第4話

『『『ガァルガァル‼︎』』』


 三対一、いつものいじめっ子達と同じ数だ。でも、小豹達は僕を警戒して吠えるだけで襲いかかって来ない。

 もしかすると、街からの増援がやって来るまでの時間稼ぎかもしれない。

 時間をかけて戦うとますます不利な状況になりそうだ。


「よし、逃げよう!」


 逃げると決めたら善は急げだ。小豹三匹に回れ右をして背中を見せると、両足にグッグッと力を入れて駆け出した。


「ハァ、ハァ、ハァ!」

『『『シャ、シャ、シャ!』』』


 後ろを振り返れば、やっぱり三匹の小さい豹も必死に追いかけて来ている。

 一対一なら能力的に勝てる可能性はある。けれども、三対一だと絶対に勝てない。


 右に左に森の木を障害物代わりに走り抜けて、何とか小豹三匹を引き離してみる。

 今の僕は動ける元おデブちゃんだ。森の中を華麗に疾走して追跡者を煙に巻く事が出来るはずだ。


『シャアッ! シャアッ!』

「くっ、危ないなぁー!」


 仲間二匹から離れて僕に追いついた、足の速い一匹が僕の右足にデタラメに噛みつこうとしている。

 噛まれないように躱しつつ、素早く身体をクルッと反転させて、小豹の左腹を右足で思いっきり蹴り上げた。


「喰らえ!」

『二ギャア!』


 ドォフン! と硬い布団を蹴ったみたいな感触だった。左腹を蹴り上げられた小豹は悲鳴を上げて、動きを停止させた。

 このまま追撃したいけど、追撃する余裕はないようだ。追いついて来た小豹二匹の姿が数メートルの距離に見えた。飛びかかって来られる前に僕は再び走り出した。


「150も減った」


 走りながらも初ダメージに喜んでしまう。

 ダメージ量が決まる仕組みは分からないけど、腹蹴り一発で小豹のHPが150も減った。

 小豹の最大HPが1050だから、105以下になれば友達に出来るはずだ。


 けれども、ダメージが固定式だったら、腹蹴り六発で残りHP150、腹蹴り七発で残りHP0になってしまう。これだと友達には出来ない。倒してしまう。

 でも、女神様を疑っては駄目だ。使えないスキルをお詫びに与える女神様がどこにいる。


「はぁぁぁぁっ! せい! やぁっ!」

『ニィギャァ⁉︎ フニャーッ!』


 太さ一メートル程の木の幹をポールダンサーのようにクルッと一回転して、小豹の顔面に足蹴りを一発喰らわせる。ダメージ150。

 仰け反った小豹の後頭部に更に右拳を一発叩き落とした。ダメージ150。


「ちっ……またかよ」


 どう考えてもダメージは固定されているようだ。もう三回連続で150が出てしまった。

 こうなったら倒すつもりで確かめるしかない。HPダメージ覚悟で拳と蹴りの連撃の雨を小豹に叩き込んだ。


「オラオラオラオラオラッ~~~‼︎」

『ニギャアアアアッッッ~~~‼︎』


 絶叫しながら、拳と蹴りを小豹一匹に連続で叩き込んでいく。

 薄々気づいていたけど、ダメージ150×五発だ‼︎ 倒しちゃったよ‼︎


「あの天然女神め! またやりやがったな!」


 使えないスキルを渡された僕の怒りをどうすればいいのか分からない。

 もう二度もポンコツ女神の所為で僕が死にそうな目に遭っている。


『『ガァルガァル!』』


 そして、一匹減っただけでは小豹二匹の勢いは止まらないようだ。

 僕に悲しむ時間も休憩する時間も与えずに向かって来た。


「くそっ! どうすればいいんだよ!」


 イライラしながら再び走り出すと、同じように追いついて来た小豹に足蹴りを一発喰らわせた。

 逃げながらも着実に一撃離脱でダメージ150を与え続けていく。


「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ、やっぱり固定ダメージかよ」


 なんとなくだけど、あのルミエル様が使えない神様だと確信した。

 北斗の拳式サンドバッグに、転生先は敵地のド真ん中だったし、トドメに今使えないスキルを渡された。


 小豹と友達になるには、ダメージ量を変えるしかない。ダメージ量が変化するのは、レベルアップか武器を手に入れるしかない。

 友達に出来ないと諦めて倒すにはまだ早過ぎる。とりあえず木の棒が落ちていたら、それを使おう。

 まずはもう一匹倒して、安全に一対一で試してみないと……。

 

「中段蹴り!」

『二ギャアッ!』


 右足中段蹴りが小豹の左頬に直撃した。

 HPが0になると、小豹は電池が切れたようにその場にフラフラと倒れてしまった。残りは一匹だけ。木の枝がないなら、石ころでも拳に握れば、攻撃力がアップするかもしれない。

 こうなったらヤケだ。思いつく方法は全部試してやる。


「よし、あの枝ならぶら下がれば折れそうだぞ!」


 小豹から逃げながら折れそうな木の枝を見つけたので、ぶら下がってボキィッとへし折る。

 木の枝の長さは百五十センチ以上、太さは六センチ前後、攻撃力は不明だ。


「ハッ! ダメージ量を減らした方が確実じゃないか!」


 木の枝を持った瞬間に衝撃の事実に気づいてしまった。

 一回でもダメージ150以下を与える事が出来れば、あとはダメージ150を与え続ける。そしたら、残りHPを十パーセント以下にする事が出来る。


 閃いたらやるしかない。小豹の噛みつき攻撃を躱して、躱して、躱して、後ろ足を爪先でチョンと軽く蹴った。ダメージ0だった。

 手加減した攻撃はダメージ0になるようだ。

 本気の攻撃じゃないとダメージが与えられないなら、攻撃力を低下させるか、相手の防御力を上昇させるしかない。

 もう試していない方法は残り僅かだ。まずは防御力を上げる方法から試してやる。

 

「やってやらぁー!」


 走りながら長袖シャツを脱いだ。鍛え抜かれた腹筋は見えないけど、ペタンコ腹なら合格だ。

 ファンタジーゲームの世界なら、服にも防御力がある。それがファンタジーの常識だ。

 この服を小豹の頭に被せて、頭を攻撃すればダメージが減るはずだ。絶対にダメージ量は1ぐらいは減るはずだ。

 

「かかって来い!」

『シャアッ!』

「ふん! 捕まえたぞ!」

『ニャア⁉︎ ニャア⁉︎』


 噛みつき攻撃を躱して、小豹の頭にシャツを被せてやった。ワイルドダークエルフを舐めるんじゃない。

 左腕で小豹の首を素早くヘッドロックすると、右手の拳を握り締めて、暴れる小豹の左頬を全力で殴った。ダメージ120だ。

 予想的中だ! 勝負を決める為にシャツのない胴体を連続で殴り続ける。ダメージは150だった。

 防具がない部分はダメージは軽減されないようだ。ならば、やる事は一つだ。

 右脇を締めて、強烈な右フックを小豹の左腹に叩き込み続けた。


「せいやぁ! せいやぁ!」

『二ギャアァァァ! ニギャアァァァ!』

「よし、残りHP30だ! スキル『魔物友達化』‼︎」

『ガァルガァル⁉︎ ガァルーーーーー⁉︎』


 残りHP30。魔物友達化の条件である残りHP十パーセント以下になった。

 小豹の背中を右手手のひらで触れて、スキルを発動させると、全身がピカピカと光り輝き、声を上げて苦しみ始めた。

 これで友達になる確率が一割で、スキルが使えるのが一匹一回限りだったら、本当に使えないスキルになる。


『……ガァルガァル♪』

「これは……?」


 光が収まると小豹は暴れるのをやめて、途端に大人しくなった。

 鳴き声も硬い感じから柔らかい感じに変化したような気がする。

 とりあえず小豹のステータスを確認してみよう。

 

【名前=小豹。種族=怪猫族。

 レベル=1(最大レベル10)。次のレベルまで経験値0/45。

 HP=30/1050。MP=106/106。

 腕力=35。体力=67。知性=31。精神=29。

 重さ=普通。移動速度=少し速い。

 状態異常=強制友達化】


「……強制なんだ」


 強制でも友達になった事は間違いない。

 問題は友達になったとして、何が出来るかだ。


『おめでとう、ひでぶぅ。人生最初の、うううん、異世界最初の友達だね』

「うわぁっ⁉︎ ああっ……女神様か」


 突然、女神様の声が頭の中に聞こえてきた。ビックリしたけど、なんとなくパターンが分かってきた。もう次は驚かない。

 女神様はピンチ前とピンチ後に現れる。ピンチ中には助けに現れない。そういう人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る