第二話 更なる地獄へ

 何かが焼けた様な刺激の強い悪臭と肌を突き刺す様な熱さで目が覚める。


「…ッ!ここどこ…てか熱ッ、なんだよ…っ!?」


 周りを見渡すと、そこには一面の焼け焦げた家屋と黒く炭化した沢山の死体があった。


「ヒィ!うわあああ…!」


 凄惨な光景を目にしたショックで気が動転し坂崎は一目散に走った。


 しばらく走ると川に出る、もう喉がカラカラで、肺から血の味がする程に疲れ切っている坂崎は川の水を両手一杯に掬い、その口に流し込む。


「ゴクゴク…ッ!ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」


 あまりの水の不味さに咳き込むが、少し落ち着いてきた。


 一体ここは何処だ?どうやってここまで来た?少し前の出来事を思い出す、そうだ、自分はトラックと正面衝突して…


 …。


 死んだ。


「俺は一体どうなって…」


「そこのお兄さん、大丈夫?」


 背後からの声に驚き飛び上がる。


「フェあ!」


 振り向くと、そこにはブロンドヘアーの少女が立っていた。


「いや…大丈夫…じゃないっす」


「あら、素直なお兄さん、これ飲んで、川の水は危ないから」


 手渡されたのは水の入った木製の水筒だった、中に入った水を精一杯喉に流し込み、ものの数秒でカラにする。


 身体の細胞中に水分が行き渡り、正に生き返ったという感じだ。


「いい飲みっぷりねお兄さん」


「ああ、どうも?ところで君は…」


 色々な事が同時に起こって気づかなかった違和感にようやく気づく。


 この少女は明らかに外国人だ、服装も現代って感じじゃなく民族的だ。


 なのにどうして会話が出来る?


「日本語、上手いね」


「ニホンゴ?どこの言葉かしら」


「え…だって今君日本語で」


「?お兄さんこそチェインヴェルト語が流暢ね、東洋人なのにすごいわ」


 チェインヴェルト?何処だそれ?


 英語もマトモに話せない俺が何処にあるかも分からない異国の人間と会話が出来ている…?


「うーん、お兄さんかなり疲れてるわね、とりあえずここにいたら危ないわ、ついてきて!」


 少女が手を引く。


「あ、ああ…」


 少女の半ば強引な誘いに乗り、ついて行くと一軒の家屋の前までやってきた。


 他の家と違いまだ無事なようだった。「ちょっとまってて」と俺に合図をし、少女は家の中に入った。


 しばらくすると、ガチャリと扉が開き、中から少女と共にエプロン姿の女性が出てきた。


「この人は大丈夫、こっちの言葉も話せるし、他の東洋人みたいに野蛮でもないわ」


「あの…ども…」


「中に入っておいで」


 母親はすんなりと俺を受け入れ、家に招き入れてくれた。


 …他の東洋人が野蛮?そんなにこっちじゃ評判が悪いんだろうか…。


 家の扉を開けてすぐにリビングがあった、暖色の木材で出来た昔ながらの西洋の家 と言った感じだろうか。

 ハリー〇ッターの談話室の様な雰囲気で、壁には鹿の様な動物の剥製が飾ってある。



「ごめんねぇ、寒いでしょう?」


「い、いえ…大丈夫っす」


 暖炉の火は消えており、代わりにそこら中に蝋燭が灯されている。


「お母さん、納屋から替えの蝋燭とってくるね」


「暗いから足元に気をつけなさいね」


「はい お母さん」


 少女は古びた鞄を手に取り、外に出ていった。


「あの…ちょっと聞きたい事が…」


「どうしたの?」


「さっき…娘さんが東洋人の事を野蛮だって言ってたんですが…」


「悪い人ばかりじゃないと思うんだけどねぇ〜、10年前に東洋の大陸国家が崩壊してから、ずっーと内乱が続いてるから…」


 内乱 大陸国家が崩壊???


「えーと…国の名前ってのは…」


「"ニッテン"だったかしらね…」


 確信した。ここは俺の知ってる世界じゃない…ニッテンなんて国は知らないし、そもそも言葉が通じる時点でおかしかったんだ…。


















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