第5話

 青野さんの爆弾発言により、俺の足は有菜に踏み抜かれた。

 既に靴の耐久力は0を下回ったようだ。次にHPが直接削られるが、そもそも帰宅部なんだ。鍛えていないし痛過ぎる。


 そして────『isaomanいさおまん』、このクソダサい名前は正真正銘、俺がオンラインゲーム『コルネット』で利用しているニックネームに他ならない。


 軽くホラーである。何故わかったのか……。

 昨日、確かに『isaomanいさおまん』は『aoringoあおりんご』というフレンドと結婚した。

 青野さんの発言から察するに、彼女は『aoringoあおりんご』なのだろう。青野凛あおのりん、この本名から考えても簡単に辻褄が合ってしまう。


 つまり今、目の前にいる可愛い後輩、青い美少女は俺の────であると。


(…………え、ネカマじゃなかったの)


 ぽつりと、誰にも聞こえないように呟いてしまった。これは本心である。

 もう情報量が多すぎてついていけない。頭は真っ白、思考停止。

 隣を見ると俺の足を踏み抜いた有菜も固まっているようだ。


「「………………」」


「あぁ、えっと……違うんですか? イサ、isaomanいさおまんじゃない……の?

 オンラインゲームをしてませんか? コルネットっていう……」


 青野さんは今でも泣きそうな顔を浮かべて聞いてくる。

 そのと表情に、心が痛くなる。俺も泣きそう。


 どういう態度を取るべきなのか。隣には幼馴染の有菜もいる。


 よし、ここは弁解の為にもあえて白々しく行こう。青野さんには聞きたいこともあるし。



「────えええええ!? 勿論してるよ! もしかして、aoringoあおりんご

 ネカマじゃなかったの!? というかなぜ俺がわかったんだ」


 オーバーリアクション気味の俺に、ぱあっと表情を明るくさせる青野さん、もとい『aoringoあおりんご』。

 有菜は俺たち二人の関係があくまでゲーム内ということに満足したのか、やっと俺の足からローファーを退けてくれた。

 ふぅ、と安心したその瞬間。


 ────ドンッ。


「いっっっっっってえええええええええええ」



「ちょっと! 何するんですか先咲先輩!」


 ごめん、本当に悪かったよ有菜。

 有菜に百合展開と言いながら、俺はオンラインゲーム内で男だと思っていた人とバーチャル結婚してました。

 そしてなんと女の子でした。紛う事なき美少女です。

 私めも吃驚しております。


「幼馴染としてのスキンシップだよ。だって、ここはだもん」


 完全に笑顔で喧嘩を売っている有菜。

 おいおい、冗談じゃない。そんなスキンシップ聞いたことないって。


 すると青野さんは俺達が座っているテーブル席の俺側に来て、空いていた隣の椅子に座った。

 俺と青野さん、正面には有菜の2対1の構図だ。


「ごめんなさい、イサ。こっちでは回復魔法を唱えてあげれなくて」


「い、いやぁ……」


 イサ、この呼び名はコルネット内での俺の愛称。

 流石にisaomanでは呼びにくいからな。ダサいし。

 一方の青野さんは、向こうではアオと呼んでいた。

 ちょっと恥ずかしいけど、向こうも「イサ」と呼んでくれてるんだし、「アオ」と呼ぶべきだろうか。


 俺たちのやりとりにピクリと眉をひそめる有菜。その顔は少し寂しそう。

 俺の隣にアオがいるのでは流石の彼女も足を踏めないようだし。



「これがNTRネトラレノートの力……って────おかしくない? だって凛ちゃんはゲームの中とはいえ、勇緒のなんだよね?」


「そうですよ、先咲先輩」


「……ふ〜ん、そっかそっか」


 急に余裕を取り戻した幼馴染の有菜。

 一方、俺のネット嫁、アオは旦那の名前がNTRネトラレノートに書かれていることをまだ────知らない。



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