第11話 敷金礼金家賃0Gは狼のハンドメイドの家

 

どんなに長くて暗くて辛い夜だって、いつかは明ける。 

 闇を抜ければ、きっと光が差すだろう。  

 苦難を乗り越えれば、きっと幸せがおとずれるだろう。


 僕らも長い夜を乗り切った。みんなで元気に、明るい朝を迎えることができたんだ。

 当たり前に訪れた朝だけど、とても幸せな朝だと感じたんだ。

 

 ところが、てっきり朝だと思っていたら、お日様はとっくに真上に昇りきってっていた。

 昨夜は深夜の、ずいぶん遅くまでいろいろなことがあったんだ。そりゃあ仕方ないよね。


 急いで支度して、昼過ぎにはケータの家に遊びに来たんだ。

ゴブ人も、ウルボス達も獣人も、僕と使い魔全員でやって来たんだよね。


何しろゴブ人はナワバリから出たことの無い人が結構たくさんいたからね。

そりゃー知らない世界には、彼らも興味あるよなぁ。



「おーい、来たな魔王リョーマ。手下をそんなにたくさん連れて、どこの町を滅ぼしに行くんだ ? 魔狼にジェネラルに妖狐かよ、やりたい放題だなぁ !」


「嫌だなぁ、トビさんは辛口だなぁ、もうー 」


「何言ってやがる、今のは親愛を意たっぷりと込めた挨拶だぜ !!」


「やあ、リョーマ。良く来てくれたね。だけど驚いたよ、本当にたくさん来たね !」


「みんな行きたいって言うんだよね…… 何だか遠足みたいで、はしゃいじゃってゴメン !」


ケータ達が驚くのも無理はないね、全員でざっくり100人以上と50頭くらい居るからね。昨日も7人増えたしね。ホント申し訳ない。

さあケータの家の内覧会だよ。楽しみだね。


ケータのお家は森の入り口辺りを切り開いた土地で、周りは人が二人分くらいの高さの防壁で囲まれていたんだ。

明るい時間に来ると、その広さに驚いたよ。


ワンルームマンションとか、8戸並び3棟の平屋建て ? とか言ってたんだけど、そこには24軒のお家があるのと、同じだけの人が住めるんだってさ !


 それに商店、屋台、病院、バーベキュー施設とバンガロー4部屋、畑もあり、冒険者も住んでて、買い物のお客や患者も多かったんだよ。もう、村と呼んで良いね !


 それにしても、僕も今までいろんな場所に行って、様々な街や村を見てきたけれど、この村にはこの世界で見たことも聞いたこともないような物があふれている。このマンションとかいう建物だって見たこともないんだ。


だけど、そんなことは気にしない。お部屋は新築南向きワンルームで敷金、礼金、更新料無しの夢の家だ。

バス、トイレ、キッチンは共用だけど、お部屋は新しくてキレイで申し分ないよ ♪


「うわああああああー、スッゴーい♥ スゴすぎるわぁ !!!」


あれは、ゴブミだろうか ? 随分喜んでいるようだね。


だってさ、元々僕らはバス共用(川)、トイレ共用(川)、キッチン共用(たき火 ……ギリギリかまどと呼べるか呼べないかといった程度)、部屋共用(洞窟と掘っ建て小屋)だったからね、めちゃめちゃグレードアップしてますからー。


もう、入居するしかありませんよね。ということで、満場一致で即入居を決めました。

ゴブ人達もこんなキレイな部屋なんて、夢のようだって大喜びですよー。


 だけど、ちょっと待てよ ! 

 24軒では、全員入れないんじゃないのかな ? 

 一部屋に5〜6人ならギリギリ寝れるかな ?

 7人は無料かな ?

 ケータたちも住んでるだろうし。すると……



「今、仲間達とマンションを作ってたんだよ」


「はっ ??? マンション ?」


「あーー ! あれあれ ! あの家のことさ !!」


ケータはそう言うと今度は、製作現場に連れて行ってくれたんだ。


素晴らしい ! ものすごく高い圧力をかけた土魔法で、土をカチカチの石のように固めて壁や床や屋根を作ってしまうんだ。こんなことができるなんて信じられなくって、凄くびっくりした。このマンションってのは土で作られてるんだね ?


もうすでに、2階建てで8部屋が並んでいる建物を2つも作っていたんだ。これだけでも32部屋。


「確か僕も土魔法を覚えたし、金さん銀さんとメイル、メイナ、ハイドも土魔法が使えたよな。それに、ボクの仲間たちは重いものを運んだり、土木作業にはお役に立てそうだ。何か少しでもお手伝いできないかな ?」


 「願ってもないな、ありがとう ! 一人一部屋を目指すとしたら、まだまだ頑張らないと…」


こうして考えてみると、何気にうちの一家は人材豊富だからね。


 ケータは丁寧に教えてくれた。

 最初はなかなか難しかったけれども、圧縮の方法を覚えてしまうと、後はスムーズにできたんだ。

もの作りってとっても楽しいね !


見よう見まねで、コタローと下っ端ゴブ人達の何人かも土魔法の圧縮を覚えてしまった。おいおいスゲーなコイツら。


ゴブ人はともかくとして、魔狼が壁を製作してるのを見ると、うわっ なんだそりゃーーーー !!! ってツッコミたくなるのは僕だけだろうか ?


だってさあ、コタローって指無いよねぇ ? あっ、一応あるか ? でも普通に考えたら4足動物が家を建ててたら、普通はおかしいよねぇ !! 3匹の子狼かよ !


まーねー、魔法で大事なのはイメージだからね。ってかおい、アイツらは何してるんだ ? 


 うわわわーー コタローが作るのを真似して、ダークウルフの連中も壁を作りだしたぞーーー !!


 怖い、怖い、怖い ! 何か頭痛くなってきたぞー !!


まあ、ちょっとした驚きはありましたが、みんなのお手伝いの甲斐があって、わずか数日で150戸分ができてしまいました。


そして、ケータの粋な計らいで、畑も開墾して農業が出来ることになったんだよね。


更に、この里にはなんと、コンビニという名の商店があったんだ。

すぐ近所に商店があって無茶苦茶助かります。


僕は前のパーティーでは素材の処理は解体から皮のなめしまで、雑用は全て自分一人でこなしていたので、森の中での暮しではとても役に立ったんだ。


だから、これまでの生活で出てきた魔物の角や牙やトカゲ革やヘビ革などは使い道が無いのでどんどん増えていって、たくさん保管してあったんだよね。


ギルドへ買取りに出せば良い値がつきそうだったのだけど、あんなに悔しくて悲しくて立ち去りたくなったあの町にはもう行きたくなかったんだ !


それらをここのお店まで持って来ると、全て買い取ってくれたんだ。

素材は山のようにあったから、皆で手分けして運んだ。

そのお金で調味料や畑の苗や種を何とか購入することができた。


ところが、100数十人が生活していく為に必要なものを揃えると、資金はスッカラカンになってしまった。僕らの群れの運営には相変わらず少しも余裕は無かったんだ。


使い魔のコイツらを食わしていくのには、いくらあっても足りやしないからね…… もっと死ぬほど頑張らないとな !


だけど森ではなかなか手に入らない野菜も売っていて便利だし、この店の店長さんはオードリーさんと言って、とっても可愛いお嬢さんだったよ。


 早速、ゴブ人達と一緒に苗と種を植えてみた。

 しかし、苗はなんとか育っていったけれど、種は芽が出たのはほんの少しで上手くいかなかった。


農業の事はケータが詳しかったので、わからないことを聞いて、何かと教えてもらったんだ。


素人には農業って難しいんだって。経験者の先輩がいて助けられた。本当にいろいろと助けてくれるんだ。そうでなければ魔物上がりの僕らはとても生き残れなかったと思うんだ。


今の僕達は食料事情が非常に厳しい。

収穫物はまだまだ実っていないから、収穫できるのもずいぶん先のことだろうしさ。

安定して得られる食べ物は何もないんだよね。


それでも僕らの戦力はかなり増強されたから、狩猟の成果は飛躍的に上がってたんだ。

ところがこれがまた、思わぬ惨事を生むことになったのだ。


狩猟はゴブ人にダークウルフが付き添って、それぞれが好きな場所で行われていた。

当然、拠点から四方八方へ幅広く点在していたんだ。

成果はぐんぐん上がったけど、その分トラブルも増えたのだ。


上位種はかなり人に近くて、良く見なければ解らないくらいだけど、8割方を占める下っ端ゴブ人達は片言の話が出来るというだけで見た目はほとんどゴブリンなのだ。


それで、森で彼らを見つけた冒険者が戦闘を仕掛けて来ることが、報告を受けただけで3回もあったんだ。


実際はもっとたくさんあるのだろうし、細かいトラブルも入れればもっと多いだろうな。

死者や大怪我が出なかったのが幸いだよね。

それは採集組も同様だった。


それで、事故を防ぐ為に長袖長ズボンを身に付けたりメンバーの中に必ずリョーマか獣人を入れるようにしたんだ。


その分、獲物は減ったんだよな。それに服は高いし中々揃えられなかったんだよね。


 全員の服をそろえるだけでも一人分で4千G(日本円で約四千円)✕100としても……

 40万Gも必要なんだ !!!!

 目が……

 目がまわってしまう !!


その上に、この日はとうとう、ショーキの町のギルドによるゴブリン討伐依頼の冒険者が来てしまったんだ !!


その数は10名。

とても厳しい戦いになりそうだ !?

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