第六話 月の光

次にヒューゲルは右の人差し指に刃をかける。


先程とは対照的に、ゆっくりとじわじわ指の肉にめり込ませて行く。


「知っているか東洋人、こうするとさっきの比じゃないくらいに苦痛が増幅するんだ、さぁもう一度聞くぞ、少年を知っているのか?言わないと全ての指を切り落とすまで続けるぞ」


ヒューゲルは無機質なポーカーフェイスを崩し、口元に笑みを浮かばせた。


コイツは俺が少年を知っているのかなんてどうでも良いんだ、ただ拷問で苦しむ人間が見たいだけなんだ。


常識の通じない狂った人間を目の前に、先程まで強気だった坂崎は死ぬほど恐怖した。


「し、知らねぇよ…」


壮絶な痛みと共になんとも形容しがたい刃が骨にかかる音が聞こえる、ヒューゲルは躊躇なく指を切り落とす気でいる。


「ふむ、そうか、二本目だ」


「ぐぁァァァァァァ!!!」


―――――――――――――――――――――


…あれから何分、いや何時間経っただろうか。


あまりの苦痛にその後の事はほとんど覚えていない、知りもしない少年の事をあの後もひたすら聞かれ続け、その度に指を切り落とされていた事だけは覚えている。


月の光が窓から坂崎に差す。


視線を手元に移す、右の手指だけではなく、左も、計10本全ての指が第二関節から綺麗さっぱり切り落とされていた。


「ぁぁぁぁぁぁ…」


不思議ともう痛みは何も感じない、どうしてか出血もそこまでひどくはない、坂崎の頭の中にはただひたすらの恐怖だけがあった。


もう、PCに文字を打ち込むことも飯を食べる事も出来ないのだ、坂崎の目からは涙がこぼれ落ちる。


「ハハッ、ここまでやっても吐かないとはな、本当に知らないと見える」


「だ…だから、本当に…知らない…です」


「そんなに怯えるなよ!お前が死なないように止血も済ませておいたんだぞ、感謝の言葉の一つくらいは欲しいな」


髪をかき揚げ笑いながらヤツは言った。


もう拷問される指はない、きっと解放されるだろうと思っていた矢先、ヤツは言う。


「これで解放されると思ってるんだろう」


「え…?」


「この国には秘伝の回復魔術がある、そいつはどんな怪我でも直しちまう、たとえ目が無くなろうが、…指がなくろうが元通り」


大人しく隅に座っていたアーダム少尉のかつて耳があった部分にヒューゲルは触れた、暖かな緑光が触れた手から発せられる。


数秒それが続くと、患部はすっかり元通り、坂崎が確かに食いちぎった筈の耳は確かに再生されていた。


「そんな…」


「今からコレをお前にも使うぞ、お楽しみはこれからだろう?先程の威勢はどこへ言った?ほら、笑ってみろ」


「うぁぁぁぁ!!!助けてくれぇ!やめてくれぇ!」


すっかり怯えきった坂崎の口からは情けない哀願の言葉しか出てこなかった。


ヒューゲルが近付いてくる、治される、治されたらまた切り落とされる、これの繰り返しをヤツが飽きるまで続ける気だ。


必死に逃げようともがくが、やはり拘束は解けない。


「いやだ、イヤだやめてぇぇぇぇ」


その時、外から大きな爆発音が聴こえた。













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