第9話

 どんな提案が来るかと思えば……。

 全くもって嘆かわしい。それも交換条件付き。


 昨日、有菜が言ってたネトラレフラグはもっとこう……俺の根幹の問題というか、量より質というか。


 ま、ここは即答してあげよう。


「なるほど、嫌だな」


「えぇっ!? なんで!」


「いいか? 理由その1、俺はコミュ力がない。

 その2、相手は男になる、よってかもしれない。

 その3、有菜の場合、量が多すぎる。

 以上だ」


 こんなアメリカでも顔真っ青な不平等条約に誰が頷くんだ。

 本当はもっとあるが、とりあえず3つにまとめたんだぜ。


 理由と一緒に指を順番に立てていった。3本ともピンと有菜の方を向いている。

 すると、彼女も負けじと同じジェスチャーをしながら言う。


「提案の理由、その1、勇緒はコミュ力がない。

 その2、相手は女の子になる、よって勇緒はフラグを折りきれない。

 その3、勇緒の場合、誘ってくる女の子のキャラが濃すぎるはず。

 以上よ」


 ぐぬぬぬ。

 1番を被せに来たあたり、痛いところをついてくる。

 何も言えねぇ。


「………………」


「本当はもっとあるんだけど、これでも3つにまとめたんだよ」


 ちくしょう。俺の最後の砦さえも先に使われてしまったようだ。

 有菜は朝から俺を待ち、用意周到なシミュレーションを重ねていたのかもしれない。

 彼女の成績は学年で1位、2位をうろちょろしている。


 こうなってはしまえば最後、根暗でゲームをしているだけの俺がディベートで勝つなど不可能。



「はぁ……解ったよ。でもどうやってお互いのフラグを折っていくんだ。

俺は昨日のヤツ一本だって折れてないんだぞ」


「それはじゃん」


「うっせ。マジでどうやるんだよ」


「勿論、幼馴染パワーで」


「無理があり過ぎるだろ」


 彼女は力強くサイドチェストをしながら、幼馴染パワーとやらを表現しているが、全然頼りにならない。


 金髪でピアスを開けたそこそこのイケメン君が有菜狙いだとして、俺が「彼女と幼馴染なんです」と言っても何も通用せんだろう。


 そんなことを思っていると、目的地の学校が見えてきた。


「そろそろつくからこの話はやめにしよ」


「あいよ。そういえば今日、だったな」


「うわぁ……ほんっと次から次へと」



 ▽ ▽ ▽



 クラスの席替えにより、俺と有菜の席順は一番遠くになった。教室に対角線を描くように一番前の窓際の席と廊下側の最後の席。


 有菜が後ろで俺が前だ。

 もうこれ、呪いの類じゃないだろうか。怖すぎるだろ、NTRノートさんよ。


「よっす! 隣になったね吉野くん!」


「あ…………あ、うん」


 はい、コミュ障発揮である。


 急に女子クラスメイトに話しかけられるなんて無理だから。


 彼女は陸上部の三条さん。ノートに名前があった。つまり、ただの女子クラスメイトではなく────である。


 活発、元気、華蓮、そんな言葉が似合う女の子。

 赤髪のショートヘアでスレンダー体型。


 放課後、元気にグラウンドを走っているらしいが、俺はすぐに帰るのでその有り様を知らない。

 それでも獣共のギャラリーが吠えていることは容易に想像できる。


「昨日、有菜と一緒に帰ったんだってね! クラス中で噂になってたよ〜!」


「そ、そうなんだ~」


 元気が有り余っているようだ。声が大きい。


 現在一限目、数学。担当は西京さいきょう先生。

 あと数秒で目の前の西京先生に注意されるだろう。とってもユーモア溢れる好きな先生なんだけどな。


「聞くところによると、ホテル街の方に行ったのだとか!?」


「………………」


 まずい、早くコイツをなんとかしないと。


 後ろを振り向かずとも背中に伝わる殺気。

 大勢の野獣、男子諸君達のものだ。


 誰からそんなこと聞いたんだよ全く。



 これ以上続くのは危険極まりない。もういっそ注意してくれませんか、西京先生。



 目の前の西京先生に目配せしていると、やっと目があった。どうやら助け舟を出してくれる様子。


「いいか、お前ら! ラブホテルの数とデキ婚の数には相関関係がある」


「ぶっ……!?」


「得意科目と年収の相関関係もあるぞ! 一番年収が上がるとされる得意科目。それは────だ! よし、じゃあ授業を再開するぞ」


 シーン、と場が静まり返る。

 一瞬ラブホテルとデキ婚の話で沸いたクラスのみんなもテスト期間の緊張感を取り戻したようだ。

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