クリスマスに坊主に神社…とな。

今日は6月28日、織田信長が家に来てから1週間が経つが、僕はもう彼がいる生活にすっかり慣れてしまっている。



朝起きたら彼にスマホを渡し、お母さんに多めによそってもらったご飯を少し食べた後、彼のいる2階の僕の部屋に持っていき、後は彼が外出しないように勉強しながら見張っておく。


こんな感じのルーティーンが僕の中で形成されていた。


流石に学校に行っている間は彼を見張ることは出来ないので、勝手に何処かに行っていないかと学校にいる間そわそわしている。


けれど、今のところは大丈夫なようだ。



ちなみに彼はどこで寝ているのかと言うと、


僕の部屋のクローゼットである。


元々僕の学校の制服や部屋着が入れてあったものをどかして、そこに布団を敷いて寝るスペースを作った。


まるで某猫型ロボットのようなスタイルだが、彼に不満はないようだった。


むしろそこにネットで印刷したプリントなんかを貼ってカスタマイズしていた。


プリントには『天下布武』と書いてあった。




今日も彼は僕のスマホをいじってゴロゴロしているが、今日はなんだか物憂げな様子だった。


「はあ〜」


彼が大きなため息をついた。


「信長様、どうかされましたか?」



「いや何、やっぱり暇じゃな〜って思っての」


「…申し訳ございません」


「外でたいわ〜、外」


「いや外に出るのはちょっと…人目もありますし」


「それはわかってるんじゃがの〜、それに毎日毎日こうしてスマホをいじってダラダラしているのは、お前の時代じゃとニートと言うんじゃろ。織田信長がニートってのもの、ちょっとなあ?」


「それは確かにそうですが」



ニート、などと言う言葉をいったいどこで覚えたのだろうか。



確かに、織田信長がニートというのはちょっとおかしいと僕も思った。



もう1週間も経つし、ずっと家の中にいさせるのは限界だろうか。


そろそろ何か外に出ても大丈夫なような策を考えたほうがいいかもしれない。



「のう大河〜何か面白いことはないのか〜」


「僕に言われましても…」


面白いこと、と言われても僕も彼が家に来てから心配で学校以外は外に出れていないため、遊びなどは何も出来ていない。



「なんか行事とかだったらこの時代にもあるじゃろ」


「行事、ですか。今はまだ6月ですし、ハロウィンやクリスマスはまだまだ先ですね。」


僕がそういうと、彼は何かに反応したようにピクっとした。


「…お主、今クリスマスと言ったか?」


「はい。それがどうかしましたか?」



「…懐かしいのう」



「え、懐かしい、ですか?」


「ああ、なんじゃ知らんのか?」


「えっと…何をですか?」


「ワシ、クリスマスをやったことがあるのじゃよ」


「…本当ですか?」


戦国時代にクリスマスなどあっただろうか。


「ああ。ワシの国に来ていたキリスト教の宣教師のフロイスからクリスマスなるものがあると聞いてな、せっかくだからやってみようってことでやってみたのじゃよ」


この人ホント行動力が凄いな。


なるほど、キリスト教の宣教師から聞いたのか。



「フロイスの言うことにはこの日はめでたい日であるというからな、やはりこの時も裏切っていた戦っていた久秀と話し合って『クリスマス休戦』したのじゃよ。そして家臣たちとパーティーじゃ」


「久秀さんもなかなかにすごいですね」


「ああ、あいつも頭イっちゃっておるからの」


第六天魔王とボンバーマンはやはりこの時代においても他の人たちとは違う何かがあるのだろう。


「ちなみにイルミネーションもやったぞ」


「イルミネーションもですか?」


「ああ。フロイス国にが帰る時にな、家臣たちに言って安土城をライトアップさせたのじゃよ」


「フロイスさんもびっくりでしょうね」


「ああ、あいつの驚いた顔は面白かったぞ」


キリスト教の宣教師を受け入れたことだけでもすごいが、相手の国の文化をすぐに取り入れてしまうのはさすがとしか言いようがない。



「まあ、それはいいとして…大河、お前はキリスト教信者なのか?」


「どうしてですか?」


「だってクリスマスをやっておるのじゃろ?ワシの時はまだキリスト教も伝来したばっかじゃったから試してみただけじゃが」



「クリスマスはやっていますが、別にキリスト教信者ではないですよ?」


「え?」


「え?」


「じゃあやはり仏教徒か?」


「いえ、違いますよ」


「じゃあ、お前の信仰してる宗教は何なのじゃ?」


「宗教ですか?特にありませんけど」


「え?」


「え?」


「じゃあ葬式はしていないのか?」


「いえ、うちの親族はお坊さんを呼んでやっていますよ」


「でも、仏教徒じゃない?」


「はい」


「神社は?」


「行きます」


「でも神道じゃない?」


「はい。っていうか今の時代の日本人は大体そうですよ」


「え?」


「え?」



「じゃあお前たちは信仰していないのに、クリスマスをやったり葬式に坊主を呼んだり、神社へお参りに行ったりするのか?」


「はい」


「…変わっておるの」


「そうですかね?まあ、言われてみればそうかもしれないですね」


「僧やキリスト教徒たちは怒らないのか?」


「怒らないか、ですか?なんかもう当たり前になっちゃったので、怒る人は見かけませんね」



「マジか〜。じゃあワシが比叡山を燃やしたり僧たちとバチバチにやりあってたのが馬鹿みたいじゃん」


「…そうかもしれないですね」


「ワシだって別に比叡山を燃やしたかったわけじゃないし、僧たちと争いたかったわけじゃないんじゃよ。でも、あやつらがワシの天下布武の邪魔をしてくるから仕方なくだったんじゃよ。それなのに第六天魔王とか呼ばれちゃってさ〜、まあカッコいいからいいけど。」


「だから逆にキリスト教には優しくしたんですか?」


「まあな。僧や仏教徒との争いは増すばかりじゃったが。それでお主らの時代になったらいい感じに柔和されておるのじゃろ?」


「ええ」


「いや本当に、ワシらの時代では考えられないことじゃからな」


他宗教同士が争わないのは確かに凄いことなのかもしれない。


「それでそこらへんの宗教の面白い文化だけをお主たちは良いとこ取りしておるのじゃろ?」


「そうなりますね」


「いいな〜ワシもそうすればよかったな〜。でも僧たちはワシのことをぶっ殺そうとしておったからな〜」


確かに、いきなりどこから来たかも分からない宗教を保護して自分たちは排除しようとしてたら仏教徒の人も怒るよな。




「そうか、お主たちは争うことなく良いとこ取りして楽しむことができるのか…良い時代じゃな」


「…そうですね」


彼からしたらすごいことなのだろう。


彼は少し嬉しそうな顔をしていた。




「ところで信長様」


「なんじゃ?」


僕は彼にずっと気になっていることを聞いてみた。



「ニートという言葉は知っておられるようでしたが、ネットで調べたのですか?」


「ああ、ゲームで他の者どもが話していて気になったからな」


「よくネットで調べ物をされているのですか?」


「まあ、多少なりとはな。基本的にゲームのことじゃが」




「では、『』も調べられたのですか?」


僕は彼が自分についても調べているのだろうと思っていた。




「…いや。」


「調べないのですか?」


「ああ。」


「それはどうして…」



「つまらないからじゃ」


「つまらない、ですか?」


「ああ、つまらん。よく考えてみろ、もしお主がこれから先の自分に起こることを知っていたら。面白いか?」


もし自分に起こることを知っていたら…誰と出会って、どんな仕事に就いて、誰と結婚して、いつ死ぬのか。


それが全て分かっていたら、僕は…


「…つまらない」



「そうじゃろ」


「はい」


「だからワシわワシのことは調べん」





彼はきっと戦国時代に帰った後も己の身を信じて突き進んでいくのだろう。


それが『織田信長』なのだから。

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