ったな ! 休憩にするぞ。何か食べるものは……」


なんと、魔法の袋の中を探しても何も無かったんだ。


「ええっ ? 食えそうなものが何もねえぞ !」


「「「えええーーー !!!」」」


リョーマがあんなに大量に用意した料理も、干し肉も、パンも、水も、何も無かった。


リョーマ以外のメンバーは買い出しもしないし、調理をする者もいない。食材は消費するだけで、もちろん蓄えることは無かった。


いつかは食材の貯蓄が無くなる時が来るのは当然のことだろう。

このパーティーの歯車は大きな歯が欠けて完全に動かなくなっていたのだ。


「ちょっと。食べ物も用意してないの ? 」


「はあ ? 食事は女の仕事だろ ! お前らが用意しろよ」


「嫌よ。このパーティーは食事付きでしょ」


「そうよ、そういう約束で入ったんだから !」


やらない理由を言い合う会話に良い未来は無い。

食料が湧いてくる訳かないだろう !

彼らは、今までリョーマが寝る間も惜しんで貯めた保存食を、ついに食い尽くしてしまったのだ。


「コイツら、焼けば食えるんじゃねえのか !?」


 さっき倒した鳥の魔物が目についた。

 味はそこそこだけど、しっかり火を通せば食べられる魔物で。メンバーはリョーマが調理してくれたことを覚えていた。


「じゃあ、早く焼いて !」


「どうやってやるんだよ ? こんなことやったこと初めてで分かんねーよ !」


「ほら、魔物を倒すときはバンバン魔法放つじゃない ! あれよアレ !」


仕方なく獲物をボルトが火魔法で丸焼きにして食べた。

 焦げ焦げだったが中は赤かったんだ。彼らは調理のちょの字も知らなかったのだ。中まで火が通ってないこの鳥の肉はかなりダメなヤツだった。


喉が渇き、池の水を飲んだ。腹ペコよりはましだった。無知とは恐ろしい。これもアウトだった。小川ならまだ良かった。


更に進むと沼地に出た。そこでやっとブルーゲーターを見つけた。しかし、さあ戦うぞというときになって、ボルトは強烈な腹痛に襲われたのだ。


Cランクの魔物を前にし腹を押さえ一歩後ずさる。ところが、もう引くに引けない状況になっている。


どうするボルト。大丈夫か ? ラビアンローズ !



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